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短編集

イチ足りない!

作者: 御影京輔

リハビリ的短編です。

連載予定はないですが、気が向けば連載するかもしれません。

拙い処が多いと思いますが、宜しくお願い致します。

「ヤマトちゃん!!」

 そう言って俺目掛けて飛び込んできた幼馴染を茫然と受け止めた。

 何故、どうして

 そんな言葉ばかり頭の中を巡り巡る中、ふと気付く。

 華奢な腰、甘い匂い、二つに結われた亜麻色の髪、胸板に押し付けられた柔らかな感触。

 おいぃぃぃぃ!!お前、なんで女になってんだ!?




イチ足りない!




 俺の名前は榊・大和。どこにでもいる平凡な男子高校生だった。

 何で自己紹介風な出だしで独白なんかしてるのだろうと自分でも思わなくもないが、とりあえずこういった事はお約束なので、それに従ってみようと思う。

 さて、前述で「だった」などと述べている通り、現在の俺は男子高校生なんてものではなく、というか高校なんてモノがそもそもないのだが、とにかく平凡な男子高校生ではない。

 それは何故か。理由は簡単。死んでしまったからである。

 ある日の放課後、いつものように幼馴染(男)と一緒に寄り道しつつ下校していた時の事だ。

 猛スピードで幼馴染(男)目掛けて突っ込んでくるトラックから幼馴染(男)を守り、切った。そう、守り切ったのだ。というか幼馴染(男)守って死ぬなんてゴメンだが、俺は守り切ったのだ。

 ここまでは。

 トラックが突っ込んだガードレールをぶち抜き、たまたま無人の商店にそのまま突っ込み、その衝撃で二階の住居スペースのベランダに置いてあった植木鉢が落下。それがジャストで幼馴染(男)を庇って、その上に覆い被さっていた俺の後頭部にクリティカルヒット。そして、そのまま帰らぬ人になる俺。

 思い出した当初はあまりのマヌケさと運の無さに死にたくなった。絶対人に話す事のできない死因だと思う。身内に厳しめな我が家の家族も、そんな笑い話のような話をきっと秘匿するだろう。

 下手すると俺の存在そのものが無かった事にされていそうだが。

 では、そんな風にマヌケな死に方をした俺が、こうして誰に聞かせているんだかよくわからない独白をどうやってしているのかというと。実は、生まれ変わって再誕したからだったりする。

 正確には転生が正しいのだろうが、残念な事に前世と同じ名前、同じ姿で生まれてきたので、あんまり転生した実感はなかった。だが、生まれた場所、というか世界が強烈に転生した事実を実感させてくれた。何故かは知らないが、異世界に転生してしまったからだ。

 剣と魔法、浪漫と冒険の星杯世界【ステラグレイル】。それが俺が第二の人生を歩む世界の名前である。星杯世界とは読んで字の如く、この世界は巨大な杯の形になっており、その杯の中に満たされた水が海という、地球平面論の絵で見られそうな世界なのだ。そして、杯の縁いっぱいまでに満たされた海の上に浮かぶ木の葉のような大小無数の大陸がこの世界の生物の大半が住まう場所である。

 俺が住んでいるのはその中でもニ番目に大きな大陸、アガレス大陸の中央部に位置するローンフォカレ帝国である。

 皇帝による帝政でありながらも、ノリと人の良い皇帝によって代々善政が敷かれている良い国である。

 そんな国の辺境にあるのどかな農村に生まれた俺は、天然だけど笑顔で息子をしばき倒す母親とのんびりしている割に何故か隙のない父親に囲まれながら暮らしていた。うん、我ながら相も変わらず身内に恵まれていない気がする。

 まぁ、そんな環境にもめげず、前世の情けない死に様にもめげずに平和に暮らしていたわけなんだが、俺が10歳を超えた辺りから雲行きが怪しくなってきた。

 村でも秀才と呼ばれていた今世における俺の幼馴染(女)が、その優秀な能力と頭脳を買われて帝立修導学院というこの世界には珍しい高度な教育機関に行く事になったのだ。何故か、俺込みで。

