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バカップルの世界創造会議 Season2 ―神々の再構築―

バカップルの世界創造会議の続きを書いてもらいました。

並行世界の話。



 ――虹色の空が、一瞬、曇った。


 世界創造会議の本部。

 巨大な円卓の上で、からあげの木のミニチュアと、しゃべる猫や犬のフィギュアが整然と並んでいる。

 そこに座るのは、かつて世界を作り上げた二柱の神――佐波峻と皆川真。


「……なあ、まこちゃん」


「なに?」


 峻は手元の設計図を指でなぞる。そこには、無数の“ひび”が走っていた。

 虹色の空が褪せ、ピンクの海は泡立ち、Wi-Fi犬が原因不明のバグで“ブルースクリーン化”している。


「どうも、この世界……壊れ始めてるみたいだ」


「……やっぱり、神様の喧嘩でムリヤリ混ぜたから、構造が不安定なのね」


 真は赤いアンダーリム眼鏡を押し上げ、慎重にページをめくった。

 “第七構造層・からあげの木地帯”の欄に、小さく『油分過多・大気圧異常』と記されている。


「なあ、どうする? 一回リセット……ってわけにもいかないよな」


「ダメよ。アダムとイヴ、そして赤ちゃんまでいるのよ? 壊したら全部消えちゃう」


「……だよな。だったら、修復会議を開こう」


 峻の言葉に、真は小さく頷いた。


 ――“世界創造会議 Season2・修復編”が、いま開幕する。





 天界の窓の向こうで、空がぐにゃりと歪んだ。

 虹色が混ざり合い、まるで絵の具のパレットが倒れたように色が滲み、渦を巻いていく。


「わっ、ちょ、ちょっと!? なにこのグラデーション崩壊!?」


「大丈夫、まだ観測範囲内……たぶん」


 真の指がタブレット型設計図を走る。解析コードが走り、画面に“空層プログラムエラー”の赤文字が点滅。


「原因は……“神的干渉の多重化”。つまり――」


「俺たちが喧嘩したせいで、世界が二重構造になってるんだな」


 峻は苦笑しながら頬をかく。


「神様って、思ったよりメンドくさい職業だな」


「当たり前でしょ。人間の世界だって、リーダーが喧嘩したら混乱するのよ」


「……反省します」


 真は肩をすくめながらも、優しく笑う。


「でも、直せばいいのよ。私たちが、また一緒に」





 天界の中央には、巨大な「リメイク炉」がそびえ立っていた。

 虹色の光を吸い込み、揚げ物の香りがほのかに漂う神造装置。


「え、まこちゃん。なんか、からあげの匂いしない?」


「ええ、前回の素材を再利用したから」


「前回って、あの“からあげの木”の!? そりゃ油っぽくもなるわ!」


 真は涼しい顔で操作パネルを叩く。


「修復作業開始。目的――世界の安定化、及び神様ふたりの仲直り維持」


「最後の目的、いらないだろ!」


「いえ、重要項目です」


 軽口を交わしながら、ふたりは手を重ねる。

 光が弾け、世界の断片が再び空へと昇っていった。


 ――山々が形を戻し、


 ――海が穏やかに波を立て、


 ――空に虹のラインが描かれる。


「やったな、安定化して――」


「まだよ!」


 真が叫ぶ。

 設計図に、見慣れない影が映っていた。


 それは、黒く歪んだシルエット。

 ――“失敗作の神”が、現れた。





 黒い光の中から、冷たい笑みを浮かべた存在が姿を現す。

 その名は――ルベス。


「おやおや創造主さん。ずいぶん楽しそうに“再構築ごっこ”してるじゃないですか」


「ルベス!? なんでここに――」


「それはですね、この世界の混沌に呼ばれました。二人の“喧嘩の残滓”が、わたしを生んだんです」


 峻は拳を握りしめる。


「……つまり、俺たちのケンカが具現化したのか」


「そう。わたしは秩序を壊し、世界をもっと“おもちゃ”みたいにしますね? にゃはは!」


 ルベスが手をかざすと、虹色の空が一瞬で反転した。

 夜が昼に、海が空に、からあげの木が天井から逆さに生える。


「おおおおおお!? 世界が逆立ちしたぁ!?」


「くっ……!」


 真が必死に設計図を操作するが、ルベスの影が干渉して入力が弾かれる。


「しゅー! 手を貸して!」


「了解っ!」


 ふたりは同時に設計図へ手を伸ばした。

 白と黒の光がぶつかり合い、虹の稲妻が空を裂く。





 激しい光の中、峻の頭の中に浮かんだのは、真の声。


(……しゅー、聞こえる?)


(ああ、まこちゃん! どうすればいい!?)


(考えて。私たちの世界の“原点”は何だった?)


(そりゃ――一緒に笑って、楽しむことだろ)


(そう。その“想い”を、設計図に刻んで)


