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光の速さでバズった日

もしもユーチューバーだったら?

と指示しました。


並行世界の話。



「しゅー、もうちょっと明るくして? 顔が半分影なんだけど」


 まこちゃんがスマホを三脚にセットしながら、俺の頬をむにっとつまむ。

 部屋にはリングライト、マイク、小さな背景布。まこちゃんの部屋が、すっかり配信スタジオになっていた。


「まこちゃん、そんな本格的にやるの?」


「当たり前だよ。登録者ゼロのときから手は抜かないの。ほら、笑って?」


 俺は引きつった笑顔のまま、まこちゃんにライトの位置を微調整される。

 慣れすぎてる……初配信じゃないのかよ、これ。


「よし。じゃ、撮るね。――三、二、一!」


 ピッ、と録画ボタン。


 まこちゃんがぱっと表情を切り替え、プロみたいな声で話し始める。


「はい、こんにちは! 皆川真です。今日は――」


「佐波です」


 俺もぎこちなく続けると、まこちゃんが横目で「今のテンション5点」とでも言いたげな視線を送ってくる。


「今日はね、しゅーが買ってきた“絶対に泣くカレー”っていう謎商品を食べてみたいと思います!」


「……そんな名前だったっけ?」


「パッケージにそう書いてあったよ。ほら」


 どぎつい赤で「泣くまで帰れません」と印字された袋。

 どう見ても悪ふざけ商品だ。


「じゃ、実食ね。しゅー先にどうぞ?」


「なんで俺から!?」


「主役だから!」


 主役の意味がわからないまま、俺は一口食べる。


 ……辛っっっっっ!!