 うちの母はそこそこ良いとこのお嬢様だったらしく、かなりの教養がある。知識は宝であり、教養は恵みであるをモットーに息子である俺に教育を施し始め、いつしかそれは息子である俺に止まらず、村の子供達への教育という結果へと発展していった。母は村では寺子屋の真似事のような事をし始め、俺を初めとする村の子供達はそこで様々な教育を仕込まれていった。その結果、元々あった才能を開花させた幼馴染(女)は近隣の村々でも名前を聞かれる程の有名人となり、それを聞きつけた修導学院の教師に目を付けられたのである。ここまでは良い。ここまでは。

 そこであの幼馴染(女)は何をトチ狂ったのか俺も一緒じゃないとイヤだとか言い始めたのだ。

 はっきり言って迷惑だった。

 生涯をのどかな村でのスローライフに捧げんと考えていた俺にとって、その幼馴染(女)の我が侭は迷惑以外の何ものでもなかった。

 教師側も困惑気味だし、母の方もあまり良い顔をしていなかった。それもそのはずで、俺自身は然程才能ある子供ではないからだ。算数などはさすがに元高校生だけあって問題ないが、歴史や社会などは壊滅的だし、魔法や剣の才能もからっきし。俺には入学出来るだけの能力を備えていないのだ。

 当然ながら、前世でもそうだったように奨学金や免除といった特典は優秀な生徒が受けられるものであり、それ以外の生徒は普通に授業料だの何だのを払う必要があるのだ。それらは当然のように非常に高く、一介の村の住人が払えるものではない。

 幼馴染(女)は優秀だが、俺は違うので入学するには一般の生徒として払うものを払う必要がある。

 この時点でほぼ無理な相談なのだが、このままでは幼馴染(女)を連れていきたい教師側の思惑も潰えてしまう。ついで言うならば、村の寺子屋モドキへの関心を持ってもらい学院の直轄として助成金を得ようと云う村(主に母)の思惑からも外れてしまう。

 仕方ないので俺は幼馴染(女)を説得(という名の誘導)し、晴れて一人で入学して戴いた。だが、これ以降もしつこく俺を学院に勧誘し、揚句の果てには同じ村の学院入学組と結託して学院側に直訴するという暴挙に出たのだ。

 その後、疲れた顔した俺と同じような顔をした学院側の教師とで顔を突っつき合わせ相談した結果、俺の条件付き入学が許可されたのだった。

 ちなみにこの騒動においてうちの母を含めた村の大人達の憐れみと可哀想なものを見る目を俺は忘れない。

 そんなこんなで入学して早2年。色々と心の折れる事件や事故に巻き込まれつつも何とかやってきたわけだが、この日思いもよらない出来事が起こったのだ。

 帝国でも5人しかいない公爵の一人、ブルックス公爵のご令嬢が学院に入学する事になったのだ。帝国内でも絶大な権力を有する公爵家のご令嬢であり、稀代の剣士とも魔術士とも呼ばれる才気溢れるご令嬢である。加えて他の四つの公爵家の子供がとうに入学しているのに関わらず、公爵本人が溺愛するがゆえに箱入りに育てていたという生粋のお嬢様。

 学院でも様々な噂と憶測が飛び交っていたが、正直言うと俺は興味がなかった。

 なんせ同い年でも特別クラスへの編入が決まっているし、何かと面倒な特別クラスの連中とは関わりたくないので接点など持たないと思っていたのだ。よくよく考えると完全にフラグ立ってたような気もするが、この時の俺はてんで気にしていなかった。

 その日の午後の最後の授業が自習となり、自習さぼって昼寝する為に中庭を横切ろうとした時だった。俺は懐かしいものを見かけたのだ。色取り取りに咲き乱れる花々の花壇に一際目を引く花壇があったのだ。一面を覆うのは白い花の絨毯、それは前世ではオオアマナと呼ばれていたユリ科の植物だ。かつての幼馴染(男)が好きだった花である。あいつも昔は自宅の花壇をこの花でいっぱいにしったけなー、等と感慨に耽っていると、背後に人の気配を感じた。

