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俺と幼馴染とクラスメイト

作者: シャオレイ

 ドクン、ドクン……


 心臓の音が嫌に大きく聞こえ、掌に汗が滲み握っているグリップが滑りそうになる。


 スコープ越しに見えるのは、幼馴染の姿。きょろきょろと辺りを警戒しているが、こちらには気が付いていないようだ。


 スコープのレティクルの中心はその額を合わせ、トリガーに指をかけた。


 人差し指は震え、息は荒くなる。


 これを引くだけで弾丸は発射され、数秒とかからずに標的へ当たるだろう。


 撃つのか? 本当に?


 ……何をためらっているんだ。これは戦いだ。やらなきゃ、やられる。


 覚悟を決めると、片目でスコープを覗き込む。


 息をゆっくりと吐き出しつつ、狙いを定め、そして――


 パン。


 撃った。


 乾いた音が自分の耳に届く。


 スコープの向こうで、自分の幼馴染が地面に倒れ伏すのがわかった。その瞬間、心を空虚な感覚が支配した。


 愕然としていると、背中に硬い何かが押しつけられた。おそらく、拳銃だ。いつの間にか背後に回り込まれていたのだろう。


 俺は素直に持っていたライフルから手を離し、ゆっくりと手を頭の後ろに回した。



+ + + + +



「で? なんか言うことがあるんやないか?」



「ちゃうねん」



 関西弁に対して思わず似非関西弁で返す。



「うちに対してよくもまぁ、あんなもん撃ちこんでくれたもんや」



 正座をしている俺に対して怒り心頭といった様子で仁王立ちしている、俺が“モデルガンでBB弾を撃ち込んだ”幼馴染――由香ゆかがいた。



「あんたなぁ! サバゲーなんやから体のどっかに当たったらアウトって言うたやろ!? なんでFPSみたくヘッドショット狙ったんやぁ!」



 ずいっと顔を近づけて自分の額を指差しつつ、



「うちの可憐な額が真っ赤になってしもうたやろが!」



「可憐www」



 笑ったらしこたま殴られた。



「ま、まぁええわ。これからあんたにはうちの財布になってもらうんやからな」



 おーほっほっほ、と高笑いをしている由香を隣りにいた女子、かなでが諫める。



「ちょ、ちょっとくらい許してあげてもいいんじゃないかなぁ……」



「あかん、このアホは言っても反省せぇへんからな。直接体に言い聞かせた方が早い」



「心外な。俺だって言われればわか――」



「最近スナにハマってるからってヘッドショットとかやるなって最初に言うたよなぁ?」



 ぐぅの音も出なくなった。



「とにかく、はよう行くで。まずは昼食食ってからやな。奏もいこ!」



「え? で、でも迷惑なんじゃ……」



「だいじょぶだいじょぶ。女の子二人分のお金が払えんような甲斐性なしやないと思うとるから」



 そう言ってこちらをちらりと見る由香。くそぅこの子狸め。


 だが今回は俺が全面的に悪いうえに言ってしまうと折檻が始まるので言わないでおく。


 奏が目線で、ごめんね? と言っているのが分かった。


 だったら由香を止めて欲しい。


 同じく目線で訴えたら、またしてもごめんと返ってきた。おのれ子狸の手先め。


 正座は慣れて(折檻的な意味で)いたので、三十分程度なら一切しびれたりはしない。ぱんぱんと裾をはたくと、ゆっくりと立ちあがる。



「ガンダム、大地に立つ……!」



「バカなことやっとらんではよ行くでー!」



 怒られたのでそそくさと駆け足で二人を追いかけた。



+ + + + +



「大体な? 孝司は何かしらの影響を受けやすいねん。はむっ……、せやからいきなりサバゲーやろうなんて言い出したりするんや、はむっ」



「食いながら喋んな。てか由香が一番乗り気だった件」



「それは気のせいや」



 近場のファミレスで情け容赦なく高いモノを注文した由香と、申し訳なさそうに同じ値段のモノを頼む奏。申し訳なく思うのであれば出来るだけ安いのを注文して欲しい。



「とにかく! もう少し考えて行動せえやっちゅうことや。そもそもモデルガン一丁も持っとらんくせによくもまぁサバゲーやろうー、なんて思いつくな」



「うん。よく佐藤くんもモデルガン貸してくれたよね……」



 奏の言う佐藤とは、クラスメートのミリオタのことだ。バイトをしてはその金を全て軍事系統のグッズに使っているらしい。


 バイトと言えば、



「給料日が結構先なのでもうそろそろ勘弁していただけるとありがたいでござる」



「却下」



 殺生な。



「あはは……」



 そこも、大変だねぇ、みたいな顔しながらデザート注文しようとすんな。



「あんたに拒否権はあらへん。ちなみにこの後ショッピングやから」



 なん……だと……。



+ + + + +



 そしてやってきたのは駅前のデパート。入店音が処刑用BGMにしか聞こえなくて困る。


 三人で閉まりかけのエレベーターに駆けこむと、由香が四階のボタンを押した。



「四階って何があったっけ?」



「本屋に文具屋、それとCDショップやな。他にも色々あった気がするけど、今回行くのはその三つやから」



「ふーん……」



 このエレベーターは中から外が見れるように周りがガラスになっている。ふとそちらに視線を向けるとどんどんと地面から離れていくのが分かった。減速しないことを考えると、このエレベーターに乗っている人は四階以上の階に用事があるのだろう。



