鬼灯 3
…まずいなあ…。
多分拙いような気がするのって気のせいじゃないよね、と。
コンクリートの床に横たわって、天井を見あげてみる。
夜に一応慣れた目には濃淡で天井や何かがあるのはわかるが、周囲は溶かし込んだような闇だ。
静かだよね、それに。
都会の夜につきものの音が少しもしない。車の音も、勿論人の生み出す喧騒も、何もかも。
「あるとうるさいけど、ないならないで淋しいかも」
皮肉な笑みを浮かべていってみて、それから溜息をついて窓があるはずの方角を見あげてみる。左側の窓がある筈の高い場所からは、夜になって冷気が降りてきている。
外に開いていて、空気が流れてるのはいいことだけど、これはどう考えても外に人がいないよね。
困ったな、と思いながら軽く首を振る。手当していない足首がこのままだとどうなるか心配するより先に、傷の心配なんてしなくてもいい状態になるかもしれないことを考えた方がいいかもしれない。
橿原さんが探しに来るわけもないしね、…。まだ、…どれくらいだろう?
気絶させられてから気がつくまで、一昼夜は経ってないはずなんだけど、と考えながら。それから、と思う。
目が醒めたのが午後、それも夕方だとして、…。
もう随分と時間が経っているのに、一度も尿意がきていないっていうのは。
「困ったことになってるかも」
ちょっと下品だけど、と考えながら舌でくちびるを湿す。
渇きも感じてないし、だるくて熱っぽい。…
確かにちょっと本当にまずいかもしれない、と思う。
肌が乾いている。汗が出ていないのに、トイレに行きたくもなっていない、と。
瞬いて窓があるはずの処を眺めてみる。
おかしいな、普通に数時間前には僕は元気に歩いてたんだけどね。
「届いてるなら救助がきてもおかしくないけど、…やっぱり、人がいないのかな」
そして、人がいないってことは、と。
目を閉じる額に薄く汗が乗るのに鷹城は気付いてはいなかった。熱をもって浅く口がひらいて、苦しくなって既に開いている襟元のボタンを幾つか外す。
眉を寄せて目を閉じたまま大きく息を吐く。
傷が熱く脈打って、幾倍にも膨れ上がっているようにおもえる。
熱が身体の中心まで犯すようで、息が浅くなってくる。
「…まずい、かも、」
誰かが見つけてくれただろうか、と。
目を閉じて意識が薄れていく寸前、鷹城はそう考えて。
次第に強まる灼熱する感覚に呑まれていた。
赤い灯がみえる、と。
そうして、微笑していた。
夏の宵に小さく赤く灯るあかりは、迎え火だよと。
昔語りに聞いた記憶が蘇る。
懐かしい魂を迎えに灯す灯なのだと。
闇にすう、と赤い灯が浮いて宙に軌跡を描く。
…僕も、あれについていったら、いけるんだろうか。
どこに、とかでなく、―――そうたとえば、懐かしい処に。
小さく吐息をついて微笑んでいた。
赤い灯がともって、軌跡を描いて闇を登り、左上の窓を通って外へ出ていく―――。




