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関&鷹城 「鬼灯」  作者: 高領 つかさ(TSUKASA・T)


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30/32

滝岡家の犯罪防止計画 その1 ――鷹城秀一くんの場合――

「鬼灯」「七夜語り」「この世の終り~」など、

地道にランクイン頂いているようでありがとうございます

ランクイン御礼の小話です

よろしければお楽しみください


 滝岡総合病院外科オフィス。

 実に機能的かつ人間工学などを応用して仕事に集中しやすく、かつ休むことの出来るコーナーには、効率的に休憩をとることが出来るように、仮眠までとれるようにしたソファが置かれて実にくつろげる空間になっている。その為もあって、いつも基本的にだらりと休むときにはこの外科オフィスの休憩コーナーを利用することにしている永瀬だが。

 いまは緊張して、休憩処ではない面持ちで永瀬は滝岡と向き合っている。固まって見返す永瀬と、滝岡もまた緊張して永瀬を見返して互いに動きがとれなくなっているのだが。

 その原因は。

 一体どこからどうしてその話題になったのか。

 いまとなっては謎なのだが。

「…どちらか、ですか」

「…おまえだって結論もう出してるだろ?」

難しい顔で固まったまま永瀬を見つめていう滝岡を前に。滝岡を振り仰いで、永瀬もまた微妙に固まった顔で見返していう。

「先輩だって、もう結論は当然出しておられるんでしょう?」

「…それは、…当然だろっ、う、…だってそりゃ、…―」

つまって永瀬が滝岡を見返して、ぐっとくちを結んで気合いを入れて見返す。

「当―然だろっ!瀬川ちゃんとおまえとどっちかだなんてっ、…!」

 そう、どこからその話題になったのか。

 非常にくだらない話だが。

 休憩コーナーに座っていたビジターのカードをネックストラップから下げているゴージャスな豪華な華のような上下隙無くブランドで固めた美女の向かいにいた相手から。

 永瀬が、まず質問を受けて。

「…え?どっちか選べっていうの?瀬川ちゃんか滝岡かどっちか、…?」

 そして、永瀬のリアクションを通りすがりに聞いた滝岡が。

「もう選んでおられるでしょう。無理に間を置かれなくてもいいですよ」

淡々と書類を手に席に戻ろうとしていた滝岡の背に永瀬が声を掛ける。

「そりゃ、…じゃあ聞くけど!おまえの方はどうなんだよっ?おれと、瀬川ちゃんだったらどっちを選ぶ?」

立ち上がって訊く永瀬の声につい足を止めて滝岡が振り向いて。

 真剣な顔で永瀬を見返して固まる。

「…先輩と、…―――瀬川さん、ですか、…」

「おうよ」

と、睨み返す永瀬に、向き合って固まる滝岡というのが、この睨み合いの始まりで。

極真剣に永瀬に向き合って固まっている滝岡に永瀬がふーん!とくちを曲げる。

「おまえだって一緒だろ!当然!」

「…それは、…瀬川さんと先輩でしたら、…―――」

一応ためらいはみせる滝岡に。ふん、と後ろを向いて永瀬が腕組みして云う。

「当然!瀬川ちゃん選ぶに決まってるだろ!おれ、瀬川ちゃんいなかったら生きていけないもん!」

「…先輩、―――。まあ確かに、私も、先輩と瀬川さんとどちらかを選べといわれれば、…――――」

くちごもり沈黙する滝岡を眇めた眼で永瀬が振り仰いでいう。

「おまえなー、はっきりいったって同じだろ。おまえだって、おれより瀬川ちゃんとるだろー」

「それはですね、…。いや、まあ、確かに、…―――」

「何を遊んでるんですか。永瀬先生、瀬川さんがどうかしましたか?」

滝岡の秘書である西野が書類を手に現れて訪ねるのに、永瀬がすねてみせながらいう。

「西野ちゃーん。こいつね、ひどいの。瀬川ちゃんとおれ、どちらか選ぶとしたらーていう質問に、はっきりいやーいいのにくちにごしちゃってさー。おれはちゃんと、こいつと瀬川ちゃんとなら、瀬川ちゃん選ぶもんね!おれ、瀬川ちゃんいないと生きていけないし!」

偉そうに宣言する永瀬を、滝岡が困り果てた顔でしみじみとみる。

「あのですね、先輩、…。ですからその、――」

「おまえだって瀬川ちゃん選ぶだろ」

顔を寄せて、くちをとがらせて顎を寄せていう永瀬にあきれて滝岡が溜息を。

「先輩、…確かにその、先輩と瀬川さんでしたら、瀬川さんを、…」

「ああ、看護師の瀬川さんですね。確かにあの方は優秀ですからね」

納得したように、西野が滝岡のデスクに新たに書類を置きながら頷いて云う。

 それに永瀬が同意して。

「だろだろっ?瀬川ちゃん優秀だろー?おれ、滝岡がいなくても生きていけるけど、瀬川ちゃんいなかったら生きていけないもーん!滝岡と瀬川ちゃんだったら、絶対瀬川ちゃんとる!」

