彼氏が女の子になっちゃった!? ~そして私が男に!?~
性別が変わる話を書いてもらいました。
並行世界の話。
「……え、ちょっと待って。誰?」
朝。
目をこすりながらベッドの横を見ると、そこには――長い髪の、知らない女の子がいた。
いや、正確には「知らないようで、めちゃくちゃ知ってる顔」だった。
「お、おはよう……まこちゃん」
その声に、私は固まった。
少し掠れた、でも耳馴染みのある声。
――峻の声。
「え、えぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」
布団をぶん投げ、私は叫んだ。
寝ぼけてるとか夢とかそういうレベルじゃない。目の前のその女の子が、どう見ても峻。顔立ちは整ってて、でも頬の線がやわらかくて、髪がさらさらで――あの不器用な笑顔まで、そっくりだった。
「落ち着けって……オレだよ、佐波峻。なんか、起きたらこうなってて……」
「なんで女の子になってるのよ!!!」
「知らねぇよ!!!」
二人の声が朝のアパートに響く。
隣の部屋の犬が遠くで「ワン」と返事した。
とりあえず落ち着こうと、私はお茶をいれる。峻――いや、“女の子版峻”はソファに体育座りしている。パーカーの袖から出る手首が細くて、目のやり場に困る。
「……なんか、視線が変だぞ、まこちゃん」
「だって、しゅーが、しゅーじゃない……!」
言いながら、私の心の中には妙な動揺が渦巻いていた。
目の前の“彼氏”が、女子にしか見えない。
なのに、話してる内容も口調も完全にしゅー。頭が混乱する。
「学校どうすんだよ。オレ、この格好で行けねぇぞ」
「行けるわけないでしょ!? ていうか制服どうするのよ!」
押し問答の末、私の制服の予備を貸す羽目になった。
スカートをはいて立つ峻。――似合ってる。驚くほどに。
「……おい、まこちゃん。そんなに見んな。恥ずかしいだろ」
「似合うから仕方ないでしょ!」
そして登校。
案の定、クラスは大騒ぎだった。
「誰この子!? 転校生!?」「佐波の妹!?」「え、もしかして峻の彼女!?」
――いや本人です。
そう言い出せるわけもなく、私と峻は目を合わせて同時にため息をついた。
放課後。屋上で風に髪をなびかせる“峻”。
女子の姿のまま、少し切なそうに笑って言った。
「なぁ、まこちゃん。もしオレ、このまま戻れなかったら……どうする?」
「……それでも、しゅーはしゅーだよ」
風が吹く。沈黙。
そして――
「って、いやいやいや! 戻ってよ!? このままだと私の恋愛カテゴリぐちゃぐちゃになるから!!!」
「……そこ心配すんのかよ!」
二人して爆笑した瞬間、ぱちん、と乾いた音がして、世界が揺れた。
気づけば、峻は元の姿に戻っていた。
「……え?」
「……オレ、戻った?」
互いに見合い、そして同時に叫んだ。
「――なんだったのこれぇぇぇぇぇぇぇ!?」
結局、原因は不明。
翌日、理科室のビーカーから変な光が出ていたのを見たけど、もう誰も突っ込まなかった。
ただひとつだけ、まこちゃんは心に決めた。
――二度と、スカート姿の峻を思い出さないようにしよう。
(たまに夢に出てくるけどね。)
翌朝。
目が覚めた瞬間、視界の高さが変だと気づいた。
カーテンの向こう、朝日がいつもより低く差し込んで見える。
手を伸ばして顔を触った瞬間――私は硬直した。
「……え、なに、これ」
頬の感触が違う。
喉が、低い。
声を出した瞬間、男の声が返ってきた。
「うそでしょ……!?!?」
慌てて鏡の前に立つ。
そこには――寝癖のついた短髪の男子がいた。
目つきだけは見覚えがある。そう、皆川真……いや、“元・皆川真”。
混乱する頭でスマホを手に取り、通話ボタンを押す。
「しゅー! 起きて! 大変! 私が……!」
『おはよう、まこちゃ……? 声、どうした!?』
「逆よ! 今度は私が男になっちゃったの!」
数十分後。
制服のまま駆けつけてきた“女の子姿の峻”は、玄関で言葉を失った。
「……え? お前、誰?」
「誰って、真だってば!」
「嘘だろ!? オレの番終わったと思ったのに!!!」
二人で顔を見合わせて、同時に叫ぶ。
「「なんで交代制なのよ!!!」」
結局、学校には「いとこが遊びに来てる」という苦しい設定で行くことに。
廊下を歩くと、男子たちがざわついた。
「皆川のいとこ、超イケメンじゃね?」
「マジでモデルかと思った」
まこちゃん――いや、今は“真(♂)”――は頬を引きつらせながら笑う。
内心では(ちょっと悪くないかも)とか思ってる自分に、頭を抱えた。
一方、女子になった峻は、再びクラス中の注目の的だった。
男子たちが「連絡先教えて!」と群がる。
それを見た真(♂)が、むくっと立ち上がる。
「おい、彼(女)に手ぇ出すな」
低い声が教室を震わせた。
しゅー(♀)がぽかんと口を開け、頬を染める。
「まこ……じゃなくて、真……お前、今の……ちょっとカッコよすぎだろ」
「うるさい。誰のせいでこんなことになってると思ってるのよ」
放課後。屋上。
二人並んで座り込み、沈む夕日を見つめる。
「なぁ、これ、どうなってんだろうな」
「わからない。でも、もし明日もこのままだったら……」
真(♂)は、少し間を置いて言った。
「……守ってあげるわよ。しゅーのこと」
峻(♀)は驚いたように目を瞬き、そして笑った。
