「デートを友達に見られるタイミングは仕組まれてる」
オリ小説3話目です。
更新が進みにくいのですが、長い目でお願い致します。
始まります。
「こんにちは、一真クン」
聞いたことのある声が後ろから聞こえた。
噂をすれば何とやら、宏臣の事考えてたら本当に現れやがった。
クラスメイト・伊賀三沢宏臣。
変わった苗字だが、大昔の祖先が伊賀の忍者だったとか。
それで伊賀三沢という苗字を受け継いでるらしい。
カッコいい名前だが、女性だ。
しかも黒のロングヘアで今日はサイドでポニーテールにしてる。
コイツに関してはB・H・Wは不明。
身長は165cm、奈月よりは高い。
性格的には一番好きなタイプだ。
「奈月ちゃんとデートかな? 羨ましいなぁ、ボクにも分けて欲しいくらいだよ」
俗に言う「ボクっ子」というものだろうか、常に自分を「ボク」と呼ぶのだコイツは。
「流石のボクでも2人の幸せな時間に踏み入るほどKYじゃない、最初に声をかけたのはボクだけど、これで失礼するよ」
っておいっ!
本当に何もねえよ!
お前新キャラなんだからもう少し粘れよ!
「大丈夫だよヒーロー、一緒に色々見に行こうよ!」
奈月が言った。
コイツは宏臣の事を「ヒーロー」と呼んでいる。
忍者の祖先ってのと名前の宏の部分をもじってるらしいのだが、酷い字名だと思う。
つーかデートじゃなかったのか?
女子2人と歩くとか正直怖いんですが。
「…そうかい? じゃあボクも混ぜてもらおうかな」
お前もお前で簡単だな、オイ。
そう言えば今日の朝、奈月はどうやって玄関のカギを開けたんだ?
ウチは姉貴と2人暮らしだから、セキュリティはそこそこ厳重なんだが。
しかも2段構えのカギだったのに。
よし聞いてみよう。
「奈月、お前どうやってウチのカギを開けたんだ?」
「んっ? ピッキングツールで開けたよ?」
幻聴だよな。
「もう一度言ってくれるか?」
「だから、ピッキングツールでカギを開けたの」
いやいやいやいや、高校生がそんなもの手に入れられるハズがない。
さては誤魔化してるのか?
「ちなみに奈月、それはどこで手に入れた?」
「通販、一括払いで1290円」
なるほど、この国に安全と治安を求めるのはやめたほうが良さそうだな。
「出せ」
「ハイ、これ」
うっわー、本当にピッキングツールだ。
しかもかなり精巧に作られてる。
「これは没収な」
俺はそう言ってピッキングツールをジャケットのポケットに仕舞った。
「えー、じゃあ代わりに一真のウチのカギ頂戴っ」
「やるわけねぇだろ、行くぞ」
「ブーブーブー……」
奈月が愚痴をこぼしてる。
閑話休題。
俺と奈月と宏臣は街中を歩いている。
面白みのない言い方だが、本当に歩いているだけだ。
ただ宏臣も客観的に見て{美少女}って感じだから、視線が痛い。
まあ俺が見られてるわけじゃないんだが。
時刻は1時40分。
宏臣はついてきたものの、話題が無いから静かなもんだ。
かれこれ20分は喋っていない。
空気が重い……
美少女{?}2人に囲まれつつも話の話題がない。
なにこれ、なんの罰ゲーム?
「一真クンはもう奈月ちゃんとチョメチョメしたのかな?」
この空気の中それを聞いてどうする!?
メリットがねえにも程があるだろ!
ってかそんな体験あるわけねえだろ!