「孝司くん、着いたよ?」



 声がかけられて振り向くと、既に由香はフロアに出ていた。奏は俺を待っていてくれたらしい。



「すまんね」



 ひょいとエレベーターから降りると、背後でカシュッという音と共に扉が閉まった。


 由香はというと、足早にCDショップへと向かうのが分かった。



「落ちつきのない奴だな、ほんと」



「由香ちゃんも君にだけは言われたくないと思うよ」



 奏からひどいことを言われた。クラスでは大人しく、大和撫子なんて呼ばれているが、行動は非常にアグレッシブで俺や由香と居る時はむしろわんぱくと言ったほうがいいかもしれないくらいだ。


 それでも十分にお嬢様な風格を纏っているのだが。



「しっかし、由香がCDショップねぇ……。一体どういった風の吹き回しなんだろうか?」



 普段、由香はCDショップなんて行かない。いつも俺の部屋に来ては勝手にCDを強奪して行くか、俺の部屋で聴いてから帰っていく。


 欲しいCDがあるとなぜか俺に買わせて、俺の部屋に突撃してきては勝手にCDプレイヤーを使って流していた。



「ま、まぁ由香ちゃんは見るものあるみたいだし、私たちは本屋にでも行こう?」



 なぜか奏が焦った様子で俺を急かす。


 何だ、そんなに俺の財布の金を減らしたいのか。それほどまでに俺に恨みがあるのか。



「ち、ちがっ! そんなんじゃないってば、孝司くんに本選んでもらったりしたいから……」



 それを聞いて、なるほど、と俺は思った。


 奏は読書家だ。自分の部屋はむしろ書斎だと言えるほどの蔵書数らしい。本屋の店主と知り合いだったり、古本屋の店主の知り合いだったりと交友関係が広い。色々と都合してもらえるので、助かると話していた。


 そんな彼女がなぜ俺にお勧めの本を聞くかと言うと、俺も本を人並み以上に読むからだ。


 ちなみに乱読派で、漫画から古典文学までと手広く読んでいる。


 奏には凄いと言われたが、由香には選ぶのが面倒だからどうせ適当に選んでいるんだろうなどという評価をいただいた。あながち間違いではないので言い返せないのが癪に障る。


 速読が得意なので一冊一時間かけずに読むことが出来る。ので、暇な時に一冊などはざらにあるのだ。



「孝司くんはホントになんでも読むから、私が手を出してないジャンルの本も勧めてくれるのがありがたいんだ」



「そうかそうか。なら俺お勧めのこの医学書を」



「小説でお願いします」



「了解」



 どうやらこの本は気に入ってくれなかったようだった。


 しょぼんとしながら次の本を探す。



(由香ちゃん、ちゃんと見つかったかなぁ……)



「ん? なんか言った?」



「う、ううん! なんでもない!」



 奏はぶんぶんと両手を振って応えた。おかしな奴め。



「これなんてどうでしょうか」



「……孝司くんってホントにひねくれてるって言われない?」



「なぜ」



「だって本のチョイスがそうだもん。すぐ横にベストセラー小説とかもあるのに、選んでるのはすっごくマイナーな本だし。……でも孝司くんが勧める本って大抵面白いんだよね」



 ならあまり文句は言わないでほしい。



「ごめんごめん。そんな拗ねないでよ」



「別に拗ねてるわけじゃないけども」



「とにかく、孝司くんのオススメはこれだけ?」



「いや、それだけじゃなくてもっと色々あるよー」



 そう言いながらひょいひょいと別の本を取っていく。どれもこれも平積みにされないようなマイナー本だ。


 積んでいった本が十冊を超えると、奏からストップが掛かった。



「ちょ、ちょっと待って!」



「ん?」



「積み過ぎだよ……。その、三冊くらいまで絞ってくれないかな?」



「三冊か……。むぅ」



 縦に積んだ本を一旦横にすると、どれを残すかの厳選作業へと取りかかる。



(由香ちゃん大丈夫かなぁ……。本来の目的忘れてなければいいけど)



 奏は奏で何かを考えているようだが、とにかく今はこれに集中しよう。



「……よし、決めた! この三冊だ」



 選んだ三冊以外を手早く棚に戻し、残ったモノを奏に手渡す。



「ありがとう。でも本当にジャンルが一定しないね。ファンタジーにSFにサスペンスって……」



「とりあえず読んでから感想を聞かせてもらおう」



「うん、そうするよ」



 そう言うと奏はくるりと踵を返し、あらかじめ鞄から取り出していた財布を片手にレジへと進んでいった。流石はお嬢様の風格を纏っているだけあって、ただ歩いているだけでも様になっている。