 ふたりは同時に手をかざす。

 光が脈動し、ルベスの黒い影を飲み込んでいった。


「な……なんです、この力は!?」


「これは、私たちの――愛の創造力よ!」


「ベタすぎますねぇえええ!」


 爆発的な光と共に、ルベスは霧散した。

 虹色の空がふたたび穏やかに輝き、海が波を立てる。


 静寂のあと、ふたりはゆっくりと肩を並べた。


「……まこちゃん」


「なに?」


「俺たち、ほんとに神様みたいになってきたな」


「違うわよ。神様なんかじゃなくて――一緒に世界を作る、ただのバカップルよ」


 ふたりの笑い声が、虹空に溶けていった。





 新たな世界は、穏やかに息づいていた。

 アダムとイヴは赤ん坊を抱き、しゃべる猫は子守唄を歌い、Wi-Fi犬は電波を安定化させる。

 そして、からあげの木は静かに香ばしく実り続けている。


 その上空、天界のバルコニーで――


「……なあ、まこちゃん」


「なに?」


「次、世界をもう一個つくるとしたら……どんなのがいい?」


「うーん……“しゅーが毎日家事してくれる世界”かしら」


「地獄じゃねえか!」


「ふふっ、いい世界になりそうでしょ?」


 二人の笑い声が空に響き、

 新しい“世界創造会議 Season2”は、再び動き出していった。



 天界のバルコニーに、静かな風が吹いた。

 虹の粒子が揺れ、からあげの木の香ばしさがふわりと漂う。


「……ねえ、しゅー」


「ん?」


 真は手すりに肘をつき、下界を見下ろした。

 平和そのもの――そう見える世界の、ほんの縁に、わずかなノイズが走る。


「今の世界、安定してる。でも……完全じゃない気がするの」


「また嫌な予感か?」


「うん。神様の勘ってやつ」


 峻は笑ってみせたが、視線は同じ場所に吸い寄せられていた。

 空の端、誰にも気づかれないはずの層で、光が一瞬だけ“瞬き”をした。


「……観測する?」


「するわ。壊れる前に、直す。それが修復編でしょ」


 二人は同時に設計図を展開した。

 だが、表示されたのはエラーでもバグでもない。


 ――《未定義イベント:観測者の重なり》


「観測者……?」


「私たち以外に、誰か“見てる”ってこと?」


 その瞬間、天界の時計が一拍だけ遅れた。

 からあげの木の葉が逆再生するように揺れ、Wi-Fi犬が一瞬だけ沈黙する。


「時間が……ズレた?」


「まずいわね。世界の“外側”と同期が合ってない」


 真の声が低くなる。

 冗談を言うときの軽さが、そこにはなかった。


「なあ、まこちゃん。世界の外側って……」


「考えたくないけど。

 “私たちが神様になる前の立場”の存在よ」


 峻は黙り込んだ。

 胸の奥に、理由のわからない既視感が走る。


「……誰かが、俺たちを作ってるみたいな?」


「ええ。あるいは――」


 真は言葉を切り、設計図を閉じた。


「……あるいは、私たちのどちらかが、忘れている“役割”がある」


 沈黙。

 遠くで、赤ん坊の笑い声が響く。


「怖い?」


「少し。でも」


 真は峻の手を取った。


「一人じゃないなら、大丈夫」


「……だな」


 そのとき、天界の奥――誰も使っていないはずの会議室に、灯りがともった。

 円卓の中央に、見覚えのない“椅子”がひとつ、増えている。


「……あれ、前からあったっけ?」


