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私の幸せを食いつぶす第三公爵の甘い罠 重い愛から噴出する勘違い悪意による良かれと思ってやる方向音痴な献身が返って迷惑です 薔薇の香りの浪費家を普通の愛だけでお腹いっぱいになる生き物へ変えてみせます  作者: 友人の痴話喧嘩の話を聞いている時の私? 笑顔を隠すのに必死よ。だって、口角が『もっと聞かせて』って疼くから


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「エルゼ殿、今回の鉄材の価格だが、前回の三倍は出してもらわんとな。嫌なら他所へ——」


その時、執務室の影から、シルクの衣擦れの音と共にカシアンが歩み出しました。

彼はエルゼの肩に優しく手を置き、ギルド長へ向けて、慈愛に満ちた、しかしどこか「底知れぬ断崖」を思わせる微笑みを浮かべました。


「おや、ギルド長。お言葉ですが……三倍の価格という提示は、僕の妻に対する『求愛』としては、あまりにも無作法ブサイクではありませんか?」


カシアンの声は、上質なチェロのように深く響きます。ギルド長は、その美貌と圧力に思わず言葉を呑みました。


「き、求愛だと? 私はビジネスの話を……」


「ええ、ビジネス。それは命のやり取りだ。……ギルド長、あなたは鉄を売る。鉄は武器になり、農具になり、文明を作る。しかし、僕の妻エルゼがこの契約書にサインをする際、彼女の指先にかかる微かな『重圧』が、彼女の寿命をコンマ一秒削ることを、あなたは見落としている」


カシアンは机に身を乗り出し、ギルド長の瞳をじっと覗き込みました。その瞳は、獲物を憐れむ捕食者の輝きを帯びています。


「想像してください。彼女が三倍の金を稼ぐために、本来僕と見つめ合うはずだった時間を『労働』に捧げる。その失われた時間は、宇宙の損失だ。……あなたが鉄を売ることで得る利益は、彼女の『愛の純度』を汚す代償として支払われるべきだ。つまり、本来ならあなたが彼女に『時間を奪ったお詫び』として金を払うべきだとは思いませんか?」


「な……何を言っているんだ。論理がめちゃくちゃだ!」


「いいえ、極めて論理的ロジカルです。鉄はまた掘ればいい。だが、今この瞬間のエルゼの美しさは二度と戻らない。……ギルド長、あなたは『三倍の金』と、『僕があなたの家を訪問し、あなたが死ぬその瞬間まで、愛とは何かを一晩中、毎晩語りかけ続ける特権』、どちらを選びますか?」


カシアンは、ギルド長の耳元で、甘く、死神のように囁きました。


「……僕の語りは、長いですよ? あなたが『鉄』という冷たい無機物に逃げ込んだことを後悔するほどに、濃密に、残酷に、愛の義務を説きましょう」


ギルド長の顔から血の気が引きました。カシアンの瞳には「本気でやる」という、狂人の純粋さが宿っていたからです。この男は、本当に、一文の得にもならないのに相手の人生を「愛」で埋め尽くして破壊する。


「……わ、分かった。三倍はやめる。据え置き……いや、原価でいい! むしろ、配送費もこちらで持つ! だから、その『愛の説法』だけは勘弁してくれ!!」


「賢明な判断だ。……ああ、契約書へのサインは、エルゼの指が汚れないよう、僕があなたの指の血で代筆しましょうか?」


「結構だ!! 自分で書く!!」


ギルド長が逃げ出した後、執務室には沈黙が流れました。


「カシアン……あなた、今、完全に相手を脅迫してたわよね?」


「心外だな、エルゼ。僕はただ、彼に『真の価値』を気づかせてあげただけだよ。……さあ、節約に成功したご褒美に、僕の喉を潤してくれないか? 君の淹れた、あの雑草のお茶で」


カシアンは、先ほどまでの魔王のような気配を霧散させ、再び「エルゼ専用の愛妻家」へと戻りました。

エルゼは帳簿に並ぶ、あり得ないほど有利な数字を見つめ、戦慄します。


「(この男……ただの浪費家じゃない。人の精神の隙間に、甘い毒を流し込む天才だわ……)」義姉(イザベラ)の弟だって事を忘れるのよね。


エルゼは、もはや恐怖さえも通り越し、目の前の「美しき毒薬」をどう利用して帝国を食いつぶそうかと、さらに黒い商魂を燃やすのでした。


こうしてエルゼとカシアン。そして2人を取り巻く愉快な人達の物語は、これからも予想外の騒動を巻き起こしつつも、平和に続いていくのでした。


めでたし、めでたし。

完結は、別の物語の始まり。

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