「鬼灯事件の後始末」
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「鬼灯事件の後始末」
「あの子は、本当に栄養摂取について認識が甘いですからねえ、…」
「その通りですね、確かに」
院長がしみじみという向かいに座って、ケンカすることもなく同意してうなずいているのは滝岡。
珍しいこともあるものだといわれそうだが。
この一事に関しては、意見が合うのは確かなことだったろう。
「たんぱく質の総量と、エネルギー摂取量が一番の問題ですね、…」
滝岡が深刻な表情でいうのに、院長がうなずく。
「まったくもって、その通りです。…急性期の腎症から回復したとはいえ、栄養摂取を怠って結局回復させた処の腎臓に悪影響を与えてしまってはいけませんからね」
「その通りです。しかし、腎臓に影響を与えない為には、ある程度のタンパクの制限は仕方ないかと」
「と、すると問題はエネルギー量が不足することですね、…。炭水化物はある程度取らせるとして、それでも本来なら受傷部位の回復の為には、高度なタンパク質の摂取を推奨したい処なのですが」
こちらも深刻に院長がいうのに滝岡がうなずく。
「そうですね、…。質の良いタンパクを摂らせるしかないでしょう」
「そうですねえ、…。できるだけ、色々な種類のタンパクから取るのが望ましいですね。植物性と動物性に、できれば例の9種類は平均的に高レベルのものを」
「アミノスコアですね、…。ああ、それでも赤身の肉とかは今回避けてもらった方がいいでしょう。どうですか?」
「ですねえ、…。できれば、トリのささ身や胸肉、それに大豆などが望ましいでしょうね」
「鉄分の補給には、別の方法をとりましょう。この際、鉄剤を」
「…――あの子が飲むかしら?」
橿原院長が真面目に滝岡を振り仰いでいうのに。
滝岡が深刻な顔で向き合う。
「…そうですね、…。関に工夫してもらいましょう」
「あら、錠剤を何か食べ物に混ぜるの?ネコや犬の仔じゃないんですから、そんな給餌の仕方では食べないのでは?」
「それはそうですが、…。液状のものなどにして、――確か、子供用の――ゼリーなどにしてもらっては?」
「鉄補給は必須ですしねえ、…。困りますねえ、あの子のわがままには」
「秀一がわがままで昔から食事に気を使わないのはどうにもなりませんからね、…」
「その分、関くんがきちんとご飯を食べさせてくれている間は安心できるのですけどね?」
「…今回は、関も協力してくれますから」
「でも、関くんも業務が重なれば、そういつまでもあの子を優先などしていられないでしょうからねえ、…事件なんて、突発的に起こるものですし」
「…―――何か、他にも方策を考えないといけませんね」
「まあ、お仕事があるのがいけないのですけどねえ、…」
「だからといって、関が暇であるのを、―――いえ、暇であれば、世間が平和だということだとあいつはよろこぶでしょうが」
「刑事さんなんてお仕事、因果なものですよねえ、…」
「そうですね。処で、大豆を原料とした食材なら、アミノスコアも優秀ですし、食物繊維もとれます。全体的に薄味にするのは譲れないとして、―――」
「そこは心配しなくてもいいでしょう。関くんの作るお料理はだしの効いたとても美味しい料理が多いですからね?元々、塩分はかなり抑えたものを普段からお作りですよ?」
「そうなんですか?…わかっていなくて」
「まあ、洋風のお料理を少なくしていただければいいでしょうね」
「その点は心配ないでしょう、…。いずれにしても、良質のたんぱく質を多種類の材料で、ということにすれば」
「タンパクの供給不足を回避しながら、受傷部位の回復と腎機能の保護を両立できるかしらねえ、…」
「難しい問題ですが、…――少なくとも、カリウム制限をしなくていい分は助かります」
「…あの子にそこまで求めましたら、完全に無理でしょうからねえ、…」