意気込んでいう永瀬に西野が多少胡乱な視線を投げる。

 ちら、とビジターのカードを下げたゲストが部屋を出て行くのを西野がみて部屋のセキュリティレベルをさりげなく確認する。

「それでどこからその話題になったんです?原因は?」

「あー!ここー!お久しぶりー!西野さーん」

「…秀一、…」

西野の質問に休憩コーナーのソファに隠れるようにして座っていた鷹城秀一――周囲は滝岡が秀一に対して大変な過保護だということで意見の一致をみている――がひらりと手を振るのに、滝岡が溜息を吐いて軽く肩を落とす。

「…おまえか、妙な質問を思いついたのは」

 ひらひらと秀一が麗しい笑顔で手を振っていうのに、滝岡があきれた顔で秀一を見返す。

 軽く秀一が首を傾げて。

「だってさー、“仕事の”パートナーって大事じゃないー?っていう話題から、じゃ、永瀬さんは瀬川さんとにーさんとどっちが大事?って話題になってもおかしくないと思うんだけど?」

悪気無さげに麗しい笑顔でいってみせる秀一の美貌を、あきれた顔で滝岡が見返す。

「おまえな。面白がっているのが一目瞭然な顔でいうな。まったく、…。第一、医者の代わりはいくらでもいる。おれも先輩も代わりはいるが、瀬川さんのような優秀な看護師の代わりは滅多にはいないんだ。医者で代わりがいないなんていうのは、光くらいになってからのことだ」

「…いまあっさりと光ちゃんへの愛を告白したねえ、…。そりゃさ、おれもおまえも確かに光ちゃんクラスの交換できない程の腕じゃないけどさ」

秀一を見据えて、あっさりといってのけた滝岡に、半ば感心してあきれながら永瀬がしみじみという。

「だってそうでしょう。おれ程度の腕は何処にでもいますが、先輩。光程の腕なら、確かに替えはききませんがね」

あっさりと穏やかに微笑んでいう滝岡に、永瀬ががっくりと肩を落とす。

「…おまえの光ちゃんラブなのろけをいまここで聞かされることになろうとは、…―――」

「光は腕はいいですからね。天才というのは、ああいう腕の持ち主をいうんです。先日見た腹膜播種切除と膵尾部切除後の胆管処理と血管の縫合なんですが」

穏やかに微笑んで顕かに手術の様子を思い返してうっとりとしているのがわかる滝岡に永瀬が軽く引く。

「…わかった!光ちゃんが天才なのも、おまえが光ちゃんの腕にぞっこんラブなのもわかってるから語るな!まったくー!秀一っちゃん!へんな方に振るから、こいつがまた光ちゃんのこと思い出してとーくにいっちゃってるだろー!気持ち悪いだろ、これ!大体、手術思い出してうっとりしてるってどうなんだよ!」

