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関&鷹城 「鬼灯」  作者: 御厨 つかさ(TSUKASA・T)


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滝岡達にとって、つまさきとは?

秀一くんのその後のお話?


つまさきとは、一体なんなのか?

滝岡達にとって、つまさきとは一般的におもうとは違うもののようで?

「滝岡達にとって、つまさきとは?」





「秀一?」

雪見の鍋をいただいたときより、幾らか日々が過ぎた頃。

滝岡総合病院の外科オフィスを訪れた、先日鍋を作った関のストレスの原因であると思われる鷹城秀一がくちにした言葉に。

「え?つまさき、――足の爪先のことですか?」

「足の第一趾から第五趾がどうしたんだ?秀一」

不思議そうにいう神尾と、訊ねる滝岡を前に。

選択肢を誤ったかな、僕、と鷹城秀一は考えていた。

兄で或る滝岡が勤める滝岡総合病院の外科オフィスに部外者ではあるが、滝岡の身内としてフリーパスを持っている秀一が訪れているのは珍しいことではないが。

 そこで、つい休憩に訪れて、ちいさくつぶやいた言葉をひろわれてしまうとは。

「えーっと、…その?」

綺麗に磨かれた靴先をみて、つい、ちいさく「つまさき、…」とつぶやきかけて止めたのだが。

美麗な容貌に思わず愛想笑いのちょっと苦しい微笑みを浮かべながら、耳聡い滝岡と神尾に何とか話題をそらせないかな?と考えてみる。

「秀一?」

デスクに向かい、書類仕事を片付けながら、視線を向けて問う滝岡と。

休憩用に置かれた人間工学により休息しやすく疲れがとれる設計がされている白いソファの置かれた休憩コーナーで仕事の合間に休んでいる感染症専門医神尾に。

ちなみに、この休憩コーナーに外科以外の人間が休んでいるのはまったく珍しい光景ではないのだが。

滝岡が完全に手を止めて、強張っている秀一の秀麗な微笑みをみて眉を寄せる。

「どうした?怪我でもしたのか?」

「…怪我ですか?それはいけませんね、――確か秀一さん、足を以前怪我しておられましたよね?右足首の、…――」

「ああっと、いえ、そのね?」

我ながら挙動不審で墓穴を掘ったよね、と。

秀一が逃げようとしたのを察したのかどうか。

「みせてください、秀一さん」

「…え?ええと、――神尾先生?」

既にまだ立っていた秀一の足首をつかんで、その靴先をみながら、容赦なく神尾が靴を脱がしにかかっている。

 ―――そ、そういえば、神尾さんには、初めて会ったときにも靴を脱がされたんでした、…。

全然、まったく気配すらさせず、逃げる間もなくあのときは靴を脱がされて、足首の傷の具合とテーピングをみられてしまっていた、―――。

「か、神尾さん?あの?」

おしゃれな秀一が拘って選んでいるスーツに合わせた靴下を一顧だにせずするりと脱がして、ひざまずいたまま神尾が真剣に足先をみている。

「ふむ、どうだ、神尾?」

いいながら書類仕事の手を止めて傍らに膝をついたのは、滝岡だ。

美貌の鷹城秀一と、その前に白衣で膝をつき足先を手にとる神尾は以前、永瀬が日本人形みたいだよね、と評したことのある美形で。体格の良い、ハンサムといえないことはない滝岡と。

 少しばかり、とんでもない光景に見えかねない構図になっているのだが。

 極真剣に、滝岡が神尾が手にして爪先と指、そして足裏を観察しているのと同じ箇所をみていく。

「あ、あの、…にーさん?神尾先生も、…?いい加減やめましょうよ、…―――」

「清潔は保たれていますね」

「そうだな。特に点状出血や問題はみられないな。肌色からすると血流は悪くないようにみえるが」

「エコーとりましょうか?…動きはわるくないようですが」

神尾が、秀一の抗議など聞きもせず、親指――滝岡にいわせれば、おそらく第一趾――を曲げて動きを確認している。

「…あ、あの?あのですね、…?」

に、にいさん、とそして滝岡の動きに秀一が固まる。いつのまにか滝岡が手にしているのは携帯用エコーとその使用に際して使うゼリー状のものが入った器と、足首につけて何か色々計る為の機器。するり、と足首に冷たいゼリー状のものをつけられて、エコーを滝岡が始めるのに鷹城秀一が額を押さえて苦悩する。

