鬼灯 20
「関が取り調べを受けてるって?どうなってるんだ」
戻って来て慌てて山下に訊く斉藤に、冷たく振り仰いで。
一課に戻って仕事をしていた山下が、慌てている斉藤を冷たくみる。
「知りませんよ、課長に報告した後、斉藤さんこそ、何処にいっていたんです?」
「俺だって私生活くらいあるよ!ってのは冗談だが、何で、昼飯買いにいってる間にそんな急展開が起きるんだよ?ほら、頼まれてたいちご大福」
「ありがとうございます。遅かったですね」
「…――――おまえさん、もしかして、いちご大福遅れたから、怒ってるの?おれが買ってくるの遅くなったから?それって、人にもの頼んでの態度か?」
「…―――斉藤さん、でも二十分で買ってくるっていってましたよね」
淡々という山下に斉藤が沈黙する。
沈黙して、山下の机に、袋から取り出して、――しばらく手に握っていた物を勢いで置く。
「…――――ほらっ、!いつもの大福屋で、くじ引きやってて、その景品が当たったんだが、そのスペシャルくりぜんざい白玉大福セット!」
斉藤が葛藤の末、差し出したスペシャルパックを、うれしそうに山下がみて満足そうにする。
「斉藤さん、妙にこういうくじ運が良いですからね」
「おまえ、それ狙っておれに買いにいかせたのかよ?そーいうこと人生の先輩に頼むか?それに、一応、警察でだっておれはおまえの先輩だぞ?」
「もうすぐ、階級では追い付くと思いますが」
「…――昇進試験、受けたの?」
「はい、受けました。階級社会に入った以上、昇進するのは仕事上役に立ちますからね」
「…――――おまえが上司になっても、いまとあまり変わらん気がするのは何で何だろうな、…」
隣の席に座りながら、斉藤がぼそりというのに構わず。
御茶を蒸らしていたマグカップの蓋を開けて、山下が云う。
「まったく、御茶が出過ぎる処でしたよ。くりぜんざい白玉大福、一つ食べていいですよ」
「…おっ、ありがと、って、おれが引いて当てたんだぞ?たく、御茶がいれすぎになるから怒ってたのかよ?…それ赤いのはなに?」
山下のカップを覗いて驚いて云う斉藤に。
「ルイボスティーのレモンブレンドです。結構いけますよ」
「…そ、そうか。…相変わらず、訳のわからん趣味してるな、…。な、山下。おまえ、課長が何考えてるかわかるか?…関の奴、――――」
取り調べって、と。難しい顔をして、手を大福のパックに伸ばしてとって、一口食べて、うまい、と顔を綻ばせてから。
ちら、といまはいない課長の席をみて斉藤がいうのに。
「食べてるときに、難しいこと考えない方がいいですよ」
「難しいってな、…。関のこと、心配じゃないのかよ?」
「…――――」
いってから、ちら、と斉藤に向けた視線に、沈黙する。
ちいさく頷いて、首を振って。
「ご、ごめん、…ごめんっていうか、わるかった、…な?山下ちゃん」
冷ややかな視線を向けて、山下が何も云わずに視線をルイボスティーに戻す。
「大福、食べててください」
「う、うん、わかった、…――――」
沈黙して、大福を食べて。
「…うまいかも。拙い、こいつはうめえ」
美味しいのに困って顔をどう作ったものかと奮闘している斉藤を隣に。
「…――――」
軽く息を吐き、茶を手に視線を伏せて。
斉藤が課長の席をみて、ぶつぶつと唸るのを聞いていた。
「くそっ、何で鷹城さんの件で関が取り調べを受けるんだよ?鷹城さんを助けたのは関だろうに!」
小声で呟いている斉藤に微苦笑を零して、調べている途中の画面に視線をおく。
―――そもそも、どうして先輩は橿原さんと一緒に鷹城さんを助けることが出来たのか…――。
「ったく、大体、何で関が鷹城さんを、―――…そんなの有り得ないことくらい、誰にだってわかるだろうに、…!」
斉藤の声が、耳に届く。
―――助ける事が、何故、出来たのか。…―――
その疑問の答えは、まだ無い。
取調室から、一礼して関が出て行く。
「…これで、間違いはありませんか?」
「はい、全部です」
「本当に他にはありませんね?」
「ありません」
眸を閉じて頷く関に、調書を記録していた係官と、聴取担当の監察官、それに一課の課長が、無言で関をみる。
監察官が調書を閉じる。
「わかりました。追って処分を伝えるまで、自宅謹慎してください」
無言で関が頷いて席を立ち、背を向ける。
その背に向けて、課長が声を掛ける。
「関、おまえさんな、―――――…」
声が無いまま立ち止まる関に、言い掛けてつまるのを、監察官が引き取る。
「単独行動は控えて、誰かに自宅まで送ってもらってください」
「…―――」
頷き、関が部屋を出る。
地下第一資料室。
鑑識の西が、橿原を前に、大きく引き伸ばした写真を数点並べている。
橿原が、数枚の写真を淡々とみる。
「関刑事は、凶器と断定された鉄の棒を、橿原さんの見ている前で使っています。その際に付着したと思われる指紋は採取できています。それがこちらです。ですが、これがその救助の際以前に付着したのかどうかについては、―――」
「血痕の下に指紋はありませんでしたか?」
説明する西を遮り、さらりと橿原が問うのに視線を向ける。
「いやなことを聞きますね、橿原さん」
「あったんですね?」
「…あのくそ坊主の供述を課長からきいて、もう一度調べ直してみましたよ」
いいながら、もう一枚の写真を、先にみせていた写真の下から取り出す。
それを、感情の伺えない眸で橿原が見る。
「ありましたか」
「…改めて確認しました。血液の下に、僅かですが、指紋の欠片が、――――発見されました」
写真に拡大された血痕に染まる中で蛍光処理された指紋の一部。
「関刑事の指紋と一致しました。左手の親指の指紋の一部です」
橿原が拡大された鉄の棒の表面に血痕の下に浮き上がるスタンプされた指紋を見つめる。




