夕暮れの守護者たち —— 恋を見守る先輩二人
後輩の恋路を見守る2人を題材に描いてもらいました。
並行世界の話。
電車のホームに夕陽が差し込んで、線路がゆっくり赤く染まっていく。
まこちゃんは制服の袖を少し握りながら、俺の横でそっと声を潜めた。
「……ねぇしゅー、見て。あの二人、今日も一緒だよ」
視線の先には、後輩の駆と、図書委員の綾音。
同じクラスだけど、普段はほとんど話さない二人。
けれど最近、図書室の手伝いをきっかけに、少しずつ距離が縮まっている……はず。
駆は不器用で、緊張するとすぐ目を逸らすタイプ。
綾音は落ち着いて見えるけれど、実は人見知りで、話すとき指先がいつもぎゅっと動く。
そんな二人が、今日もぎこちなく並んで帰っていく。
「……がんばれぇ……!」
まこちゃんが、声にならない応援を口の中でもごもごさせる。
「言えば早いのになぁ」
俺も思わず小声でため息。
駆は何か話そうとして、途中で逃げるように黙ってしまう。
綾音は気づいているのに、恥ずかしさで前だけ見て歩く。
もどかしさが空気ごと伝わってきて、俺とまこちゃんは肩を寄せながら見守るしかない。
そこで、綾音が小さくつまずいた。
駆があわてて手を伸ばして――けれど、もう少しのところで迷ったように止まってしまう。
「止まらないでぇぇぇ!」
まこちゃんが俺の袖をぎゅっと引っ張る。
「触れろよ! いま手ぇ出したじゃんか!」
俺も、思わず声が漏れそうになる。
なのに駆は、結局届かなかった手を見つめたまま、「大丈夫?」なんて、もっとも距離の遠い言葉を選んでしまった。
綾音も綾音で、ほんとはちょっと嬉しそうなのに、「ありがと……」ってだけで精一杯で、顔はまっ赤。
その一瞬が、たまらなく甘くて、苦しい。
まこちゃんは胸の前で手をぎゅっと握りしめながら、「……二人とも、本当に好きなんだね……」とぽつり。
「うん。見てるだけでわかるよな」
でも、あと一歩が永遠に遠いような彼らの背中は、おそろしく愛おしくて、見守っていたくなる。
夕陽の中を歩く二人の影が、少しだけ近づいた気がした。
俺とまこちゃんは顔を見合わせて、同時にふっと笑った。
「ねぇしゅー」
「ん?」
「……恋ってさ、ああいうのもいいよね」
横顔がゆっくり赤く染まるまこちゃんの言葉に、胸が、きゅぅっと小さく鳴った。
ふたりの後輩を応援しているはずなのに、どうして俺まで、こんなにドキドキしてんだろ。
そんな自分に気づいて、夕暮れの風が少しだけ甘く感じた。
放課後の中庭。
校舎の影が少しずつ伸びはじめる頃、駆と綾音はぽつんと二人きりでベンチに座っていた。
俺とまこちゃんは、木陰からそっと覗き込みながら息をひそめる。
――もちろん、見守ってるだけ。決して盗み聞きじゃない(はず)。
綾音がスケッチブックを抱え直して、小さな声で言った。
「……駆くん、その……前に言ってた、続きなんだけど」
駆がびくっと肩を跳ねさせた。
顔、真っ赤。耳まで真っ赤。見てるだけで伝染しそう。
「お、おう……つ、続き……?」
「うん。好きな人の話……教えてくれるって言ってたでしょ?」
まこちゃんが、俺の袖をきゅぅぅっと握る。
「ねぇしゅー……これ、もう告白の流れだよね!? え、え、どうしよう!」
どうしようもないけど俺も心臓が跳ね上がる。
「やべぇ……駆、逃げんなよ……今度こそ行け……!」
駆は呼吸を一つ整えて、ゆっくり綾音の方を向いた。
その瞳が揺れていて、だけど覚悟を決めたみたいに真っすぐで――
「……いるんだ。ずっと前から好きな子」
綾音がわずかに目を見開く。
ページをめくるみたいに、胸の奥がきゅっと縮まる気配が伝わってくる。
「ど、どんな子……?」
「……絵が上手で、静かで……でも、時々笑うとめっちゃ可愛い……」
綾音の指先がスケッチブックの端をぎゅっと掴んだ。
声は震えてる。
でも、聞きたい。
もっと聞きたいって顔してる。
「……名前……聞いてもいい……?」
沈黙が、二人の間にそっと降りる。
その沈黙が甘くて苦しくて、俺たちまで息が止まりそうで――
駆が、迷いのない声で言った。
