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イザベラが持ち込んだ黄金真珠の鑑定額を聞き、エルゼが「これでようやく負債の半分が消える……」と安堵の溜息をついたのも束の間。
「エルゼ、僕、決めたんだ」
カシアンが、かつてないほど真剣な、それこそ建国記念祭で誓いを立てる騎士のような清々しい顔で、エルゼの前に跪きました。
「君を苦しめているのは、僕の浪費だということに、ようやく気づいた。……僕は今日から、『節約』に生きる。一銭も使わず、君を笑顔にするよ」
エルゼは耳を疑いました。あの「歩く国家予算破壊機」が節約?
「えっ……。あ、あら、いい心がけね、カシアン。まずはその、毎日三回取り替えている香水付きの絹のハンカチをやめることから始めましょうか?」
「いいや、エルゼ。そんな小さなことじゃない。僕はもっと根本的に、この『世界』の仕組みを利用することにしたんだ」
エルゼの背筋に冷たいものが走りました。この男が「根本的」と言う時、ろくなことは起きない。
三日後。
エルゼは、自室の窓から見える光景に、飲んでいた高級茶(イザベラからの献上品)を噴き出しました。
「……ハンス。あれ、何かしら」
「はい、奥様。隣国のヴィクトル王太子の親衛隊でございます。現在、我が家の庭にテントを張り、炊き出しを行っております」
「なぜ我が家の庭で王太子の軍が野営をしているの!?」
そこへ、ボロ布のような(しかしカシアンが着るとボロ布に見えないのが腹立たしい)ガウンを纏ったカシアンが、意気揚々と現れました。
「エルゼ! 喜んでおくれ。食費の節約に成功したよ。隣国の王太子に、昔の貸し(彼が浮気して女装して逃げ回っていた時の口止め料)を返してもらったんだ。今日から我が家の食事は、隣国の軍事予算で賄われる。無料だよ、エルゼ! 王宮専属のシェフが、隣国の国庫から持ってきた最高級の肉を、タダで焼いてくれるんだ!」
「馬鹿なことしないで!! 国際問題よ!!」
エルゼは頭を抱えました。無料どころか、将来的にどれだけの「外交的負債」を背負うことになるのか、計算するだけで目眩がします。
「お、奥様!?」
倒れそうになるエルゼをハンスが支える。
「過去の悪行」という、換金不可能な資産を使い、エルゼに「現金の節約」をプレゼントし始めたのです。
カシアンはさらに、得意げに一通の羊皮紙を取り出しました。
「さらにね、エルゼ。君が毎日夜遅くまで使っている魔導ランプの燃料代ももったいない。だから、大聖堂から『聖なる消えない灯火』を盗んで……いや、長期レンタル(無利子)してきたよ。 これで光熱費もゼロだ!」
「神罰が下るわ!!! 返してきて!! 今すぐ!!」
エルゼは悟りました。
この男に「節約」をさせると、現金は減らない代わりに、「名誉」「信用」「国際関係」「神の加護」といった、金では買えない大切なものが、超音速で消費されていくということを。
「……カシアン。お願い。お願いだから、普通にダイヤを買って。お願いだから、私の金を湯水のように使って……!」
「ダメだよ、エルゼ。僕は君のために、一銭も使わない男になると誓ったんだから」
カシアンは、聖者のような微笑みで、盗んできた聖なる灯火をエルゼの机に置きました。その光は、エルゼの顔を死人のように青白く照らし出しています。
「食いつぶす男」を節約させることは、世界を破滅に導く最短ルートだったのです。




