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後悔の無い生き方

作者: 海恵

 私は生まれて此の方後悔と言う出来事に遭遇した記憶は無い。

 後悔と言う物が出来事と言うべきかどうかは定かではないが、恐らくその物自体を経験していないので、出来事と呼ぶ事にする。

 振り返れば後悔をしている人を何人も見て来たが、その人達の有り様を見れば、自分に降りかかる後悔とは何なのかは容易に想像が付く。

 困る事に、そのような人達に相談を受けても話に乗る事はおろか、相手の眼の中にある強い悔恨の念を慮る資質すら私にはない。

 唯一後悔とはこんな物なのではないか。と想像される事を強いて言えば、その相談に乗ってはあげられない自分自身を振り返るに、経験不足な者だと我ながら思う。其処を「今まで後悔の経験をしなかった後悔」は、無いでは無い。

 しかし、臆病に失敗を恐れて自身の人生に真っ向から立ち向かわなかったという訳でもなく、どちらかと言えば人々の期待に誠心誠意応えてきたつもりではある。

 そこに一度や二度の失敗は無かったのかと言えば、結果を見る限りに今でも時には失敗をしている事もある。その失敗を引き起こした結果、人から非難の眼で見られたり、叱責の嵐の中に巻き込まれもした。

 また私自身、一度としてこれは成功したと確信した事も無く、また、何を持ってこれは成功であったと確信した記憶すらない。

 なら何故そこで後悔という感情は芽生えないのかと疑問に思うかも知れないが、失敗をすると必ず後悔をしなければならないという訳ではないと断言したい。

 つまり、私は人生の全てに置いて前向きだと言えはしないだろうか。

前向きな人生観をもってしても、失敗を出してしまった直後の刹那に後悔の感情が沸き起こりはしないかと問い質せば、自身の記憶から導き出される回答は「あまりにも短すぎて覚えておりません」としか答えられない。

 無責任な答え方にも思うかもしれないが、一生を掛けても後悔し続ける出来事も、一瞬に出会う失敗例も、感情の中にある記憶の台帳なる物に列挙し、あの時の失敗この時の失敗云々かんぬん……、と細部に至る処までもを掘り返して、同じに測りはしないのが心を破綻させない感情の仕組みなのではないだろうか。

 では一例としての私の人生観をお聞かせすれば、失敗と後悔がイコールでは無いという事と、いかに私自身が後悔をせずに生きてこれたかと言う事実が証明されるはず。

 又、前以てお断りして置く事に、そんな幸運を持ってしても、他人への還元は無いという実情と、それを真摯に私自身が受け止めていると言う事を御理解頂きたい。

 私は何処とは知れない片田舎で生まれたのです。

 何故、住所が不明なのかと言えば其処に居る全ての人々が住所を知らなかったと言う訳ではなく、其処には確固たる住所はあっても、私が住所を教えられたと言う記憶が無いのです。

 私は時々生まれた時の自分を覚えているような気がします。

 母の胎内からこの世界に出てきた途端に、今でも記憶の片隅にある印象は、自身の力で立ち上がらんとばかりに精一杯の力を振り絞っていた様に思えます。

 母は優しく私を包み込んであやしてくれていた事でしょう。

 そこの人々に、私は丹精に育てられました。

 朝昼晩の食事時にも、そこに母や父の姿は無く何時しかそんな事は気にもならなくなりました。人々の暖かい持て成しか、私自身が流されてしまう性格なのかは今となっては心地好い思い出の中にしまって置きましょう。

 私は屈託の無い幼少期を過ごさせてもらったと思います。

 野を駆け、仲間たちと遊びあった楽しい季節を。その仲間たちの中には成長の途中に身体を悪くした者がいたが、暫くすると軽自動車を改造した様なトラックが現れ、中から白い服を着た、医者にしては膝上迄あるゴム長を履いた人達に連れられて行ってしまいました。それ以降怪我や病気が治った彼等を見たことが無かったと思います。

 私は運良くここまで成長出来たと言えようか、運悪くここまで来たと言えようか。

 激しい競争を勝ち続けて来た結果、私はここにいる。

 今、ゲートが開くこの瞬間、後悔しない為に私は精一杯走る。

 例え私が他の者に負けたとしても、何着にゴールに入ったとしてもそれは私が後悔をする材料には成り得ない。

 私の人生はこの仕事の繰り返し。

 誰かを背中に乗せてひたすら走る、尻に打ち入れられる鞭の痛みより、本当の痛みは後悔という感情が自分の中には無い寂しさを誰とも共有出来ない寂しさだろうか。

 ゴールが見えて来た、そこを過ぎた所で今日の仕事は終わる。

 そこには後悔はない。

 又、喜びも無い。

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