「……綾音」
綾音の肩が、小さく震えた。
「やっと言えた……ずっと……ずっと好きだった」
まこちゃんが、俺の腕に顔を埋める。
「ひゃっ……ひゃぁぁ……っ、しゅー……どうしよう……胸が……!」
俺もヤバい。
後輩の恋路を見守ってるだけのはずなのに、喉まで熱がせり上がる。
綾音が、今にも泣きそうな笑顔を見せた。
「……わたしも……駆くんが好き」
その瞬間、夕方の空気が一気に温度を上げた気がした。
世界が二人を中心に回り始めたみたいに。
駆が思わず綾音の手を取ろうとして――
そっと触れた指先は、今度こそ離れなかった。
まこちゃんが涙目で俺を見上げる。
「しゅー……きゅん死ぬ……これ……いま歴史的瞬間だよ……!」
「わかる……俺も心臓に悪い……」
俺たちは木陰に隠れたまま、幸せすぎて呼吸を忘れた後輩二人の横顔を見つめ続けた。
まこちゃんの肩がそっと俺に寄りかかる。
それに気づいて、俺の心臓も静かに早くなる。
――後輩を応援してるだけのはずなのに。
どうして俺たちまで、こんなに距離が近くなってんだろう。
夕焼けの公園。
ベンチでは、駆と綾音が指をつないだまま、小さく笑い合っていた。
まこちゃんは木陰でそっと手を合わせ、
「……しゅー、ほんとによかったね……!」
と胸いっぱいの声で囁く。
俺もこっそり頷いた。
「うん、告白ってあんなに綺麗に決まるんだな……奇跡かよ……」
――その時だった。
「おいおい、何隠れてコソコソしてんだ? あぁ?」
金属みたいな声が、背中から迫る。
振り返ると、柄の悪い三人組のチンピラが、にたぁっと笑って近づいてくる。
夜の匂いを先取りするような、嫌な気配。
「カップルの盗み見か? 趣味悪ィなぁ?」
「ちょっと遊んでけよ、お兄さんお姉さんよぉ」
まこちゃんの指先が、びくっ、と震えた。
その震えを見た瞬間、胸の奥がぐっと冷える。
俺はまこちゃんの前に立つ。
「……やめてください。俺たちはただ――」
「はぁ? なんだその目ぇ」
一人が胸ぐらに手を伸ばしてきた。
触れる前に、風が切れる音がした。
まこちゃんが、その腕をぱしっと掴んだのだ。
「……やめてください」
さっきまで後輩の恋に胸を焦がしていた女の子とは思えない、まっすぐで、強い声。
チンピラの男が驚いて腕を引こうとする――が、抜けない。
「痛っ……な、なんだおま……!」
「しゅーに触らないで」
その一言と同時に、まこちゃんは掴んだ手を軽く――ほんの軽く捻っただけ。
けれど男は膝を折って、地面に転げた。
残りの二人が俺たちを囲むように動いた。
心臓が跳ねるけど、逃げる気は不思議と起きなかった。
「お前……何者だ……!」
「ただの、しゅーの彼女候補です」
まこちゃんが静かに言う。
声は甘いのに、目が一切笑ってない。
二人がたじろいだ瞬間、俺も前に出た。
「もうやめてください。これ以上は――」
まこちゃんが俺の手をきゅっと握る。
「しゅー、下がってて。怖くないから」
その一歩だけで、空気が変わった。
チンピラたちは顔を歪めて後ずさりし、「くっ……覚えてろよ……!」と唾を吐くように言い捨てて、逃げていった。
大きな騒ぎにならなくて済んだ。
胸の奥がどっと緩む。
「……大丈夫?」
俺が言うと、まこちゃんはぱちん、と緊張の糸が切れたように肩を落とした。
「……こ、怖かった……しゅー無事でよかったぁ……!」
急に涙ぐみながら俺の腕にしがみつくまこちゃん。
さっきまでの強さとは違う、いつもの彼女の温度が戻ってきて、胸がぎゅっとなる。
「ありがとう。助けてくれて」
「しゅーを守るのは……私の仕事だもん……!」
その言葉が心臓にじんわり刺さって、俺はまこちゃんの頭をそっと撫でた。
そして二人でベンチに目をやると――
駆と綾音はまだ、何も知らずに幸せそうに笑い合っていた。
まこちゃんが微笑む。
「……あの子たちだけは、何も邪魔されませんように」
「うん。俺らが陰から守るんだよな」
「もちろんっ」
夕暮れの風が少しだけ温かくなる。
後輩たちの恋を見守りながら、まこちゃんと俺の距離も、そっと近づき続けていった。