 ってあれ? 今日って俺の奢りだったはずじゃ……。


 ――いや、いいんだ。これは気付いてはいけないことだ。


 自分の心(と財布)を守るために自己暗示をかけると、本屋から出て奏を待つ。


 まるで漢字の「口」のような構造をしたこのデパートなのだが、自分のいる本屋とCDショップは向かいに面している。落下防止のための手すりに寄りかかり、CDショップを覗き込む。


 何を選んでいるのかは分からなかったが、由香が何かを選んでいるということはわかった。


 由香の好きな音楽はロックなどといった激しい系統の曲で、逆に苦手としているのがクラシック。


 自分としてはどちらも好きなのだが、由香からしてみるとクラシックというのはどうも性にあわないらしい。


 そんな彼女がいるのはロックバンドなどが中心に置かれた棚の前。試聴用のヘッドフォンを耳に当てているのが見えた。


 おそらく今は、目を閉じて肩を小刻みに揺らしているだろうことが容易に想像できる。


 そんな後ろ姿を見ながらあくびをしていると、肩をトントンと叩かれた。振り向くと、奏が右人差し指を立ててこちらに向けている。


 本屋の袋はなく、代わりに鞄が少し膨れていた。奏の性格からして袋を貰わず、直接鞄に入れたのであろう。


 それと同時に、由香がレジへと進み始めた。俺達はCDショップの前に移動し、会計をしている由香を待った。



「ごめん、待ったー?」



 奏とは違い、鞄を持たない由香は袋にCDを入れてもらいそのまま右手に下げている。



「すごい待った。どれくらい待ったかと言うと――」



「ううん、私たちも丁度終わったところだったから」



 由香に対して抗議を申し立てようとしたところ、奏に遮られた。俺の発言などなかったかのように由香は俺をスルー。


 このまま(わざと)拗ねても確実に無視されるだろうので、俺は先にエレベーターに向かう二人を追う。


 二人は空のエレベーターを捕まえて中に乗っていたところだった。流石に俺を待っていてくれるくらいの温情はあるらしく、由香は開くのボタンを押しっぱなしにしていた。


 へたに歩いているとそのまま閉められそうだったので、エレベーターに駆け乗った。


 三人を乗せた鉄の箱が頑丈なワイヤーに吊るされ、下の階層へと下がっていく。


 現在の階層を示す数字に灯る光が、徐々に少ない数へと変わっていく様をぼけっと眺めていた。


 ……結局何も買わなかったなぁ、俺。


 エレベーターが少しばかり浮上し、チーンという音と共に扉が開いた。


 三人そろって降りると、外に控えていた人たちが今度は上行きになったエレベーターに乗り込み、扉が閉まった。



+ + + + +



 デパートの外に出てみると、既に空は茜色に染まっていた。時刻はそろそろ五時になるかならないかといったところだ。


 そこまで長居していたわけではないのだが、食事を取ったこととデパートまで歩いてきたので時間がかかったのだろう。


 そんな中、三人そろって帰り道を進む。


 会話はない。


 ただ黙々と足を動かすだけ。だが、それは気まずさなどからくる沈黙ではなかった。


 どこか心地の良い沈黙の中、奏と別れる道へとやってきた。



「それじゃあ、私はここまでだね」



「せやね。奏ちゃん、また学校で」



「うん。孝司くんもまたね?」



「うい、またな」



 そうして、俺と由香がゆく道とは違った道へ行くのかと思いきや、おもむろに鞄の中を探り出し、何かを取りだした。



「はい! 孝司くんに誕生日プレゼント。今日でしょ? 誕生日」



「……おお」



 そんなことはすっかり忘れていたので、思わず変な声が出た。



「……もしかして忘れてたの?」



「まさしく」



 奏の問いに答えると、呆れたように溜息を吐かれた。



「自分の誕生日忘れてるなんて……。まあ、孝司くんらしいよね」



「どういう意味だ、こら」



「あはは。それじゃあ、またね、二人とも!」



 たっと俺達に手を振りながら駆けだした奏に、二人で手を振り返す。


 その後ろ姿を見送り、



「……帰るか」



「……せやな」



 由香と共に帰り道を辿る。歩いていて、ふと疑問に思ったことを口に出してみた。



「由香はさぁ」



「なんや?」



「俺の誕生日知ってたの?」



「うん。そのためにデパートに寄ったわけやしな」



「へぇ〜……」



 もしかして、



「CDショップ行ったのは誕生日プレゼント探しだったりしたり?」



「当たりや」



 そういって、手に持った袋から一枚のCDを取りだした。



「これって……」



「欲しがったやろ? それ。でもどこにも置いてないーゆうて愚痴ってたのを思い出して、せっかくやし買ってやろ思うてな」



「そっかぁ……」



 CDを受け取り、ジャケットをしみじみと見つめる。確かに以前から欲しがっていたCDだ。インディーズなうえに、これまたマイナーなので普通の店にはまったく置いてないのだ。



「ありがとな」



「ん」



 そうして、二人して夕陽に染まる道をただただゆくのだった。

本当になんとなくで書きあげた小説。

「こんなん小説じゃねぇ! CV、タ○シ」

な方も生ぬるい目でご容赦くださるとありがたいです。

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