永瀬が滝岡をみないようにして指さしていうのに、鷹城が首を傾げる。

「そーですか?にーさんが光くん大好きなのはいまに始まったことじゃないし。手術について語らせだしたら止まらなくなるのもいつものことだし」

にこやかに麗しい笑顔であっさりいう秀一に永瀬がソファの背に懐いて情けない顔で見あげてみせていう。

「えー?そりゃそうだけどさー」

「処で、秀一。何をしにきたんだ?いつも忙しいといって最近碌に休みもとっていないようだが。休暇はどうしている?しばらく休めるのか?」

極真剣に穏やかな気配で滝岡が秀一の身体を気遣いながらいうのに、永瀬がちら、と振り向いてそっと肩をすくめてみせる。

 西野もまた、気付いてあきれて軽く息をついて、書類を無意味に整えていたりとするのだが。

 外科オフィス。そこに、先程まで部外者が一人いたのだが、滝岡はまったく気付いていないらしい。いや、気付いてはいても、数に数えてはいないというか。

「滝岡先生、こちらの書類をお願いします」

「わかった。先輩、秀一も、くだらないことをしてないで、きちんと休みを取るんだぞ?」

先輩もですよ、といいながら西野に呼ばれて滝岡が書類をみる為に仕事に戻るのを。

 秀一がしみじみとした視線で見送り。ちら、とそれに西野が理解しながらもあきれている視線を返す。

 永瀬もたらりんと見送る前で。

「はい、これとこれを、明日までにお願いします。理事会に諮りますので、こちらに要点は纏めてあります」

「ありがとう、…全てをみるのは手術の後になると思うが、間に合うか?」

「大丈夫です。理事会前に一度目を通しておいていただければいいものですから。それと、こちらですが、―――」

「うん」

真剣に西野のレクチャーを受ける滝岡をそっとみて、永瀬があきれたようにくるりと目を回して見せて秀一に。

 滝岡はまったく気にもしていないが。外科オフィスで秀一がもてなしていた豪華な美女が永瀬と滝岡の話を聞く途中で部屋を出て行ってしまったことに。

 つまり、あれは。

 永瀬があきれた顔でいう。

「…あれ、ほんとーに気付いてないのな?おまえさんがいつものよーに滝岡ちゃんの嫁さん候補を篩にかけちゃったこと」

「篩以前ですけどね。にーさんと見合いさせろって、ちょっとうるさい親戚連中のつてまで使ってうるさかったから、御本人に御判断いただいただけのことです」

「ひでーの。そんなふーにマジノ線引いちゃうから、滝岡ちゃんいきおくれちゃってるんじゃーん」

ぼそぼそ、と小声でいう永瀬に、つーん、と秀一が横を向いてみせる。

「いまの程度でついていけなくなるようじゃ、にーさんの光くんラブや手術偏愛とかいろんなヘンタイ加減を知ったら、逃げ出すに決まってるじゃないですか」

「まあねえ。実際そこへ行く前にもう逃げたけどさー。滝岡ちゃん、確かに手術おたくのヘンタイだもんなー…」

「ヘンに外堀を埋めに掛かって厄介な事にされる前に、始末をしたまでです」

「秀一っちゃん、非情っ、…」

背後でぼそぼそと続けられる会話を聞いて、密かに西野が軽く息を吐くのに。

「どうした?西野」

書類に集中していてまったく聞いていない滝岡が、西野の様子に気付いて顔をあげて問い掛けるのに。

 不思議そうな滝岡に、西野がにっこりと微笑む。

「いえ、失礼しました。ありがとうございます。次の書類ですが、こちらは読んでいただいて問題がなければそのまま英訳しますので」

「ありがとう。いつもわかりやすいな」

穏やかに滝岡が微笑んで西野に感謝するのに、西野も穏やかに微笑んで。

 二人の邪魔をしないように。そーっと、外科オフィスから抜け出して、秀一と永瀬が並んで歩きながら。

「ったく、瀬川ちゃんの名前出したのも、あいつが看護師だからって、女性と間違われるよーにミスリードしたろ」

両手を首の後ろに組んで、軽く首をひねりながら歩く永瀬の隣で、軽く秀一が肩をすくめて。

「それは間違う方がわるいんです」

「秀一っちゃん、あのねー」

涼しげに微笑んでみせていう秀一にあきれて永瀬がみて。

 そこへ。

「…何か聞こえてきたんですが」

「あ、瀬川さん」

眉を寄せて、目を眇めてみていう細身で背の高い瀬川に、永瀬がぎくりと立ち止まる。

 それを他所に秀一が明るく笑顔で近付いていって。

 軽く耳許に手を寄せて、内緒話を堂々と目の前でしてみせる秀一に永瀬が思わず固まっていると。

「じゃあねー!お元気でー」

明るく秀一が手を振って去るのを瀬川が無関心に見送り、ちら、と冷たい視線を永瀬に向けるのを。

「…あ、あの、瀬川ちゃーん?」

「つまり、人をだしにして、また滝岡先生の見合い話を潰す為に勝手に名前を出したというわけですね…?」

冷たい視線と声でいう瀬川に、永瀬が固まって見返す。

「せ、…瀬川ちゃん?おれは別にね?だから、――」

「…看護師に女性が多くて誤解されるのはいつものことですからね。別に構いませんよ」

淡々といいながら歩いて行く瀬川に、永瀬が引きつった顔で追い縋る。

「…せ、瀬川ちゃんっ、――!」

「別に構いませんよ。女性だと誤解させて見合いを潰せたとお礼をいわれましたからね?」

「…あ、のやろ、…―――いや、だから、瀬川ちゃんっ、…!おれはね?おれはそーいうつもりじゃ、…瀬川ちゃんっ、…!だからっ、…―――!」

悲壮な顔で永瀬がすたすたと先を行く瀬川の後を追い縋る声が響くが。

 別に誰もそれを聞いて驚きもしない辺りもまた。

 滝岡総合病院の極普通な一日というものなのかもしれない。

 本当に極ありふれた、滝岡総合病院の普通な一日が、こうしてすぎていくのだった。

 なべて世は、事も無し…?



                          了






滝岡は過保護ですが、

秀一くん…


滝岡はいつか、結婚出来る日がくるのでしょうか?

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