サヨナラ
「大丈夫よ お願い」
そう言って 痩せた 左手を差し出した
僕は左手を掴み 母さんの上半身を起こした
すると 一息吐いて 話し始めたのでした
「薄々気付いてると思うけど 私は公太の本当
の母親じゃないの」
やっぱり だけどそれは言葉にならなかった
すると 続けて 話し始めた
「神社に捨てられた私は 食べる物も無くて
もうダメだと 思っていたの」
「そんな時に公太が現れて 私にパンをくれた
それが 私を救ってくれたのよ」
幼い頃から 怖くて聞きたくても聞けなかった
事が 今 母親と名乗った女性の口から 事実を
聞かされて 僕は呆然としていた
「本当にそうなの?」
何故か分らないが コロなの?と言えなかった
そう思いたくない 自分が居たのかもしれない
そんな僕の思いとは 裏腹にコクリと頷いた
「騙すつもりは なかったの ごめんなさい」
そう言って 俯いた
「騙されたなんて 思った事は一度もないよ」
顔を上げた彼女の目には 涙が溢れていた
「有難う でも そろそろ時間みたい」
「時間? 何の時間?」
「公太が二十歳になれば この命を土地神様に
捧げる様になってるの」
「ど どうして?」そしてハッと気付いた
「ひょっとして 僕の為じゃ???」
するとニコッと笑って 僕の頭を撫でた
その瞬間 僕の目から涙が零れ落ちた
そして僕の頭を撫でた母さんの手が消えた
「あああっ!!」僕は思わず叫んでいた
「今まで 有難うね」
僕はまだ残っている体に抱きついて叫んだ
「待って!恩返しもまだなのに まだ 何も」
だけど僕の思いは届かず 体は消えて僕の両手
は空を切った
「待って 母さん!」僕は そう叫んでいた
すると 初めて母さんって呼んでくれたわね
と 頭の中に声が響き渡り 僕の頬に涙が一雫
落ちて来た サヨナラの言葉と共に・・・
僕は空を切った 両手を握りしめて ベッドに
うずくまり 泣いたのでした




