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関&鷹城 「鬼灯」  作者: 御厨 つかさ(TSUKASA・T)


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13/29

鬼灯 13


「鷹城さん、大丈夫なのかい?それ点滴?」

訊ねる一課長―――神奈川県警刑事部刑事課捜査一課長―――に、鷹城が明るい笑顔で、さらりと答える。

「つけとかないとダメって怒られちゃって。結構チャーミングでしょ?自分で交換もできるんですよ」

「…へえ、痛そうだけど。けど立派なもんだね、電動なのかい?この車椅子」

「そうですよ。…でも、結構警察もいい加減ですね。あんまり立派なバリアフリーとはいえないような。ここまで来るのにも、結構苦労しちゃいましたよ、あ、橿原さん、関も。いらっしゃい」

「鷹城君」

一課、―――つまり、県警本部の刑事課の部屋を前にした廊下に、普通の顔をして笑顔でいる鷹城に。

無言で思わずそう答えてから見つめる橿原と、その背後で固まっている関に鷹城秀一が微笑んでみせる。

「どうも。飽きたので退院してきちゃいました」

にっこり、という鷹城を前に一課の入り口で動きを止めている二人の背後から、息を切らせた声が轟いていた。

「…秀一!」

長身の体格の良い白衣姿に、周囲の視線が集まる。

「何をしてる!秀一!」

「あ、にいさん、いや、警察のバリアフリーがどの程度のものか自分で身をもって確かめてみるのもいいと思って」

「…思ってじゃない!一人で動くなとあれほどいっておいたろう!何の為におれがつきそっていると思っているんだ!」

車椅子の鷹城に詰め寄って怒る滝岡に、背後から淡々とした声が掛かる。

「…つまり、滝岡君。あなたが鷹城君に移動手段を与えて、本来絶対安静の病室からこの警察まで連れ出す手助けをしたというわけですね?きみは医者では無かったのですか?」

振り向いて。立て板に水で滑らかに続けた橿原に、初めて気付いて滝岡が動きを止める。

 思い切り顔を引きつらせて、長身の滝岡が橿原をみていう。

「院長、…こんな処で何してるんですか。といいますか、お時間があるのでしたら、是非、院長としてお仕事をしていただきたいのですが?」

「あら、それは滝岡くんが院長代理としてなさってくださるでしょう?僕、単なる名誉職ですから」

ご遠慮なさらずにね、とにこやかに淡々と――随分と表情が器用だ――答える橿原に、向き合って動きをとれずに滝岡が固まる。

 滝岡総合病院院長と滝岡総合病院院長代理の二人が対峙しているその傍らから。

 のんびり、のどかな声がかかる。

「まあまあ、…――滝岡の若先生も。今日はお揃いで?若先生の方は、鷹城さんの付添いですか」

場を読まずに訊く一課長を振り向いて、滝岡がくちを濁す。

「…まあ、その、そうなりますか、」

「付添い、ですか?」

冷淡な声でいう橿原に、滝岡が顔を引き攣らせる。

「…あなたこそ、仕事もしないで何してるんですか、…!」

つい小声になる滝岡に、橿原がしれっとした視線を投げて応える。

「あら、きみはそれをいうならどうしたの?昨夜は当直で今日は休み?いま平日の昼間ですよね?患者さんは?」

「…―――今日、手術の予定は入っていないので。おっしゃる通り、いまは休みです。尤も、午前中はあなたの貯め込んだ書類を処理する予定だったんですが」

睨む滝岡に、しずかに橿原が視線を逃す。

 しらっと他所を向いて、あら良い天気ですねえ、などと空もみえない壁に向かっていってみせている橿原と苦虫をかみつぶしたような顔をしている滝岡を一課長がなだめる。

「まあまあ、橿原さんも、若先生も。そちらの病院には、いつも解剖とかで無理いってお世話になってますから。橿原先生が解剖引き受けて下さって、事件でも本当に助かるようになったんですから。それまでとは段違いですよ。ね、若先生も、その内、司法解剖、お願いしますよ」

にこやかにいう一課長に滝岡がこまった顔をする。

「―――――…申し訳ないんですが、おれは司法解剖は」

「あら、だめですよ、課長さん。この人は、生きてる人専門だから。僕はもっぱら、死人の方が相性いいんですけど」

 …―――それは、そうだろうな…。

橿原の言葉に視線を逸らして、滝岡が額に手を当てて視線を逸らす。

 滝岡総合病院院長の役職に就いている橿原だが、専門は法医学だ。本来、臨床医が院長職に就くことが自然だが、事情があって、滝岡総合病院では院長職に橿原を迎えている。医院、病院では院長職は医師にしか行えない為、過去事情があって橿原を院長に招聘したことがあったのだ。