「…く、くすぐったいですってば、――にいさんっ、…――」

何とか、休憩室の給湯コーナーの端をつかんで――そういえば、僕、緑茶をいれようと思っていたんだったりするよね、…とか遠く思いつつ――秀一がこそばゆさに耐えている。

 滝岡が秀一の訴えを一顧だにせず、携帯用エコーが映し出す画像に視線を置いている。

「何してんの、秀一っちゃん、――て、なにやってんの、神尾先生、滝岡」

外科オフィスの扉を開けて入ってきた永瀬――術後管理専門医師――がいうのに、救いを求めて秀一がみるが。

「…――――。」

無言で、しかも何か視線が凄く冷たくなって、永瀬が休憩コーナーの白いソファに歩いて行ってしまうのを鷹城が見送る。

「あ、あの、…?僕がなにかしました?永瀬さん?」

思わず不穏な空気を纏う術後管理専門医師永瀬に、問い掛けてしまった秀一だが。

 ―――しまった、…。雉も鳴かずば打たれまいに、って、こいうことですよね、…。

じとり、と恨みつらみを抱えた湿ったまなざしで見返してくる永瀬に、秀一が凍りつく。

「あ、あの?」

「…―――秀一っちゃん、…おれの努力を無にしてるもんね、…。関にきいたもん。この間、とっ、…てもおいしい、極上な鍋くったんだけどさー―――」

「ええと?」

空とぼけようとどこか天井とかをみてみる秀一だが。

足先を神尾につかまれ、滝岡にエコーを当てられて動けない秀一を永瀬が見据えて。

「無理、させてるでしょー、おれが救ったその足先に―。正確にいえば、手術したのは滝岡で、おれはそのあと、原状復帰させる為にほんとーに気をつかって、本当に無茶苦茶努力して、ICUから秀一くんを出したんだけど」

「…―――あー、あの、その、…」

「死にかけてたんだよ?秀一くん?それをさ、おれたちが必死こいて生きてる方に戻してさー、生きた状態で集中治療室から出すのに、どんだけ苦労したのか、気にしたことないでしょ?」

「な、永瀬さん、…」

ふん、と永瀬が他所をむいてすねる。

「おれたちの苦労をさー、ね、滝岡ちゃん」

「おれはともかくとして、――…先輩に苦労をかけたのは確かだな、秀一」

エコーから視線を外し、顔を向けていう滝岡に鷹城秀一が、うんうん、と大きくうなずく。

「そうだよね?ごめん、だから、…――ぼく、そろそろ、」

「状態は悪くありませんね。感染なども起きていませんし、皮膚に傷もみられませんから、――でも秀一さん」

「…は、はい?神尾先生?」

思わず背筋が伸びる鷹城に、神尾が淡々と視線を向けて云う。

「爪先に違和感がある原因は、」

言葉を途中にして神尾が滝岡をみる。その滝岡は、エコーに使ったゼリーをぬぐい捨てて、いつのまにしていたのかディスポーザブルの手袋もまた廃棄容器に捨てると、エコー画像を拡大しながらくちにする。

「…負荷が大きいな。おまえ、相当の重量物を支えただろう。両足を使った際、以前怪我をした右足首のバランスが崩れて負荷がかかりすぎ、その影響が第一趾に出たんだろう。点状出血などはないが、少しばかり血管に怒張がみえる。整形に予約を入れておいたから、一緒に行こう」