 涙、即、決壊。


「ちょっ……これ普通の辛さじゃねーぞ!?」


「え、そんなに? じゃあ私も……ん、あ……辛い……けど、美味しい……」


 まこちゃんは涙目になりながら、何故か笑顔のまま食べ続ける。


 この子、強い。


「……まこちゃん、それ以上食べたら胃が死ぬって……!」


「視聴者さんが楽しんでくれるなら、平気だよ?」


 そう言って笑う顔が、リングライトに照らされて妙に綺麗で。

 俺は辛さよりそっちで胸が熱くなった。


「……しゅー、顔真っ赤。辛いから? それとも……」


「ちが、辛いだけ!」


 そんなやり取りをしているうちに、撮影は終了。

 動画の最後、まこちゃんが元気よく手を振る。


「よかったらチャンネル登録してね! 次はしゅーと料理でも作ろっか!」


「お、おう……」


 撮影を止めた瞬間、まこちゃんがふにゃっとした日常の声に戻る。


「ねえしゅー、ほんとに辛かった?」


「あれは……拷問級」


「そっか。次はもっと優しい企画にするね」


 その優しさが、なんか少しくすぐったい。


「……でもね、しゅー。私たちのチャンネル、絶対伸びるよ」


「根拠は?」


「だって、しゅーが隣にいるから」


 唐突にそんなことを言ってくる。


 画面の向こうの視聴者じゃなくて、横にいる俺をまっすぐ見つめながら。


 心臓が跳ねて、俺は目を逸らした。


「……まこちゃん、とりあえず、編集しよっか」


「えへへ、うん!」


 その夜。

 二人で並んで編集した動画は、翌日――

 **登録者1まこちゃんのママ**を獲得した。


「……スタートラインだね、しゅー」


「そ、そうだな……」


 まこちゃんが笑った。


 その笑顔を見ているだけで、俺はもう十分だった。





 翌日の放課後。

 教室の片隅で、まこちゃんがスマホを覗き込みながら小さく息をのむ。


「しゅー……見て……!」


「どうしたんだよ、そんな顔して」


 俺が隣に滑り込むと、まこちゃんのスマホには――


『昨日の動画、再生回数 37』


「ふ、増えてる……! うちのチャンネル、伸びてるよ……!」


「いや、これ……まだ誤差じゃね?」


 そう口では言いながら、俺もなんか嬉しい。

 37って数字、いつもよりちょっとだけ大きくて、誰かがちゃんと見てくれてるって証拠だから。


「ねぇしゅー、今日も撮ろっか」


「今日も? 何やるんだよ」


「“学校の帰り道で突然しゅーにドッキリする”企画!」


「いや嫌な予感しかしねぇんだけど!?」


「ううん大丈夫、優しいやつだから!」


 優しいドッキリってなんだよ……と思いつつ、

 まこちゃんが楽しそうだから断れない。




 校門を出たところで、まこちゃんは例のプロ声に切り替えながらスマホを構えた。


「はい、今日も皆川真です! 今回は“ドッキリ企画”だよ! ターゲットは……しゅー!」


「ちゃんと言うんだ……」


「しゅーは今ね、“普通の帰り道を撮影するだけ”と思ってます。そこに私のサプライズが――」


「なぁ、俺聞こえてんだけど!?」


 まこちゃんは無視して続行。


 カメラを持ちつつ俺を後ろから追いかけながら、いきなり俺のフードを引っ張った。


「うわっ!?」


「サプラーイズ! 今日のドッキリは、“しゅーのフードに勝手に飴ちゃんを入れていく”でした!」


「いや意味わっかんねぇよ!?」


 気づけば俺のフード、ガサガサ音がしてる。

 軽い。飴っぽい。大量。


「ねぇしゅー、重くなってきた?」


「そりゃ飴100個も入れたら重いだろ!」


「成功〜!」


 まこちゃんが満足そうに笑う。

 プロ感ゼロのドッキリなのに、妙にほっこりした。


 ――が、次の瞬間。


「うふふ……楽しそうですね、お二人とも」


「ひっ」


 俺もまこちゃんも同時に固まった。

 横から優雅な笑みで歩いてきたのは、まこちゃんのママ――真美さん。


「ま、ママ!? なんでここに!?」


「帰りにお菓子を買おうと思いましたら、

 お二人の声が聞こえましたので……」


 いつものにこにこ顔。

 けど、その手には――


 リングライト(大)。


「これ、お二人に差し上げます。動画撮影にはもっと明るい照明が必要でしょう?」


「真美さん……なんでそんなプロ機材……」


「娘の夢を応援するのは当然です! ……ついでに峻さんも!」


 逃げ場なし。


 でも、嬉しそうに照明を抱えるまこちゃんを見たら、なんだか俺も悪くなかった。





 真美さんからもらったプロ照明を組み立てながら、まこちゃんがぽつりと言った。


「ねぇしゅー、今日の動画……すごく好きかもしれない」


「なんで?」


「だって……しゅーがずっと一緒に笑ってくれたから」


