表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

6.芝浜の夢

青森駅東口。雪と霧が混じった朝7時過ぎ。

ミレニアムの元日は、思ったよりも静かだ。

ハイエースのエンジン音だけが、凍りついた世界に響いている。

景に促されて車から出ると、3人の呼気が規則的に白い煙を吐き出している。



「―――なあ、遼太郎、マリアちゃん。ここで別れよか」

「は? 何言ってんだよ! 一緒に――」

「もう、俺には運転手は必要ないんや。手、震えてないやろ?」


景が俺の腕を掴む。冷たい、でも熱のこもった手は、確かに震えていなかった。

その瞳を見ても、景の眼差しはなんの揺れもなかった。


「ケイ……いやだ……一緒に、行くヨ……!」

「泣かんでよ。俺、女の子の涙、弱いんよ。ブラックサンダーあげるから、なあ、泣かんでよ。」


景はマリアの頭をそっと撫でる。

どんなに撫でても、マリアの涙は次々溢れていく。


「落語の噺やないけど、全部、夢やと思てくれ。――このハイエースも、銃も、俺が全部持ってくから。北海道で、山本さんの後釜、ちゃんとしてくるから。それが、俺の最後の"サゲ"ってやつや」



『……朝起きてみたら、全部夢でござんした……』



景は俺の目を見て、静かに笑う。

地吹雪が唸りを上げる。景はゆっくりと後ずさり、車へ歩き出す。そういえば、ハイエースはエンジンをかけたまま。気がつくと俺とマリアの荷物も、外に出されている。

景は素早く運転席に座ると、アクセルを踏むのが見えた


「待て、ホントに、お前ッ………」

「遼太郎、お前はもう、借金も返した。マリア、お前はまだ悪いことしてへんやろ。――俺だけ最初から、戻れへん道選んでたんや」


消えそうな小さな声が聞こえ、ハイエースが雪煙を上げて、北へ。

青函トンネルへ、北海道へ、まっすぐに消えていく。


「景! 待てよ! 夢なんかじゃねえだろ! 景ぃっ!!」





手元に残ったのは、間違って山本のところから持ってきてしまったトートバッグ。中を開けると木箱の拳銃はなく、代わりに――革の財布が入っていた。開けてみると、札束がぎっしり入っている。


『……おい、これ見てみろ! 金だ、金! 五十両だ!』


南雲は涙をこらえきれず、笑った。

マリアも、なぜか泣きながら笑った。外は雪。

でも、もう誰も追ってこない。――本当に、全部、夢だったのか?それとも、景が最後に仕掛けた、一番大きな「芝浜」だったのか?


青森駅のホームアナウンスが流れる。

上り「スーパーはつかり」東京行き、間もなく発車します。下り「白鳥」新潟経由酒田行きも、もうすぐとアナウンスされる。

マリアが俺の手を握った。冷たいけど、しっかりした力だった。


「リョータロー……どこ、行く?」


俺は空を見上げた。

雪が、少しずつ止んでいた。


「……どこでもいいや。生きて、笑える場所なら」



俺たちは立ち上がって、改札へ向かいゆっくり歩き出す。

ホームは二つに分かれている。右も左も、どっちでも行ける。

マリアが振り返って、小さく笑った。

初めて、素の、本当の笑顔だった。


「ケイ、ありがとうネ」


雪がやみ、青空が覗いていた。新しい、ミレニアムの日の出だ。

俺たちは、好きなほうのホームへ、新しい人生を買いに行った。


冬は、まだ終わっていなかったけど、俺たちの逃亡は、ここで終わった。

遠く、青函トンネルの奥で、景はきっと、骨までしゃぶり尽くされてしまったのだろうか。



────────────────────────


「続いて、胆振・苫小牧市で今夜発生したと見られる銃撃事件です。

午後10時過ぎ、苫小牧市内の国道36号線沿いにある飲食店付近で、複数の発砲音を聞いたとの110番通報が相次ぎました。

現場付近では血痕とみられるものが確認され、黒いワンボックスカーが猛スピードで逃走したとの目撃情報もあります。

警察は暴力団同士の抗争事件の可能性もあるとみて、稲川会系組織と山口組系組織の関係者から事情を聴くなど捜査を進めています。

けが人の情報はまだ入っていません。」


────────────────────────


「年の始めから物騒な話題です。

苫小牧市内で昨夜遅く、飲食店関係者とみられる男性が病院に搬送され、右足を撃たれた重傷です。

男性は『知らない』と話しているそうですが、警察は稲川会系小林組の関係者とみて調べています。

現場は、小林組組長の親族が経営している店で、店内には拳銃の空薬きょう3発が落ちていたということです。

犯人は覆面で、黒いハイエースで逃走したとみられ、警察では抗争事件として捜査本部を設置しました。」


────────────────────────


「速報です!苫小牧でまた発砲!

今朝6時半頃、苫小牧東港近くの駐車場で、稲川会系組員とみられる30代の男性が左肩を撃たれて倒れているのが発見されました。

男性は意識はあるものの『何も言いたくない』と話しているそうです。

現場にはまたしても黒いハイエースのタイヤ痕が残されており、警察は同一犯の可能性が高いとみて、港湾エリアの監視カメラ映像を解析中です。

地元では『年末に東京から妙な改造拳銃が持ち込まれたらしい』という噂が流れていて、港関係者からは『フェリーで逃げようとしたんじゃないか』という声も上がっています。」


────────────────────────


「苫小牧で起きた連続発砲事件、警察は今日、新たに2つの点を明らかにしました。

① 使用された拳銃は、サイレンサー付きの改造拳銃で、極めて珍しいタイプ

② 被害者はいずれも『山本派』の残党と呼ばれるグループに近い人物

捜査関係者によりますと、事件の背景には、先月東京・歌舞伎町で殺害された山本某こと『山本組』の幹部が仲介していた“ロシア製改造拳銃の密輸ルート”を巡るトラブルがある可能性が高いということです。

警察では、この拳銃を“欠陥品”として意図的に北海道に持ち込もうとした勢力と、それを阻止しようとした勢力の間で、抗争が勃発したとみて捜査しています。」


────────────────────────


「苫小牧港で今夜、またしても黒いハイエースが目撃されました。警察は全国に緊急配備を敷き、重点捜査中です。

捜査本部は『犯人はすでに道外に逃亡した可能性が高い』として、青函フェリーと苫小牧~八戸航路の監視を強化しています。」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