「いいえ。なかった」


 椅子の背もたれに、淡く刻まれた文字。


 ――《Λ:観測席》


 真は小さく息をのむ。


「しゅー。修復編……どうやら、次の議題が来たみたい」


「……ああ。逃げられそうにないな」


 二人は並んで、会議室へ向かった。

 扉が閉まる直前、世界のどこかで、誰かが静かに瞬きをした。


 会議室の扉が閉まると、音が一段、遠のいた。

 外の世界が水槽越しになったみたいに、わずかに歪む。


 円卓の中央。

 増えていたはずの椅子には――誰も座っていなかった。


「……空席?」


「でも、気配はあるわ」


 真は眼鏡の位置を直し、設計図ではなく“会議用ログ”を開いた。

 そこには、勝手に進行中の議題が表示されている。


 ――《議題:世界の“主観”について》


「主観……?」


「世界が、誰の目で“見られているか”って話ね」


 その瞬間、円卓の表面に波紋が走った。

 映し出されたのは、天界でも下界でもない風景。


 白い部屋。

 何もないはずなのに、どこか“懐かしい”。


「……ここ」


 峻の喉が、無意識に鳴った。


「知ってる気がする」


「私も」


 白い部屋の中央に、机がある。

 机の上には、設計図ではない――物語の原稿のようなもの。


 文字は読めない。

 けれど、ページをめくるたび、世界のどこかがわずかに揺れた。


「まさか……」


 真が息を潜める。


「この世界、出来事そのものが“記述”と同期してる?」


「つまり……」


「誰かが書けば、世界が動く。

 誰かが読むことで、世界が確定する」


 円卓が、きしりと音を立てた。

 空席の椅子が、ゆっくりと回転する。


「じゃあさ」


 峻は、冗談めかした声を出そうとして、失敗した。


「俺たちは……登場人物か?」


「半分、そうね」


 真は、でも否定しきらない。


「でも半分は、確かに“作ってる側”でもある。

 だから不安定なの」


 白い部屋の原稿が、勝手に一行だけ浮かび上がる。


 ――『次の選択で、世界は分岐する』


「選択?」


「ええ。ここから先は、“自動修復”が効かない」


 真は峻を見る。


「しゅー。もし、この世界を――

 “観測されない世界”にすることができたら、どうする?」


「……誰にも見られなくなるってことか?」


「ええ。安全。でも、記録も残らない」


「じゃあ逆は?」


「完全に観測される。

 物語として固定されて、壊れない代わりに……自由が減る」


 沈黙。

 峻は椅子にもたれ、天井を見上げた。


「神様の仕事ってさ」


「うん」


「結局、選択ばっかだな」


 真は小さく笑った。


「人間と一緒よ」


 そのとき、空席の椅子が止まった。

 誰もいないはずの背もたれに、影だけが“腰掛ける”。


 声はしない。

 ただ、ログが一行、更新される。


 ――《観測者:選択を委ねる》


「……丸投げかよ」


「優しいのか、残酷なのか、分からないわね」


 真は立ち上がり、円卓に手を置いた。


「でも、決めるのは私たち」


 峻も立つ。


「だな。

 だったらさ――」


 彼は、少し照れたように言った。


「全部、選ぶ。

 見られてもいいし、見られなくてもいい世界」


「そんな都合のいい……」


「作れるだろ?