「そうなの……一真って意外にテクニシャンだから……」
「オイ」
急に遠くの空を見つめながらガセネタを語るな。
「いい加減にしろ、俺にそんな体験はない」
「そうかい? 意外だったなぁ(笑)」
その笑顔は使いどころを間違えている。
これじゃ話が前に進まない。
「とにかく、どこに行くんだ? これじゃ雑談で1日終わっちまうぞ」
「う~ん……そうだね~、じゃあハンバーグ食べに行く?」
「昼食の繰り返しか! 一体なんの目的で来たんだ?!」
「う~……じゃあラクサスに行こうよ」
ラクサス。
ここいらじゃ一番大きなデパートだ。
食料品・衣類・玩具・化粧品・日用雑貨・ペット……
とにかくなんでも揃うのが売りらしい。
1階から4階まである大型の店舗だ。
シャーペンの芯が無くなってたからな……丁度いいか。
「よし、じゃあ行くか」
俺と奈月と宏臣はラクサスに向かった。
歩く事15分。
なぜ電車やバスを使わないで歩いていくのかと言うと、俺が乗り物酔いが酷いから。
自転車以外の乗り物は、例えアヒルボートでも気持ち悪くなる。
修学旅行の時なんか思い出したくもない。
とりあえずラクサスに着いた。
エントランスエリアで行動について話し合う。
「で? 自由行動か?」
奈月に訊いた。
「うん、えーと……今2時ピッタリだから、3時にミセス・ドーナツで集合ね」
「了解」
「分かった」
俺と宏臣は承諾した。
ちなみにミセス・ドーナツは某ドーナツショップとはなんの関係もない。
俺達はバラバラに別れて、それぞれの見たい物のある場所に散った。
……もうデートでもなんでもないよな、コレ。
文房具売り場。
俺の探すシャー芯は0.5のHBサイズ。
シャー芯の並ぶ棚をグルリと見つめるが、見当たらない。
HBはあるのだが、0.5のサイズの芯が見当たらない。
俺はおもむろに棚の上に貼られているチラシに目を向けた。
{本日限り! シャープペンシル芯0.5のみ半額!}
なるほど、そういうことか。
そりゃ売ってない訳だ。
……帰りにコンビニで買うか。
俺の用事は思いの外簡単に済んでしまった。
早めにミセドに行ってようかと思ったが、1人で行くのは勇気がいる。
「宏臣か奈月に合流するか……」
そういや2人の行く場所聞いてなかったな。
「仕方ない、書店で時間をつぶすか」
そう思った俺は財布の中身を確認して書店に歩を進めた。
ちなみに所持金は4092円。
書店はラクサスの2階にある。
エスカレーターを更に歩いて3秒くらいで2階に着いた。
2階に上がってすぐの場所には衣類が多い、奈月達もこの辺に居ないか?
俺は少し周りをキョロ見した。
そして視界に入ってきたのは警備員に連れて行かれそうになっている宏臣。
2人は事務所の扉に入っていった。
俺は何かを考える前に走り出した。
すぐに追いついて、
「ウチの連れが何かしたんですか!?」
警備員さんの腕を掴んで引き止める俺。
近くで見ると少し怖い警備員さんだった。
が。
「君はこの子のお兄さんかい? いやーお手柄だったよこの子」
予想以上に優しい口調で話してくれた。
人を見かけで判断してはいけない。
「お手柄? コイツが何をしたんですか?」
「万引きして逃げてた少年を捕まえてくれたんだ」
スゲェな宏臣。
警備員さんは続けて言った。
「少年は店のゴルフクラブを振り回していたんだけど……」
「どういう事ですか!!」
俺は大声で警備員さんの言葉を遮って怒鳴った。
「そんな凶器を振り回す相手に女子を近づけさせるなんて、おかしいじゃないですか!」
ペチンっ!
乾いた音が事務所に響いた。
それと同時に俺の頬がヒリヒリ痛む。
「警備員さんを責めるのはお門違いだよ、一真クン」
宏臣が右手を肩辺りまで上げていた。
どうやら宏臣の平手打ちが俺の頬を叩いたようだ。
「ボクはボクの判断でやったんだ、警備員さんに非はないよ」
ボクの判断でやった?
俺は無意識に腕に力が入った。
「警備員さん、コイツに怪我とかは?」
「見たところ無いよ、カスリ傷1つね」
「そうですか……」
俺は胸を撫で下ろし、警備員さんに一礼した。
「有難うございました」
俺は宏臣の腕を引っ張って事務所を出た。
「ちょ、一真クン? どこに行くのさ!」
宏臣が聞いてくるが、応える気がしない。
そのまま店の外まで宏臣を引っ張って行った俺。
外にもベンチとかカフェテリアがあるのがラクサスの良いところだ。
俺はベンチに宏臣を座らせた。
「一真クン、一体どうしたのさ? 警備員さんに失礼じゃ…」
ペチンっ!