「関なら工夫はしてくれるでしょうけれどね」
「ええ、関くんでしたら、可能でしょうけど、…。任務で他の仕事に就いているときに、あの子がまともな食事をとるとは思えませんからねえ、…」
「その通りです、…ーーー」
滝岡が真っ暗になり、うつむいていう。
その向かいで、深刻に院長も腕組みをして。
「問題なのは、本人の自覚のなさです。おそらく確実に、死にかけたこともいまだに傷が完治なんてしていないことも無視して、仕事に走るでしょうからね」
「―――誰か、お目付け役をおけないんですか、院長」
「無理ですよ、…。普段から自由に好きなようにしていますからね?」
「…―――とにかく、関に一任しましょう」
「そうですね。関くんに期待しましょう。…少なくとも、あの子が回復して、腎機能がある程度――。そんな贅沢は言いませんから、この急性期を乗り切った後の回復期を無事に過ごせれば」
「…腎機能もこれ以上損傷せずに経過させることができるかもしれまんせんからね」
滝岡と院長が顔をあげて、視線をあわせる。
「では、関くんにレクチャーしましょうか」
「はい。メモは作りましたからね。あいつに、関に秀一が食べても大丈夫な食事を作成してもらいましょう」
「食べるのに無頓着なくせに、美味しいご飯は大好きなあの子のことですからね。関くんが作った料理なら、よろこんで気が付かずに食べるでしょうから」
「…ええ、関には悪いですが、ここはがんばってもらいましょう」
院長がうなずき、滝岡もまた決意した表情で。
珍しくも滝岡が院長とまったく一言もケンカせずに。
院長室で重ねていた検討と議論の末に。
かくして。
「…―――おまえら、…どーして人をあいつの、――本人に聞かせればいいだろう!」
関の言葉もまったくきかずに。
院長室に関を呼び出して。
これから退院して自由の身となる鷹城秀一の栄養管理に関する細かすぎる説明を延々と。
「だから、たんぱく質は良質なものをとらせてほしいんだ。…アミノ酸スコアというものがあって、この図なんだが、―――」
必須アミノ酸が揃ってとれないと、腎機能に影響があってな、と続けている滝岡を、関が睨む。
「この図はなんだ!そういう説明はいらないっていってるだろう!退院するのはあいつだぞ?おれじゃない!」
「ですからですねえ、…。御本人に栄養管理が難しい場合には、ご家族のご協力をえて、大変でしょうけれども努力していただく必要がございますからねえ、」
「――院長!あのな?」
横から淡々といってくる院長に関が視線を向けるが。
滝岡がその肩に手をおいて、タブレットの画像を強引にみせる。
「いいか?これがアミノ酸スコアだ。簡単にいうと、人体を構成する為に必要なアミノ酸は9種類あるといわれていて、―――」
つまり、それらのスコアが揃っていなければ、低い所から漏れてしまって役に立たなくなるんだ、と。
「…どうしておれが、管理栄養士が学ぶようなことを学ばなくちゃならないんだ!」
タブレット画面の隅に表示された管理栄養士病院食管理患者説明用――とか書かれた文字に反応して関がいうのに。
「勿論、秀一が絶対に憶える気がないことがわかっているから、おまえに頼んでいる」
「…―――本人に自覚させろ!」
「どうやってだ?」
関の叫びに、滝岡が座った目でほぼ無表情になっていうのを前に。
「…―――滝岡、…」
「できる方法があれば、教えてほしい」
滝岡の言葉に関が固まる。
その後ろから。
「あら、お時間を無駄にしている暇がございましたら、赤身肉をさけて鉄補給をする方法を考えていただけません?錠剤やら液体のお薬で提供しても、無理というものでしょう?あの子がちゃんと飲むとはおもえませんし」
「いや、…少なくとも、薬ならちゃんと飲むでしょう?いまだって飲んでますし」
関が振り向いていうのに。
院長が首をかしげる。
「あら、そうだったかしら、…?こどもの頃、お薬をあげてもいやがって、ぺっ、していた記憶しかなくて」