 誰だろうか等と思って振り返ると、そこには完璧な美少女が立っていた。しなやかな亜麻色の髪を二つに結わえ、長めのまつげに濡れたように少し輝いているサファイヤのような瞳、子供と大人の中間にいるようなコケテッシュな雰囲気を纏っている黄金比を体現したかのような肢体。何故か初めて会ったとおぼしき相手のはずだが、その姿に非常に既知感を感じた。

 そうして冒頭に内心で絶叫した疑問へと繋がるに至っている。




 抱きついてきた幼馴染(元男)を引き剥がし、オオアマナ(に似た花)の花壇の近くにあったベンチに二人して座り込んで、幼馴染(元男)から事情を聞いてみる。

「・・・・・・・つーことは、だ。俺が死んだ後にお前も人生完遂する前に死んじまったのか」

「うん。あの後、病気になっちゃってそのまま。ゴメンね、せっかく私のこと助けてくれたのに」

「謝んなよ。なんつーか、病気じゃ仕方ないだろう。俺が死んだのだって別にお前を助けたのが直接の原因ってわけでもないんだし。そんで?」

「で、目覚めたら女の子になってて、しかも公爵令嬢とかなんとか・・・・・・・前世の記憶もあって色々大変だったよ、本当に」

「だろうな。前世は男でも今は女、それも良いとこのお嬢様じゃなー。俺なら速攻で心が折れてるな」

「ヤマトちゃんに会えた今では良かったと思ってるよ?あ、ヤマトちゃんでいいのかな、名前」

「相も変わらず榊・大和だよ。あ、こっちではヤマト・サカキか。でも人前ではやめろよ。特に今世じゃ接点ないんだし、変に思われても面倒だしな」

「りょーかい。あ、私はバニラ・ブルックスね。バニラって呼んでね?」

「・・・・・・・マジで公爵家の令嬢かよ。俺とお前で格差ないか」

「お前じゃくて、バ・ニ・ラ。でも、良い事ばっかりじゃないよ。習い事とか面倒も多いし」

 それはお前が相も変わらず優秀なせいではないかと。前世でも期待されてたもんなー、お前。後、生き生きし過ぎ。昔から女っぽい奴だとは思っていたが、ここまで違和感ないとは・・・・。

「ヤマトちゃんも同じ世界に転生してて、しかもまた同じ学校に通えるなんて夢みたいな事が起こったんだもん。嬉しくもなるよ!」

 いやそこまで嬉しいものかね?というかはしゃぐなスカートがはためくから。見えるから、見えるから。不覚にも俺の男が反応しそうになってるから。

 くそぅ。昔から可愛かったが、可愛さ割増どころか乗倍してやがる。元男のくせして可愛過ぎんぞ、お前。

「ま、前世から引き続いて今世も宜しくな、バニラ」

「うん!こちらこそだよ、ヤマトちゃん」

 こうして俺と前世の幼馴染(元男)、バニラは再会したのだった。だが、俺はこの時点で知る由もなかった。この出会いが、後の嵐のような波乱の幕開けだとは・・・・・・・・・




「公爵令嬢がどうしてヤマトを知ってるんですか!?」


「貴方は、我にこそ相応しい。我が愛しのバニラ姫」


「あなたが、バニラお姉様を惑わせる、元凶!!」


「ヤマトちゃん。相変わらず、【イチ】足りないんだね」


「俺はホモじゃねー!!精神的BLだなんてゴメンだー!!!」


「・・・私は諦めないよ。だって、前世からずっと、ヤマトちゃんのこと―――」




改善した方が良いところ、誤字脱字等何かありましたら感想をいただけると嬉しいです。宜しくお願い致します。


8/20 一部改訂

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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして(・∀・)♪ 読ませていただきました* とても面白かったです\(^O^)/ これからも更新頑張ってください(*^-^*)
2012/08/20 09:25 退会済み
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