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ある夜、エルゼはついに「雑草料理」の噂を聞きつけた、帝国一の美食家として知られる大公を屋敷に招く。これはカシアンを「奇才の料理人」として売り出すための、乾坤一擲の賭けだった。
地下室から引きずり出されたカシアンは、相変わらずの美貌と、どこか浮世離れした微笑みを携えていた。
「さあ、大公。召し上がれ。これは、私の妻が私に与えた『試練』という名のスパイスで仕上げた、道端のクローバーのポタージュです」
大公が一匙、口に運ぶ。沈黙が流れる。
次の瞬間、大公は椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。
「……何だ、これは。今まで私が食べてきたフォアグラやツバメの巣が、家畜の餌に思えるほどだ! 雑草の中に、これほどの慈愛と、そして……凄まじい執着を感じるとは!」
大公の絶賛により、カシアンの雑草料理は「禁断の美食」として貴族社会の頂点へ。
エルゼの金庫は、かつてないほど潤い始めた。しかし、カシアンは富が増えることなど微塵も興味がない様子で、エルゼを背後から抱きしめ、その耳元で熱を帯びた吐息を漏らす。
「エルゼ、金はもう十分だろう? さあ、この金貨をすべて溶かして、君の等身大の像を作ろう。その像を、僕たちが心中する時の重しにするんだ」
「……本気で、殺してやろうかしら、この男」
エルゼは殺意に震えながらも、彼の腕の温もりに、心臓がトクンと跳ねるのを無視できなかった。




