2 病気
学生たちは頭をひねった。
教員に尋ねるという考えは、端からなかった。
教員のことだ。きっと何か言葉を濁して、真実は伝えないに決まっている。
つばき組の学生は、とうの昔に教員を見限っていた。
「では、林場の奴、病気なのかな?」
利根という男子が口にした。
だが、青山は、それにも首を振る。
林場は頑健な奴だ。
一年生の時から一日も休んだことがなかった。ずっと皆勤賞だった。
水疱瘡や三日はしかに罹ったときですらケロリとした顔で登校していた。
そんな林場が風邪で休むとは思えない。風邪で休むにしても、学校に電話で一本ぐらい連絡を寄越せるはずである。
「もしかしたら、顎関節症かもしれない」
青山が暗い声で発言する。
その声が含む不吉な響きに、クラス中のみんなが青山を注視した。
「何だって?」
「顎関節症だよ」
青山の顔が苦悩に歪む。この病にはトラウマがあった。
それでも、青山は、クラスのみんなのために、顎関節症がどのようなものか説明を始めた。
青山の叔父に青山代兵衛という者がいて、これが顎関節症にかかっていたのだ。
それは、もう、酷いもので、顎を動かすだけで痛い、頭も痛い、眼の焦点も合わない、といった具合であった。
彼は治療に専念するために学校を辞め、仕事に就かなかった。
こうして一生を治療に費やすようになったが、決して治ることがなかったのである。
青山代兵衛は、青山が三年生の時に、非業の死を遂げていた。しかし、叔父が晩年にあげていた恐るべき呻き声は青山の意識にこびりつき、離れない。
青山の説明によって、つばき組はこの病気を完全に理解した。
「私も顎関節症についてのテレビを見たことがあるわ。最近の小学生にも多いと言ってたわ」
夏川が立ち上がって言う。
本間も負けずに発言した。
「俺も見たことがある。顎関節症はストレスで悪化するんだってよ」
ストレス……!
その一言で、つばき組に電流が走った。