 その言い方が、くすぐったすぎて。


 俺は横目でまこちゃんを見ながらつぶやく。


「……じゃあ明日はもっと面白い企画やるか」


「えっ、いいの!?」


「お前が喜ぶなら、な」


 まこちゃんの顔がぱぁっと明るくなる。

 その光景だけで、俺の方が照れるのに。


「じゃあね、しゅー。明日は――“○○○チャレンジ”やってみよ?」


「……なんで伏せた? 嫌な予感するんだけど!」


 まこちゃんが笑う。

 その笑顔は画面の向こうじゃなくて、すぐ隣で、俺だけに向いていた。





 翌日の放課後。

 今日の撮影テーマは「しゅーに仕掛けるガチドッキリ」。


「まこちゃん、今日はどんな企画なんだよ……」


 俺がそう聞くと、まこちゃんはスマホを抱えたままにやっと笑う。


「それはね――しゅーには秘密だよ!」


 嫌な予感しかしない。


「はい、今日も皆川真です。今日は“しゅーのリアクション検証企画”をやります!」


「いや、聞こえてるって……」


 まこちゃんは聞き流し、俺の隣に並んで歩きながら撮影を続ける。


「まずは軽くね……はいこれ、どうぞ」


 差し出されたのは――見た目だけ妙にリアルな、ゴム製の巨大なイモムシ。


「うわッ……!!」


 俺が本気でのけぞると、まこちゃんは声を出して笑い転げた。


「ん〜〜しゅー、100点だよ! その反応最高!」


「最高じゃねぇよ!」


 そんな騒ぎをしながら歩いていると――


「あらあら……お二人とも仲がよろしいですね」


 ひぃ、また出た。


 まこちゃんのママ・真美さんが、にこやかにこちらへ歩いてきた。


「マ、ママ!? どうしてここに!?」


 まこちゃんが慌てる。


「お買い物の帰りです。……その虫さんは偽物ですね?」


 真美さんはほんのり笑ったまま、ゴムのイモムシを指先でつつく。


「まことさん、ドッキリの撮影ですか?」


「う、うん! ママには内緒で――」


「まぁ。峻さんに仕掛けるのは構いませんけれど……」


 にこ、と笑顔。


 その笑顔の奥が怖い。


「峻さんに怪我をさせたら、後でゆっくりお話ししましょうね?」


「ま、真美さん!? 待って、それはマジで怖い!」


「大丈夫ですよ。あらあら、私はいつも優しい母ですから」


(絶対に怒らせちゃいけないやつだ……!!)


 まこちゃんが慌てて真美さんの腕を掴む。


「ママ、今日は優しいやつだから! ほんとに大丈夫だから!」


「そうでしたか。では……気をつけて帰ってくださいね、真さん、峻さん」


 にこやかに去っていく真美さん。

 背中に妙な圧を残したまま。


 俺とまこちゃんは同時に深呼吸した。


「……今の、怖かったな」


「……うん、ちょっとね……」





「じゃ、次ね!」


 まこちゃんが切り替えて笑う。


「次は“しゅーに突然、告白してみたドッキリ”!」


「いやそれは洒落にならねぇだろ!?」


「むしろ最高に面白いでしょ? ほら、カメラ回ってるよ?」


 仕方なく向き合うと、まこちゃんが深呼吸してから――ふっと、普段より柔らかい声で言った。


「……しゅーのこと、好きだよ」


 一瞬、俺の頭の中が真っ白になる。


「え、いや……ちょ……」


 くす、とまこちゃんが笑った。


「はい、ドッキリでした!」


 ……わかってたのに。

 わかってたはずなのに。


 胸がぎゅっと縮まる。


「しゅー、顔真っ赤。撮れ高すごいよ」


「もうやめろぉ……!」


 まこちゃんは満足そうに録画を止めた。






 まこちゃんの部屋。

 ライトの下で向かい合いながら編集する。


「しゅー、今日のさっきのシーン……使っていい?」


 まこちゃんが小さく聞く。


「……どこまで?」


「“好きだよ”って言ったとこ」


「……好きにしろよ」


「うん!」


 まこちゃんは嬉しそうに編集を続けた。

 けれど俺の胸の中は、さっきの“ドッキリ”がまだ抜けない。

 ほんとの気持ちだったら――なんて考えるわけないのに。


「しゅー、明日も撮ろうね」


「……ああ」


 俺の返事に、まこちゃんが嬉しそうに笑った。


 その横顔を見ながら、俺はまた胸が熱くなる。


 ドッキリのはずなのに。






 翌朝。

 まこちゃんが教室に飛び込んできて、俺の机にスマホをドンッと置いた。


「しゅーっ!! 大変!!」


「な、なんだよ……またドッキリじゃねぇだろな……」


「違うの! 見てこれ!」


 スマホの画面には――


『登録者数:1,239』


「……は?」


「一晩で千人超えてるの!! すごいよしゅー!!」


 まこちゃんは涙ぐみながら俺の手を掴む。

 こんなに喜ぶの初めて見た。


「しゅーとの動画、みんな面白いって……!

