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「…………(絶句)」
「どうしたんだい、エルゼ? 顔色が悪いよ。ああ、分かった。昨夜のポタージュが足りなかったんだね。よし、今すぐ隣の村も買い取って、最高級のヤギのミルクを——」
「黙れこの美貌の寄生虫!!!!!」
エルゼの咆哮が、豪華な寝室に響き渡りました。
先ほどまでの「純粋な愛への魅了」は、一瞬にして「凄まじい殺意」へと変換されました。
「ハンス! 今すぐ銀行へ走って! カードを止めて! それから庭の噴水のサファイアを全部掘り起こして、元の業者に返品するって伝えなさい! 傷がついてたら削り直して中古品として売り捌くわよ!」
「承知いたしました、奥様!」
ハンスが脱兎のごとく駆け出します。
エルゼはカシアンの胸ぐらを掴み、その美しい顔を至近距離で睨みつけました。
「いい、カシアン? あなたは今日から一歩も外に出さないわ。食事はパンと水! いえ、あなたの得意な料理で、雑草をいかに美味しく調理できるか研究なさい! 私はこれから、あなたが散財した分を取り戻しに、地獄の果てまで商談に行ってくるわ!」
「……エルゼ。怒った顔も、ルビーのように真っ赤で素敵だね。愛しているよ」
「その口を閉じろ! その顔を向けるな! 眩しくて計算が狂うじゃない!!」
エルゼは怒髪天を突きながら、ボロボロの帳簿(の予備)を抱えて部屋を飛び出しました。
愛している。確かに、世界で一番。
けれど、愛だけで腹は膨れないし、愛だけで王室への納税は済まないのです。
エルゼは荒れ狂う嵐のように商館へ乗り込み、ハンスが辛うじて回収してきた「銀の魔法カード」と王室御用達の商売許可証の担保解除手続きに奔走していました。頭の中は、カシアンがやらかした天文学的な額の借金をどう帳消しにするかで一杯です。
「くそっ、あのバカ……。愛だのなんだのと言って、私の信用をどん底まで叩き落とすなんて!」
エルゼが苛立ちを募らせていると、ふと、机の上の書類に挟まれた一枚の絵が目に入りました。それは、カシアンの肖像画でした。先日、彼が「君の執務室を彩るために」と、有名画家を数日滞在させて描かせたものです。
描かれたカシアンは、月光のような銀髪をなびかせ、憂いを帯びた瞳で遠くを見つめています。その圧倒的な美しさは、まるでこの世のものではないかのようでした。
その瞬間、エルゼの脳裏に、電撃のような閃きが走りました。
(……これだわ!)
エルゼは肖像画を鷲掴みにすると、そのまま商館の裏にある「貧乏貴族の駆け込み寺」と噂される質屋へ飛び込みました。




