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関&鷹城 「鬼灯」  作者: 御厨 つかさ


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鬼灯 5



無言で橿原が鷹城の蒼白な面を手にしたライトで照らし、再度傷にライトを向けてから、くちに銜えると関の残した上着を鷹城の身体に結び直す。

首許に手を添えて、時計をみて脈を計る。

鷹城の黒瞳が、急にほかりとひらいていた。 

「…かしはら、さん?」

ぼんやりとそうしてくちにした鷹城に視線を向ける。

 急に動いて滑り落ちる事の無いように身体を支え、橿原が呼び掛けに応える。

「鷹城君、しっかりしなさい。関君が救急隊を呼びに行っています」

ぼんやりと、橿原のその声が聞こえているのか。

「…――――、ほおづき、」

黒瞳を宙に彷徨わせるようにして、それだけを鷹城がくちに。

 次に、糸が切れたように身体から力が抜け、蒼白な面にすでに眼の閉じられた鷹城に橿原が厳しい顔になる。

「…――鷹城君!」

 それまで押さえた声でしか話さなかった橿原とは思えない大音声で叱咤するように橿原が鷹城の名を呼ぶ。

 轟音に負けないほどの声で名を呼び、橿原が鷹城の首筋に手を当てる。

 無言で橿原が鷹城の胸部の圧迫を始める。

「しっかりしなさい!鷹城君!起きなさい!」

豪雨に打ち消されない強さで橿原が鷹城の耳許に叫ぶ。幾度も両手を組み心臓への圧迫を繰り返す橿原が見つめる前で。

「……――――、」

かすかな音をさせて、鷹城がむせるように小さく息を吐いた。

「鷹城くん!いいですか?関君が救急隊を連れてきます!起きなさい!」

橿原が耳許で繰り返し叫び、首筋で脈を取る。屈み込むようにして呼吸を確認し豪雨に張り付いた己の外套を脱いで鷹城をさらに包む。

 されるままに濡れた黒髪を蒼白な額に揺らし、僅かな息を鷹城が漏らす。

 呼吸と脈拍を観察し橿原が無言で鷹城を見つめる。





 ヘリが橿原と関が振り仰いだ上空に黒雲を突いて現れていた。轟く激流の音に響く豪雨の中に、救難用の大型ヘリの音でさえ、小さく地上には聞えるが。

「…―――は、は」

気が抜けた笑みが関の顔に浮かんでいた。

 救難ヘリから降下してきた顔をみて、関があきれてさらに笑みを零す。

 医療用の器具を抱きしめるようにして降下してきたのは、滝岡だった。

 ――レンジャーかよ、おまえ。…

あきれながら、足許が滑り崩れそうになるのを何とか支えて。

「関、秀一は?」

滑る草群も叩きつける雨も感じていないように下り立つなり鋭く問い掛けてくる滝岡に笑んで応える。

「こっちだ。」

そして、次に永瀬が降下してきたのに、苦笑を関は浮かべて。




 闇が深い背後に、轟音が響くのは増水した河が氾濫しようとしている怒涛の流れが生み出す音だ。

「くそっ、…―――まずいぞ!滝岡!そっち押さえろ!」

「はい!先輩!…――そちらお願いします!」

轟音と叩きつける激しい雨に負けない声で応える滝岡に、永瀬が蒼白い幽鬼のようにみえる鬼気迫る眸でシートにくるんだ身体を押さえて睨み付ける。

 足許は滑る草地、さらに其処を泥流のようにして坂を豪雨が滝のように流れ落ちてくる。足許を確保しながら、滝岡がシートの足許に屈み、傷口を押さえて処置を始める。

 叩き付ける豪雨に構わず、滝岡が瞬時傷の状態をみて眉をひそめ、次には冷静な表情に戻り、足が動かないように固定していく。

 意識を失い、処置を受けているのは鷹城秀一。

艶やかな黒髪が蒼白い額に落ち、意識を喪失した端正な美貌にくちびるが蒼く。普段から御洒落に拘って着こなしているスーツが、いまは豪雨に濡れて見る影も無くなっている。鷹城が負った傷の深さに滝岡が沈黙したまま処置を続ける。

「くっそう、…―――秀一ちゃん!がんばれ!ばかやろう!…滝岡!昇圧剤打つぞ!」

「わかりました。ヘリ下ろせ!上げる!」

永瀬が必死に叫ぶ声に、滝岡が視線を向け、ヘリに手をあげる。

 無線に応答して、豪雨と激しい風をついて救急ヘリが降下を始める。滝岡が地上から合図して、大きく左手を振る。右手で滑る坂の上にシートに包まれている鷹城の身体を保持して。

 永瀬が必死にその鷹城に処置を続ける。

「いーか?秀一っちゃん!しっかりしろ!血圧60!SO2、88!いいか?死ぬな!ばかやろう!」

無理矢理叩き込むように昇圧剤を打ち、耳許に叫んで頬を叩く。

「いいか?しっかりしろ!滝岡もいる!これから、ヘリで運ぶ!いいか?くたばったら承知しないぞ!」

ヘリから下りる搬送具を受け取り、滝岡がシートに包んだ鷹城を固定して、豪雨に手許に持つライトを使い合図をする。

 激しい風にヘリが姿勢を保つことができずに一度あがり、

小さくなるのを永瀬と二人固唾を呑んで見守る。

 再度、降下してきたヘリが下ろしてきたロープに鷹城を包む搬送具を固定する。雨に滑るロープを外れないように固定して、滝岡が引き上げの合図を送る。

 固定された器具に乗せられ、鷹城の身体がヘリへと上がっていく。激しい風雨に揺れる搬送具に運ばれる鷹城を下から永瀬と滝岡が緊張して見守る。

 ヘリの隊員が搬送具を機内に引き上げるのに、滝岡がほっと息を吐く。

「滝岡くん」

その背に、感情の伺えない声が大きな声でもないのに、この風雨に消されることなく届くのに滝岡が振り向く。

 風雨も逆巻く激流の音も何処か遠い世界のように。

ふと、その初老の紳士の姿がこの世のものではないようにみえて、滝岡が眉を顰めた。

「どうしました、…―――?」

無表情に何を想うか知れない初老の紳士、橿原の闇色をした眸の持つ何かに滝岡が沈黙する。

「…大丈夫です」

「頼みましたよ」

無言で滝岡が肯いて背を向ける。

 滝岡がロープを使いヘリに上がり、次に永瀬も救急処置の器具を掻き集めて背負い、揺れるロープを使いヘリへと上がっていく。

 豪雨と激流の轟音が響く中。

 残る警官隊と共に激しい風に揺れるヘリが体勢を立て直し上昇して方向を変えるのを地上で橿原が無表情に見守る。

「さあ、お願いします」

橿原の声に、警官達が豪雨の中、先程まで滝岡達が鷹城の処置をしていた付近で作業を始める。




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