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4 イジメの疑い

 先生は、39人のつばき組の学生の冷たい視線に迎えられて、後ずさる。

「先生、議事進行妨害はやめてください。僕たちは大事なことを話し合っているのです」

 佐野が冷めた声で言う。

「莫迦野郎! 成績より大事な何があると言うんだ!」

 高原先生は教壇を平手で叩いた。

「林場君が欠席をしているのです」

「去年の進学率がどうなっているのか分かっているのか!? たった一人休んだことぐらいなんだ! とにかく、死ぬ気で勉強するんだ! 休む奴なんて、この受験戦争を勝ち抜くことはできない! そんな奴は見捨てて、勉強しろ!」

 高原先生は唾を飛ばして怒鳴る。

 だが、生徒は誰一人、賛同の表情を見せなかった。

 つばき組に、クラスメイトを見捨てるという考えはないのである。


「イジメがあったのかもしれない」

 ぼそりと青山が呟く。

 どこからそんな考えが浮かんだのか分からない。

 だが、それは青山の口をついて出た。

 先生の目が見開かれ、殺気とパニックを帯びる。

「今、言ったのは誰だ!」

 先生はヒステリックに喚いて、教室を見回した。

「駒岐県立六小にイジメなんて存在しないんだ!」

「イジメか……」

「理由もなく林場君が欠席するはずがない」

「イジメだったんだよ」

 先生の威勢に関わらず、生徒たちはイジメという可能性に染まっていく。

「イジメはないっ! イジメはないんだ!」

 先生は手足を振り回して怒鳴った。

 だが、時すでに遅し。クラス中の生徒が、イジメについて考え、意見を交えている。

 いや、学校中の生徒、世界中の人間がイジメを口にしている。

 高原先生の脳裏に様々なビジョンが飛来した。新聞の第一面に載る学校名。校門前に押し寄せる取材の車。電話回線とメールをパンクさせる抗議電話。記者会見で深々と頭を下げる校長。

 先生の膝ががくがくと震え出す。

 クラスでイジメが起こったという事実は、先生のキャリアの破滅のみならず、人生の破滅を意味していた。

 中年の教員には、それに対処する気力も覚悟もなかった。

「わあああ!」

 ただただ悲鳴を上げて、この場から遁走する他、できることなどなかった。


 廊下に反響する先生の悲鳴が小さくなっていく。

「ああいう大人にはなりたくないものだ」

 侮蔑を含んだ声で佐賀が吐き捨てた。

 そして、生徒たちは気を取り直して、イジメ問題に向き合った。


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