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その頃、ルミエール伯爵邸の地下牢——もとい、エルゼが「カシアン用監視部屋」と命名した、窓のない豪華な個室では。
「ふむ……。雑草か。実に奥深い食材だね」
カシアンは、床に広げられた数種類の雑草を前に、目を輝かせていました。
エルゼの命令通り、食事はパンと水だけ。しかし、彼はその僅かな食材と、庭から引っこ抜いてきた「雑草」で、驚くべき創造性を発揮していました。
「このギシギシは、火を通せば菠薐草のような風味に。タンポポの葉は、苦味がアクセントになるだろう。そして、このスミレの若葉は……見た目も美しい、デザートの飾り付けに最適だ」
彼は、部屋の隅に置かれた、最低限の調理器具(小さな鍋と、錆びかけたナイフ)を手に取りました。
パンを薄くスライスし、少量の水で練り上げたギシギシのペーストを乗せます。タンポポの葉を細かく刻んで振りかけ、最後にスミレの花びらを散らしました。
「完成だ。名付けて、『愛と貧困の、大地からの恵みの一皿』」
エルゼが商館から戻ってきた頃、部屋の鍵を開けると、そこには、信じられない光景が広がっていました。
部屋の中央には、雑草で作られたと思われる、しかし信じられないほど繊細な「飾り付け」が施された食卓。そして、その上に並べられたのは……
「エルゼ、おかえり。君のためにも、最高の朝食を用意したよ。パンを焼く燃料がなかったから、僕の髪の毛を少し切って使ったが、焦げ付かずに済んでよかった」
カシアンは、少し短くなった銀髪を揺らしながら、誇らしげに微笑みました。
「このスープは、庭に生えていたカタバミを煮込んだもの。酸味が食欲をそそるだろう? そしてこのメインディッシュは、ハコベとスズメノカタビラを丁寧に叩いて作った『雑草のパテ』だ。付け合わせは、もちろんタンポポのフリットだよ」
エルゼは、目の前に広がる「雑草尽くし」のフルコースを前に、完全に言葉を失いました。
食欲をそそる芳醇な香り。見た目の美しさ。
そして、その奥に潜む、狂気にも似た「愛」と「献身」
まさか……。あれはただの、ものの例えなのに。本気にしちゃった。
エルゼは全身から力が抜け、その場にへたり込みました。
こんなにも完璧に、こんなにも美しく「雑草」を料理できる男が、この世にいるだろうか。
そして、自分の髪の毛を燃料に使うなどと、いったい誰が思いつくというの。
(私は、一体、何を、この男から奪えばいいの……!?)
エルゼの目から、一筋の涙がこぼれ落ちました。それは、怒りでも悲しみでもなく、この狂気じみた「愛」を受け止めきれない、深い絶望にも似た感情でした。