俺の平手打ちが宏臣の頬を叩いた。
全力ではない、軽く振り抜いた程度のビンタだ。
「宏臣、お前って何かの武道の達人とか、そういう設定なのか?」
謝罪も弁解もない。
俺はただ宏臣に訊いた。
「達人なんて、ただ少し合気道と柔道を嗜んでるくらい……」
「じゃあ!!」
俺は宏臣の言葉をかき消すほど大きく言った。
「お前は何でゴルフクラブ振り回す子供に勝てると思ったんだ?」
宏臣が目を擦ってる。
俺はちゃんと見てた。
宏臣は、泣いてた。
「相手が子供だからか? 刃物じゃなければ大丈夫と思ったのか?」
意地悪な言い方だよな、俺。
「違う、よ……ボクは、ただ……」
汚いよな、俺。
「ボクは……ただ……っっ」
涙で声が出ないみたいだ。
「ただ子供が危ないと思ったから! ……だから……」
俺嫌われるだろうな。
「心配させんじゃねえ……バカ野郎」
俺は気付いたら宏臣に抱きついてた。
公衆の面前で、女子高生に抱きついてた。
「ごめんな…」
俺は謝った。
平手打ちの事でもない、意地悪言った事でもない。
危ないときに近くに居なかった事。
それ以外に謝ることなんて無かった。
俺はすっ、と抱きついていた身体を放してハンカチを渡した。
「ドーナツ奢ってやるから、涙を拭いとけ」
宏臣はサッ、とハンカチを受け取って目元をゴシゴシ拭いた。
なんて言われるか……
正直殴られるのも蹴られるのも覚悟してた。
が。
「………ポン・デ・リング10個………」
「え?」
「……ポン・デ・リング10個……それで…許す」
「……了解」
10個か…慎み深い奴だな。
40個までなら買ってやれたんだが。
「宏臣、本当に怪我とかないよな?」
「大丈夫、安心していいよ」
平常時の口調に戻った宏臣。
俺は腕時計の時刻を確認した。
3時9分。
「よし、宏臣、ドーナツ食いに行くか」
俺がそう言うと、宏臣はなぜか胸を押さえながら立ち上がった。
「…服買って」
「何?」
宏臣が頬を真っ赤に染めて言った。
「服が濡れて下着が透けるの…!」
緊急事態発生!
このままでは宏臣の肌が周知に晒されてしまう。
くっ…4000円じゃ大した服なんて買えない…ジャージでも買うか?
いや、逆効果だろうな、多分。
俺はチラッと宏臣の胸を見た。
ジャージなんか着せたら胸がキツイだろうな……
そう思うほどになかなかの胸。
って違う! どうすりゃいいんだ……
「一真……」
ヤバイ、また泣き出しそうだ。
俺はとりあえず着ていたジャケットを宏臣に羽織らせた。
だが時間稼ぎにしかならない。
「……そうだ!」
俺は宏臣の手を引っ張って店内に入る。
そしてエスカレーターを駆け上がり、2階に向かった。
……見つけた!
俺はさっきの警備員さんのところまで走った。
「…ん? 君はさっきの…どうしたんだい?」
「えっと……失礼を承知で伺いますが、お金を貸してもらえませんか?」
「…何だって?」
警備員さんの額にシワが増える。
「説明すると長くなるのですが…」
「短く話してくれ」
容赦ねえ。
「……連れの服が濡れて下着が見えかけてるんです、俺持ち合わせが少なくて……必ずお返ししますから貸してもらえませんか…?」
話した途端、警備員さんの顔が緩んでいく。
「なるほど………君はあの子を泣かせたんだな?」
なぜ分かる!?
奈月と言い、この人と言い、なんで心が読める!
「それじゃ好きな服を持ってきなさい、今回は特別に僕が払おう」
「いえ、払ってもらうなんてそこまでは……」
そこまでしてもらうわけにはいかない、と言いかけたが。
「犯人逮捕の協力への副賞だよ」
警備員さんは緩く微笑んだ。
その後警備員さんの好意で宏臣は薄いグリーンのワンピースを買ってもらった。
2人してお辞儀して、宏臣が先に事務所を出た。
「もう彼女を泣かせちゃダメだよ」
俺が出ていく瞬間に、警備員さんがそう言った。
……彼女…か……
俺は腕時計の時刻を確認し、また宏臣の腕をつかんでミセドに向かった。
時刻は、4時12分。
「何か言い訳は?」
奈月が言った。
「心の底からごめんなさい…」
もう…今日は踏んだり蹴ったりだ。
奈月の目の前には10個入りドーナツの箱が2つ並んでいた。
色んな意味で恐ろしくてしょうがない…
「ダブルチョコレート10個」
「それで許してくれるのか?」
「はぁ? 違うわよ、買ってきたから一緒に食べて」
……毒でも盛ったのか?
そこまで俺を憎んでいるのか?
「奈月、何を企んでる?」
「なーんにも、一真が一緒にドーナツ食べてくれたらそれで許してあげる♪」
あれ、なんか上機嫌だな。
「一真、あーん」
上機嫌というか異常機嫌だ!
「んなことするわけな…」
「あーん{怒}」
「あ、あーん……」
もう最悪。
公衆の面前で「あーん」とかもう死にたい。
けど、美味い。
そんなこんなで奇抜な3人デートは終わった。
土曜日の朝から夕方まで、幼馴染とクラスメイトに振り回され、休日どころじゃない。
けど楽しかった。
あと一つ変わったことがある。
宏臣が俺のことを、呼び捨てで呼ぶようになった。
明日も休み、ゆっくりしたいもんだ。
・・・急に作風が変わったように感じるかもしれませんです・・・。
でもこれは「コメディ」です。
なるべく続けようと思います。
末永く読んでいただけたら幸いであります。