 橿原が自身を名誉職だというのは間違いでもない。

 ――尤も、本当に仕事をして頂きたいんだがな、…。

過去の事情はともかくとして、いま現在はいくら仕事をしてもらってもいいと滝岡は思っているのだが。

 ぬらりひょんとよく喩えられる橿原を前に、滝岡が山積している病院での仕事を思い出して少しばかり視線を遠くする。

 その二人の遣り取りを後ろに、そーっと電動車椅子を操り、既に勝手に中に入っていく鷹城に。

「おい、おまえ、待てっ!どうして、部外者のおまえが、勝手に一課に出入りしてるんだ!課長も止めてください!」

叫ぶ関に、のんびりと車椅子に道をあけて一課長が話し掛けている。

「どう?この敷居、通りやすい?バリアフリー?何しろ古いのに建物が文化財なもんだから、改装とかできなくてさ。ご存知だと思うけど。風情はあるんだけどねえ、…」

「―――…課長」

あきれて、関が呼び掛けるのに、小柄な一課長が振り仰ぐ。

「関、おまえさん、怒ってばかりだと、血圧上がるよ?そこの先生方にみてもらわないといけなくなるだろ?あ、そういや、検診、おまえさん、またさぼったろう。経理がうるさいんだよ、それと山下が」

最後あたりをこそり、と声を落としていう一課長に関が眉を寄せて額を抑える。

「…―――課長」

そして、視線を上げると、好きに動き始めようとしていた鷹城に厳しい視線を向ける。

「何だって出て来たんだ?鷹城?」

その前に立って、動くのを阻止して関が車椅子の鷹城に屈込み、顔を寄せて睨んできく。

 そこに窓際から一課長がのんびりした声を掛けて。

「――…廊下にはみ出てないでみんな中入ったら?けど、車椅子って結構大きいね」

一課長に促されて一同が無言で一課に入る。

 既に先に入っていた鷹城が、車椅子を器用にくるりと回しながら、明るく答える。

「ですよね、車椅子って結構大きいからバリアフリーって結構大変ですよね」

「それで、鷹城君。君が入院していなければいけない状態を押してまで、ここに戻ってきたのは何故なんです?」

冷ややかな視線と平板な声でいう橿原に怯まず、鷹城が笑顔をみせる。

「いやだな、橿原さん、怒らないでくださいよ」

途端に関に睨まれ、滝岡の苦虫をかみつぶしたような顔に迎えられ、最後に橿原の冷たい視線に出会って流石に視線を泳がせる。

「じゃ、皆さん、できるだけ静かにね?この書類書かないと山下に怒られるから」

鷹城の視線に軽くいうとデスクに積まれた書類に視線を向けて、一心に仕事を始める振りをする一課長に。

「…課長さん、と。…皆さん、もしかして、怒ってます?」

「君の軽率な行動には呆れています。こちらのバリアフリーがどの程度のものか、身をもって試すいい機会かもしれませんが、このような無謀な行動に出る必要があるとは思えませんけど」

「……―――」

冷たくいう橿原に、机に腰掛けて眇めた目で関が鷹城を見る。

「で、何しに来たんだよ」

「そうだ。どうしても事件解決の為にこちらに戻りたいということだったが」

腕組みしていう滝岡に、視線を天井に逸らしてみる。

「えーと、だって、悔しいじゃないですか」

「くやしい?」

関がいうのに頷いてみせる。

「だって、襲われたっていうのに記憶がないんですよ?誰かさんにはばかにされるし」

「わるかったな」

吐き捨てるようにいう関に、鷹城が舌を出してみせる。

「ですからね、記憶、最初から行動してみれば思い出すんじゃないかと思って」

「…思い出す?」

眉を寄せる関に頷いてみせる。

「ほら、よくいうでしょ、忘れものをしたときには、そのときの行動を繰り返してみれば思い出すことが多いって」

難しい顔をして眉を寄せたまま、関が鷹城を見る。

 にっこり、鷹城が微笑んで、じゃ、と手を振って動こうとするのに。

 動きを止めていた関がくちをひらく。

「…――おい、ちょっとまて」

「はい?」

動きを止めて、振り向いてにこやかに笑顔で見返す鷹城に、難しく眉を寄せて腕組みしていた関が、難しい顔のまま睨み返す。

「忘れものって、――最初って、おまえ、ここにいたのか?」

「えーと」

空を眺める振りをして、天井をみてから。

「―――…文化財指定だけあって、流石、趣のある天井だよね」

「おまえがみてる辺りは、指定前に工事して修復した辺りだ」

「えっと、…」

視線を逸らす鷹城に、一歩出て、関が睨みつける。

「おまえな?あれほど、勝手に入り込んで資料を見るな、といってあるだろうが!おまえは部外者なんだぞ?警察じゃないだろうが!それを、…また、此処へ来て何か勝手に見てたのか?そうなんだな?」

怒る関に、視線を泳がせている鷹城に。

「課長!」

「え、おれ?」

突然、怒る視線を向ける関に、一課長がびっくりして顔を上げる。

「もしかして、課長、またこいつが勝手に此処に出入りするのを止めて無かったんですか?あのですね?こいつは、警察官じゃないんですよ?部外者に捜査資料をみせていいと思ってるんですか、…!」

「いや、そのー、あのだね?関君、…。つまりだ。鷹城さんには、いつもいろいろお世話になってるし、ほらね?ほら、よくいうじゃないか、協力関係が大事って!それに、その、いろいろと事件解決にも、―――」

語尾を濁す一課長を、関が睨みつける。

「課長は事件解決に役立つなら、警察官じゃない奴に資料みせるっていうんですか!」

「あ、いや、関君、…。見せたりは、その、…。ちょっ、と、出入りはされてるかもしれないけど、ほら、協力って大事だろ?そう怒らずに、――――」

「これが怒らずに、…―――何してるんだ、滝岡」

怒って続けようとした言葉を関が途切れさせて。



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