「…あ、の?にいさん?そ、そんなことまでわかるんですか?」

完全に引きつった顔でいう鷹城に、滝岡がエコー画像を整形外科に転送して、一部拡大操作をしながらいう。

「その、…――必要なら、ぼく一人でいけますけど、…?」

にいさん忙しいし、と遠慮がちにいってみる秀一を、滝岡が穏やかに見据える。

「大丈夫だ。おまえがいつでも診療が嫌いで脱走しかねないことはこの病院では皆が良く知っているからな。ミーティングに多少遅れることくらいは許容してくれる」

「…に、にいさん、…――遅れるのはまずいですってば、にいさん?」

しっかりと肩を掴んで、滝岡が笑顔で秀一にいう。振り向かずに神尾に依頼しながら。

「大丈夫だ。神尾、先にいって聞いておいてくれ。頼む」

「はい、わかりました。秀一さん、次のミーティングは、病院全体での補充物資に関するものなので、患者さんの手術とかが絡んではいないですから、大丈夫ですよ」

にっこりという神尾の微笑みが少しばかり眩しくて。

「…神尾さん、―――」

無言で有無をいわさず診察へと連れ出す滝岡に、笑顔の神尾に見送られて。

 鷹城秀一が内心でしまったよね、と嘆く。

爪先に感じていた微かな違和感。それを、うっかり小声とはいえ口に出していいかけてしまったが為に。

 ええと、そのう、…。

「にいさん、あのね?…――それにしても、にいさんにとってつまさきって、何なの?」

姑息でも何か質問をして、それに意識を逸らして逃げられないかな、と。肩をしっかり抱かれて廊下を歩き出しながら、秀一は思っていってみたのだが。

 しっかりと逃がさないように肩を保持して、滝岡があっさりという。

「点状出血がないか観察する部位だな」

「…―――それって、」

つまりは、手術等を行った後、――ちなみに、滝岡が行う手術は全身管理を必要とする難易度が高いものが多い――術後に血栓等ができていないかを観察する部位として、足指や足の裏を確認することが多い滝岡が淡々というのに。

 また、後程、戻ってからついうっかり神尾にも確認してしまい。

 ――僕にとって、ですか、…?そうですね。足先は感染部位として、どうしても湿潤な傾向に置かれることが多いですから、…――皮膚の健全性や、傷がないかをまず観察する為の部位ですかね?白癬菌とか、感染時の特徴がないかをみたりする箇所でしょうか?

 ああでも、足裏などの細菌叢は、皮膚常在菌のバランスが崩れた際にpHが変化することも含めて、どういった変化が起きた際に常在菌の構成がかわるかなど、興味深い部位ですが、と。

 二人の答えを、しみじみ考えて。

 ――それって、爪先の意味が壊れてない?と。

 つまさきって言葉の意味が、アイデンティティ・クライシス起こしてる気がする、と思う鷹城秀一がいるのだった。

 つまさき。

 ちなみに、術後管理専門医師である永瀬にとっても、つまさきは点状出血が出現していないかや体色の変化をみる為に重要な部位になるそうである。

 ――つまさきって、一体。…

 整形外科受診の後、フルコースで検査をされ、その後。

かくして、関にストレスを多大に与えた仕事の影響で、以前怪我した足首を痛めていたことが判明した為に。

 ――有給休暇、強制されちゃった、…。

 にいさんたちの顔をみて和んで、それから仕事に戻るつもりだったのに、…と。

ワーカホリックなことでは滝岡に劣らない秀一が、強制的に休暇を取らされ、関家で温泉につかることになったりとするのだが。

 何はともあれ。

 つまさきの意味がアイデンティティ・クライシス、…―――。

 それはね?つまさき自身が自己同一性に悩んだりはしないだろうけどさ、…と。

 思ったりする秀一なのであった。



秀一くんは反省して仕事をセーブするべきだと思うんですよ


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