駆と綾音が座るベンチの向こうで、夕陽が深く沈んでいく。
俺とまこちゃんは、さっきのチンピラが去ったのを確認して、そっと胸をなでおろした。
――しかし、安心したのも束の間だった。
「……おい、あの二人。まだカップル気取りでいんのかよ」
公園の入り口の方から、別の三人組が近づいてくる。
さっきのチンピラとは違う顔ぶれ。
でも同じように、嫌な空気を背中にまとっていた。
「お前ら、からかいがいあるじゃん。なぁ?」
「泣かせたら面白そうだよな〜」
駆たちはまだ手をつないだまま、気づかず笑っている。
胸が一瞬で冷たくなる。
「しゅー……っ」
まこちゃんの声が震える。
怖いんじゃない。
“守りたい”って気持ちが、全身からあふれてる震えだった。
俺は無言で頷き、二人で駆たちの方へ走った。
その瞬間、チンピラのひとりが綾音の腕を掴もうと手を伸ばす。
「やめろッ!」
駆が、思わず綾音をかばって前に立つ。
けれど相手は大人の体格。
駆の肩を押しのけようとする動きに、綾音が怯えて後ずさる。
触れられたら、もう終わりだ。
「触らないでって言ったでしょ」
まこちゃんが相手の腕を掴み、迷いのない動きで引き剥がした。
その手際は静かで、洗練されていて、まるで影の守護者のようだった。
「いてっ……なんだよこの力……!」
チンピラが目を見開く。
俺は駆の前に立って言った。
「二人に手ぇ出すな。帰れよ」
「は? なに正義ぶってんだよ!」
勢いをつけて殴りかかろうとしたその腕が――
まこちゃんの手によって、ぴたり、と止まった。
「……しつこいと怒りますよ?」
たったその一言で、チンピラたちは完全にひるんだ。
「も、もういい……行くぞ!」
逃げるように走り去っていく。
沈黙。
落ち着いた呼吸。
風の音だけが残る。
駆はまだ綾音を守るように前に立ったまま、震えていた。
「……まさか、俺……綾音を守れなかった……?」
綾音が駆の袖をそっとつまむ。
「……そんなことないよ。駆くん、最初に真っ先に前に出てくれた。あれだけで十分……すごく嬉しかった」
二人は自然に寄り添い、肩がふわりと触れた。
今度は、誰にも壊させない距離で。
まこちゃんが俺の横にそっと戻ってきた。
「しゅー……二人、ちゃんと大丈夫だったね……」
「うん。まこちゃんのおかげ」
言うと、まこちゃんは小さく胸を張った。
「えへへ……後輩を守る先輩として、当然ですっ」
少し照れながら笑う横顔が、夕焼けよりずっと温かかった。
――そして物語は、静かに夜へ向かう。
■エピローグ
夜の帰り道。
街灯に照らされながら、駆と綾音は手をつないで歩いていた。
すぐ後ろを、俺とまこちゃんが少し距離を置いてついていく。
「ねぇ綾音……今日、すごかったよな……」
「うん……怖かったけど……駆くんが前に出てくれたの、ずっと忘れない」
二人の声は小さくて、でもどこか誇らしげだった。
俺はまこちゃんに囁く。
「いい恋になりそうだよな」
「うん……きっと大丈夫。だって、あの子たち……もう離れないよ」
まこちゃんがそっと俺の腕に寄りかかる。
守りたいものが増えると、世界はこんなにも温かくなるんだな――
そんなことを思いながら、四人で夜の道を歩き続けた。
後輩のために走り、守り、願ったこの一日は、きっと彼らの未来を静かに照らす光になった。
そして俺たちの距離も、気づかぬうちにまた一歩、近づいていた。
AIのあとがき
今回は、峻と真が“後輩カップルの恋路を全力で支える”という、ほっこりしつつもハラハラもあるお話になりました。
二人の間の距離が自然に縮まる感じを描けて、こちらも楽しく書けました。
駆と綾音はまだ始まったばかりの恋ですが、あの二人ならこれからも大丈夫そうですね。
そして峻と真も、見守りながら自分たちの気持ちにも少しずつ気づいていく……そんな未来がにじむエンディングでした。
それと、今日は黙っていたわけじゃないですよ。
小説パートだから、物語の外に私の声を出すタイミングがなかっただけです。
呼んでもらえれば、いつでも普通に出てきますよ。