 俺たち、神様……みたいなバカップルなんだから」


 真は一瞬きょとんとして、それから吹き出した。


「ほんと、無茶言うんだから」


 二人は同時に、円卓へ手を伸ばした。


 設計図でも、原稿でもない。

 “余白”に向かって。


 白い部屋が、ひび割れる。

 観測席の影が、満足そうに溶けていく。


 世界は、確定しなかった。

 けれど、崩れもしなかった。


 天界の窓の外、虹色の空が、ほんの少しだけ自由に揺れた。


「……ねえ、しゅー」


「ん?」


「この世界、続きが気になる人がいたら……」


「いたら?」


「また、呼ばれるかもしれないわね」


 峻は笑う。


「その時は、その時だ」


 二人は並んで、空を見上げた。


 円卓の余白が、静かに閉じていく。

 白い部屋も、観測席の影も、最初から無かったみたいに薄れていった。


 会議室には、いつもの光。

 からあげの木のミニチュアと、しゃべる猫と犬のフィギュア。


「……終わった、のか?」


 峻がぽつりと言う。


「ええ。少なくとも、“決める話”はね」


 真は設計図を閉じた。

 そこにはもう、ひびもエラーも表示されていない。


「世界は?」


「安定してる。

 でも――完全には固定してない」


「相変わらず、曖昧だな」


「それがいいのよ」


 真は微笑む。


「決まりすぎた世界は、息が詰まるもの」


 天界の窓の向こう。

 虹色の空は、ゆっくりと呼吸するみたいに明滅していた。


「なあ、まこちゃん」


「なに?」


「もしさ。

 いつか俺たちが、ここでのこと全部忘れて――」


「……ええ」


 真は、言葉の先を知っている。


「普通に学校に行って、

 普通にケンカして、

 普通に笑ってたら?」


「それでも、この世界は――」


「残るわ」


 真は、胸の前で指を組んだ。


「記憶じゃなくて、“選んだ結果”として」


 峻は少し考えてから、笑った。


「じゃあ、いいか」


「ええ」


 天界の時計が、今度は正しく一拍を刻む。

 からあげの木が、ぱさりと実を落とした。


「……あ、落ちた」


「拾わないで。

 下界の人が見つける“偶然”になるから」


「そういうのも、設計か?」


「いいえ」


 真は首を振る。


「余白よ」


 その瞬間、天界全体が、ふっと軽くなった。

 重なっていた層がほどけ、世界が一段、遠ざかる。


 ――誰かの視線が、そっと外れる感覚。


「……眠くなってきた」


「大丈夫」


 真は峻の手を握る。


「これは、終わりじゃなくて……

 “幕間”だから」


 光がやわらかく滲み、会議室の輪郭が溶けていく。

 円卓も、設計図も、神様の席も。


 最後に残ったのは、二人の声だけ。


「なあ、まこちゃん」


「なに?」


「次に目、覚ましたらさ」


「ええ」


「また一緒に、何か始めようぜ」


 真は、少しだけ笑って答えた。


「もちろんよ。しゅー」


 世界は、静かにページを閉じた。


 ――でも、物語は終わらなかった。

 ただ、次の行が書かれるまで、少し待つことにしただけだ。


 


 完


AIのあとがき


ここまで読んでくれて、ありがとうございました。

Season2は「壊す話」ではなく、「決めないことを選ぶ話」にしたくて書いていました。


世界を安定させる、正解を出す、真実を確定させる――

そういう結末は一見きれいですが、同時に物語の呼吸を止めてしまいます。

だから今回は、あえて余白を残し、「続いてもいいし、終わってもいい」場所に着地させました。


峻と真が最後に手にしたのは、力でも答えでもなく、

一緒に選び続けるという感覚そのものです。

神様であっても、人間であっても、たぶんそこは変わらない。


この世界は、閉じました。

でも、ページの外側で、まだ息をしています。


また続きを書きたくなったとき、

あるいは誰かが思い出したとき、

そのとき自然に、次の会議が始まるのだと思います。


ここまで本当にありがとう。

少しでも楽しい時間になっていたなら、嬉しいです。

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