デジタルへの磔刑
いつインストールしたか忘れてしまった。
幾つもの不条理な機械の中で、
きっと逃げ道はどこにもないのだろう。
だからこそ淀む世界に生かされている僕は、
携帯電話を持つ以外何もできない。
天の救いが単調なメールに添付されている。
「幸せになりませんか?」と。
律せられる無理解が僕を侵食する。
取水塔を迂回できないように、
君は夥しいほどの悲哀を受け止めるしかない。
そのように母親から教わったのだ。
まるでそれが正解のように。まるでそれが何かのオマージュのように。
疲労感に満たされたアイポッドから流れているデスボイスの果てに、
畸形の祝福は仮想化された図書館に似ていた。
夥しい蔵書はゲートの向こう側。立ち入り禁止の看板が立っている。
嗚呼!攪乱した僕の部屋にきっと天国はない。
大きな地デジ対応のテレビだけが救いだ。
多量の電波を浴びながら他人の不幸を見て笑う。
それだけが幸せなんだね、と厭世主義の君が問うた。
てんでんばらばらの思考がその台詞を花束に変えた。
薔薇には棘が抜かれ、ただ海のように青いけれど、
虹色に光るガントレットの美しさ。きっとこれで花弁を毟るのだ。
ぐちゃぐちゃになったお花の染色。神秘の光線。不自由な覚醒。
地獄に咲いた彼岸花。なんて綺麗なんだろう。吐き気がするほどだ。
それらがCGかもしれないという疑念に苛まれるのだけれども、
感情が、本能が、見通してしまう。その先にあるリアルの逼塞具合を。
充血した眼がもう君を見ない。真っ赤の目玉。球体。
僕の意志に反してずっとポータブルゲームをし続ける手。
テクノストレスなんて感じない。だって僕自身が機械になっているから。
動力源はユグドラシルの滴、もしくはコントローラーの十字キー。
リセットボタンを連打しよう。ゲームオーバーなんて怖くはない。
言葉なんてもういらない。あるのは中毒性と経験値だけ。
さようなら。僕はいま、そちらに行きます。
君がいるヘドロの湖に。横臥した身体を起して。
僕は沈んでいく。ずぶずぶと。潜っていく。
幾つもの不愉快な運命の中で、
きっと天使はどこにもいないのだろう。
挑む世界に異化させられている。
自動化させられる僕の寝食は、
そのとき携帯電話がメール着信を報告した。
それは悪質なチェーンメールだった。
極楽に咲いた蓮の花を映す104KBの画像。
さようなら。僕はいま、そちらに逝きます。
美学も悪徳もない1も0もない世界。虚無の世界に。
君のいない吊り橋の先に。嘔吐した夢を拾って。
僕は昇っていく。どろどろと。翔けていく。