院長が首を傾げて頬に手をあてていうのに、関が眉を寄せる。
「いつの話ですか、…。滝岡?おまえも同じイメージでいってないよな?」
振り向いて滝岡を疑念に満ちた視線でみていう関に。
滝岡がうなる。
「うーん、…違うとは言い切れないな、…。そうか、流石に鉄剤を他の薬と一緒に渡せばちゃんと飲むか」
「飲んでるよ、…他の薬。何言ってんだ、おまえたちは、…重度の過保護すぎるだろ?おまえたち!」
滝岡が腕組みをして考え込み。
院長が首をかしげて関にいう。
「それでも、あの子が一人にしたらまともなご飯も食べずに活動するのはご存知でしょう?」
「…―――」
沈黙する関に、滝岡が復活して顔をあげて視線をあわせる。
「関、頼む。あいつは、秀一はいつでもそうだが、食に気を遣わなさすぎる。今回の損傷は冗談では済まないんだ。このままきちんと回復過程を辿らなければ、最悪、普通に歩くことはできなくなる。」
「…滝岡」
滝岡がしずかに続ける。
「そして、これ以上腎機能を損傷させれば、透析も視野に入ってくる、―――。いまが肝心なんだ」
真剣に向き合っていう滝岡に関が沈黙する。
院長がしずかに。
「そうですねえ、…。AKIの急性期を乗り切ったのは運が良かったのですよ。だからといって、これからも運を期待してはいけませんからね」
「確かにそうですね、…。関、退院できるくらいに状態がよくなったのは確かだ。だからこそ、これから無理をしそうなんだが、…」
「…するだろうな、…」
滝岡の言葉に関が天を仰ぐ。
鷹城秀一が無理をせず穏当に仕事をこなす状況など、想像が拒否されるくらいに有り得ない光景で。
「だが、いまが肝心な管理が必要な時期であることは確かなんだ。これからの一生を、どうすごすことができるかについて、」
「ですねえ、…。下手をすると、一生車椅子ですごすことになりましたのよ?あの子。それでも活動することには色々な方法はありますけれど、あの子は出来る限り、自由に動けるようにしてあげたいですからねえ、…」
「おせっかいといわれればそうなんだろうがな」
院長の言葉に滝岡が視線を伏せる。
「…まあ、な、…―――」
鷹城の仕事は多岐に渡る。各部の調整といった事務仕事もあるが。
――好きに動けるようにしてやりたいってのは理解できるんだけどな。…
しかし、その結果。
「…あいつが無茶するお膳立てをしてるような気がするんだが、…?」
「それは仕方ありませんねえ」
院長が関の言葉にうなずき。
滝岡が深くうなずく。
「そうだな、…。確かに回復すれば、――自由に動ける状態を今後も続ければ、より無茶をするんだろうな。…」
「それでも、ねえ」
「そうですね」
重度の保護者二人が大きくうなずく。
「鳥は飛ぶのが仕事ですからねえ、…」
「自由にできるだけ行動できるように準備はしてやりたいが、…―――その後の行動を選ぶのは秀一だろうな」
院長と滝岡が続けていうのに、関ががくりと肩を落とす。
「おまえら、…それでおれに」
「犠牲になっていただきますね?」
「よろしく頼む、関」
「…――――」
かくして。
どうあがいても、確実に。
重度の保護者二人に鷹城秀一が回復期を無事乗り切る為の管理栄養士ばりの栄養管理を託されることは避けられずに。
「…――この細かい注意書き、…」
鷹城があきれ。
「おまえの重度な保護者達、どうにかしろ」
と、関が嘆く事態に発展するのだが。
つまりは、事件に巻き込まれて負傷して、一度ならず死にかけた鷹城秀一を心配して。
橿原院長と滝岡が、食事制限の必要な秀一の為に、実に細かい制限食の作り方と必要な情報を関にレクチャーするという。
そうした光景が、この刻みられたのであった、――――。
つまりは。
滝岡も、院長も。
鷹城秀一の重度の保護者達の一人であるという。
そんな鬼灯事件の後始末である。
「鬼灯事件の後始末」
了