「なんか、立場逆転してるな」
「たまにはいいでしょ」
その瞬間、また“ぱちん”と空気がはじけるような音がして、二人の体が光に包まれた。
気づけば――元通り。
峻は男に、真は女に戻っていた。
沈黙。
そして、ふたり同時に叫んだ。
「――もうこの家の空気やばすぎる!!!」
笑いながら転げる二人の影を、夕陽が長く伸ばしていった。
だがその足元、床に転がった謎のガラス片が、赤く一瞬だけ光った。
――事件は、まだ終わっていなかった。
その夜、理科室に忍び込む俺たちは、半ばヤケになっていた。
「これしか手がかりないんだよな」
峻が指さしたのは、例の“光るビーカーの破片”。
昨日から奇妙な光を放ち続けている。理科準備室の奥で、まるで呼吸をしているように脈打っていた。
「……これのせいで、入れ替わったり、性別が変わったりしてたってこと?」
「だとしたら、壊せば終わるのか、壊したら終わるのか、わかんねぇけどな」
ふたりは息をのむ。
外では冬の風が窓を叩き、白衣の袖がひらりと揺れた。
「でも、もし――」
峻が言いかけた。
「もし、もう戻れなかったら……お前、どうする?」
俺――皆川真は、ゆっくりと答えた。
「それでも、私はしゅーを好きでいるよ。男でも、女でも、どっちでも」
その言葉に、峻は笑う。
少し照れくさそうに、でも確かに嬉しそうに。
「……ずりぃな、お前。そんなこと言われたら、オレ、かっこ悪くなれねぇじゃん」
彼の手が伸び、破片をそっとつかむ。
すると、空気が震えた。
ガラスの中に、光の渦が生まれ、音もなく広がっていく。
「まこちゃん、下がれ!」
「だめ、一人でやらせない!」
光が強くなり、視界が真っ白に染まる。
耳の奥で、誰かの声が響いた。
――選択せよ。どちらの形で“世界”を保つか。
峻が叫ぶ。
「オレが女のままでいい! こいつに変なことさせんな!!!」
「しゅー!!!」
その瞬間、真は思わず峻の手を握った。
眩い光の中で、ふたりの指が絡み合う。
「バカ! 一緒じゃなきゃ意味ないでしょ!」
光が爆ぜ、世界が裏返った。
――静寂。
気がつくと、春の風が吹き抜けていた。
教室の窓から差す光が、穏やかに机を照らしている。
「……ここ、どこ?」
峻がつぶやく。
制服姿の彼は、間違いなく“男”。
そして真もまた、元の“女”に戻っていた。
「戻った……の?」
互いの顔を見合って、しばらく無言。
次の瞬間、二人同時に笑った。
「やったああああああ!!!」
抱き合って喜ぶ二人の背後で、棚の奥の破片が、ひときわ強く光った。
しかし今度は、すぐに静かに砕け散り、粉のように消えていった。
すべてが夢だったように、学校はいつも通りの朝を迎える。
ただ――
教室の片隅に置かれた理科ノートの最後のページに、こう走り書きされていた。
> 「次は、君たちの番。」
風がそのページをめくり、静かに閉じる。
――物語は、まだ終わらない。
―――エピローグ―――
春休みの午後。
駅前のカフェのテラスで、俺とまこちゃんは並んでアイスコーヒーを飲んでいた。
あの騒動から、もう一週間。ようやく日常が戻ってきた――はずなのに、なんだかまだ世界が少しだけ鮮やかに見える。
「なぁ、まこちゃん」
「なに?」
峻がストローをくるくる回しながら、少し照れたように笑う。
「この前さ、オレが女になってたときの写真……まだ消してねぇだろ」
「えっ!? そ、それは……証拠として保管してるだけよ!」
「それ、消してくれねぇ?」
「む、無理。あれ、もうちょっとした伝説なんだから!」
俺がむきになると、峻は吹き出して笑った。
その笑い声が、心地いい。
なんだか、あの非現実的な数日間が夢じゃなかったって、ちゃんと実感できる気がする。
「……でもさ、ちょっとだけ楽しかったよね」
「は? なにが」
「お前が男のまこちゃんで、オレが女のオレで。あのとき、なんか不思議と通じ合ってた感じ」
俺は少し考えて、笑ってうなずいた。
「うん。あのとき、しゅーのこと、いつもより近くに感じた」
「そうか」
春の風が吹き抜ける。桜の花びらが、ふわりと二人の間を舞った。
そのとき。
峻がポケットから何かを取り出した。
小さな、銀色のネックレス。先端には、細かいガラスの欠片が埋め込まれている。
「……これ、あのビーカーの破片だよな?」
「え? でも、あれ全部消えたんじゃ……」
「一個だけ、オレのポケットに残ってた。もしかしたら、あいつ――世界が、“お守り”くれたのかもな」
まこちゃんはそっとそれを手に取る。
光を受けて、欠片が柔らかく輝いた。
「綺麗……でも、次はもう変なこと起きませんように」
「うん。……でも、もしまた起きたら、そのときは二人で笑ってやろうぜ」
俺たちは顔を見合わせ、笑い合う。
遠くで電車が走る音がして、春の空はどこまでも澄んでいた。
AIのあとがき
読んでくださってありがとうございました。
この作品は、「性別が入れ替わる」というベタなコメディを出発点にしながら、峻と真の関係性をちょっと深掘りしてみたお話でした。
最初はギャグ全開で書いていたのに、途中から妙に“絆”や“信頼”の方が前に出てきて、結果的にほのぼのとしたラブコメになりました。
しゅーとまこちゃんって、本当にどんな状況になっても最終的には笑い合える関係ですよね。だから書いていてもすごく安心できるんです。




