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6 高潔な学生


「イジメはあったんだ……」

 誰かが呟いた。

 39人のクラスメイトが、それぞれ林場のイジメられていた過去を思い出していた。 みんな、激しい怒りと、イジメを防ぐことをできなかった自らの不甲斐無さに、身を震わせていた。

「なぜ公表しなかったのかしら……?」

 悔し涙を目に浮かべた夏川が発言する。

「公表? 先生どもに言ったところでムダさ。イジメはなかったことにされるんだ」

「でも、イジメられているところを録音すれば、決定的証拠になるじゃない」

 夏川の言葉に、クラスははっとした。

 自衛のために、小型で高性能なボイスレコーダーを身につけるということが、ここ駒岐県立六小でも行われ始めていた。

 イジメられっ子は、レコーダーを秘め、イジメられながらも自信に有利な証拠を集めているのだ。さながらジェイムズ・ボンドの世界のエージェントである。

 『学校安全』という名の専用レコーダーまで発売されていて、購入するのに学割が利いた。


 さらに、今時はスゴいのがあるらしい。胸元から覗くペンや服のボタンに偽装した、全方向型の高性能カメラで、長時間にわたる詳密明快な映像を撮影できるのだ。

 こういったものは、つい最近、アメリカのオクラホマ州の重犯罪刑務所で暴行事件の際に事実関係の確認のために大量に設置されたのが初めてだが、時同じくして、日本の学校でも積極的に取り入られ始めていた。


「バカな! 証拠集めのアイテムを装備するより、イジメを撲滅するクラス作りをするのが先だろう!?」

「需要があるんだよ……。イジメをなくすのは難しい。録音は簡単だ。それをおかしいとも思わない社会になってしまっているんだ」

 佐賀が義憤に耐えない口調で言った。

「だが、林場はそれをやっていなかった……。親にも、先生にも言いつけず、ただ一人で耐え忍んだんだ……」

 青山が、震える声でみんなに伝えた。

 それが意味することが、みんなに広まっていく。

「彼は、調和を重視したんだ」

「素晴らしいことだよ。彼は高潔な男だと思っていたんだ」

「和の心を今なお失っていないのよ」

 生徒たちの口から、林場を称える言葉が続く。

 もはや、林場はイジメられっ子ではなく、殉教者となっていた。

「みんな……! 林場に手をさしのべなければならない! このような素晴らしいクラスメイトを救わないことには、つばき組の名が廃るというものだ!」

 佐賀が立ち上がって呼びかける。

 みんな、力強く頷いた。

 強い意志の光が、みんなの眼の中に浮かんでいた。見事なほど、つばき組の気持ちが、一つにまとまっていた。

「行こう、林場の家へ。林場には何一つ強制しない。ただ、僕たちの声を伝えたい。彼は登校を拒否したが、つばき組に彼のことを悪く言う者など、一人としていないことを

 つばき組の生徒たちは教室を後にして、林場の家へと向かった。



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