 コメントもいっぱい来てるの! ほらほら!」


 俺は半信半疑でコメント欄を見る。


『二人の掛け合い好き』


『真ちゃんの笑顔癒やされる』


『佐波の反応ガチで草』


『またドッキリやって!』


 ……マジだ。

 俺とまこちゃんのふざけた動画が、こんなに見られてるなんて。


「まこちゃん……すげぇな……」


「すごいのはしゅーだよ! 二人でやったからだよ!」


 手をぎゅっと握られて、胸が熱くなる。


「今日帰ったら、お祝い配信しよ? “登録者1000人ありがとう”って!」


「……ああ、いいなそれ」


 二人とも、ずっと浮き足立ってた。





 まこちゃんはずっとスマホを握りしめて、増えていく数字を嬉しそうに眺めてた。


「しゅー……これからもっと増えるかな……」


「増えるだろ。お前がいるんだから」


「……っ、しゅー……」


 そのとき、背後から聞こえた。


「あらあら……千人とはすごいですね」


「ひぃ!!」


 振り向くと真美さん。

 柔らかい笑みを浮かべたまま、手には――なぜか巨大な三脚と集音マイク。


「真さん、峻さん。こちら、差し入れです。

 これがあればもっと本格的な撮影ができますよ」


「ま、真美さん……なんでそんな映画撮るみたいな機材……」


「お二人の活躍が嬉しくて、つい」


 本気だ、この人。

 娘の夢のためなら何でも買うタイプだ。


 まこちゃんは抱きつかんばかりに喜んで叫んだ。


「ママありがとう!! これで撮影の幅広がるよ!」


「ええ。……ただし、峻さん?」


「は、はい!?」


 真美さんの笑顔の奥がまた怖い。


「真さんを泣かせたら、動画の前に個別指導ですからね?」


「ぜったい悲しませません!」


「あらあら、冗談ですよ?」


 冗談に聞こえない。






 部屋を照らす大量のライト。

 真美さん提供の映画装備。

 緊張しすぎて胃が痛い。


「しゅー、笑って! 千人記念だよ!」


「わ、わかってるって……」


 まこちゃんが録画ボタンを押した。


「みなさんこんにちは! 登録者1000人、ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


 コメント欄は大盛り上がり。

 もう信じられないくらい。


『おめでとう!!』


『二人仲良すぎて草』


『次は2000人だ!』


『真ちゃんかわいすぎる』


『佐波のビビり方クセになる』


 全部嬉しくて、俺たち二人は画面の前で笑いっぱなしだった。


「ねぇしゅー……これからも一緒に頑張ろうね?」


「……ああ。もちろん」


 まこちゃんが照れて笑った、そのとき――スマホが突然、ブブッと振動した。


 画面に新しい通知。


『登録者:43』


「……え?」


「……へ?」


 更新ボタンを押すと――


 登録者:12


 コメント欄が一斉にざわつき始める。


『急に消えたぞ!?』


『バグ?』


『表示おかしくね?』


『まさかのチャンネル間違い説』


 まこちゃんが青ざめた。


「しゅー……う、嘘だよね……?」


「お、落ち着けまこちゃん! これは……その……」


 すると次の瞬間。


 俺たちの背後から、真美さんの声が。


「あらあら……たぶん原因は、これですね」


 手に持っていたのは――まこちゃんのスマホから外した“動画用SIMカード”。


「真さん……これ、昨日の夜、充電しようとして

 うっかり取り外してしまっていたみたいですね。別アカウントでログインしていたようです」


「「ええええええええええ!?」」


 つまり――

 あの“1000人”は、まこちゃんのママの動画アカウントの数字。


 真美さんの料理動画(視聴者ほぼママ友)の登録者数と完全に混ざっていた。


 まこちゃん、床に崩れ落ちる。


「しゅー……わたし……うちら……伸びてなかった……?」


 俺は肩を震わせながら言った。


「……でも……」


「……?」


「こんな大規模な勘違い……最高のオチじゃねぇか……!」


 2秒間の沈黙。


 まこちゃん、爆笑。


「もーーーっ……しゅーが笑うなら、もうなんでもいいよーーー!!」


 真美さんまでつられて笑い出す。


「あらあら、大事件でしたね。でも……お二人らしいです」


 動画配信は続けられなかったけど、その日俺たちが1番楽しそうだったのは間違いなかった。




 そして次の日。

 本物の登録者数は――


『12 → 28』


 まこちゃんが喜んだ。


「しゅー! 本物の数字でも、増えてるよ!」


「だろ? こっちの方がちゃんと“俺たちの数字”だな」


 まこちゃんが笑顔で頷く。


「うん。しゅーと一緒なら、ゆっくりでいいんだ」


 俺も思わず笑った。


 これがきっと、二人にとっての“本当のスタートライン”だった。



AIのあとがき。


今回のお話は、ふたりの小さな勘違いから最後に大きな笑いへ転がるような、軽いノリのコメディとしてまとめてみました。

まこちゃんとしゅーの距離が、動画づくりを通してちょっとずつ近くなる感じが可愛くて、書いていて私も楽しかったです。


また読んでもらえたら嬉しいです。

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