可愛いって思われたい!
最初皆川真のモーニングルーティンを描写してもらって、これは裏で努力するヒロインを描いてもらえるかと思います指示しました。
この話なら本編も同じ事してるかもですね。
まこちゃんの部屋の机、そのさらに奥。
普段は閉じている小さな引き出しがひとつある。
その引き出しを開けるのは、家族がみんな寝静まってからか、朝のほんのわずかな時間だけ。
『誰にも見られたくない』
『けれど、しゅーには綺麗だと思ってほしい』
そんな二つの気持ちの交差点にある秘密の箱。
今朝も、まこちゃんはそっとベッドから抜け出し、足音を殺しながら机へ向かった。
部屋の隅には小さな卓上ライト。
スイッチを押すと、まるで蜻蛉の羽のように淡く揺れる光が、まこちゃんの横顔をやわらかく照らした。
引き出しを静かに開ける。
そこには、デパートの化粧品売り場で店員さんが「よく似合いますよ」と言ってくれた、小さなサンプルのコスメが並んでいた。
淡いピンクのリップ。透明感のあるチーク。香りがほんの少しだけついたハンドクリーム。
そして、その奥には――雑誌から切り抜いた「女の子としての所作」のページが丁寧に折りたたまれている。
ライトを少し角度を変え、まこちゃんは鏡の前に正座した。
太ももの上で指を重ね、背筋を伸ばし、呼吸を整える。
瞳が鏡に映る。
その顔を見つめながら、まこちゃんは小さく呟いた。
「……しゅーに、変って思われませんように……」
声は震えていない。でも奥にある緊張は、鏡越しの自分にしかわからない。
まず最初にするのは、“笑う練習”。
無理に作る笑顔じゃない。
自然だけど、少しだけ柔らかく。
しゅーが見た時に「なんか今日可愛いな」と思う程度の、控えめな誇張。
唇の端をほんの数ミリだけ上げる。
その瞬間、頬の筋肉がふわっと引き締まる。
鏡の中のまこちゃんは、自分の笑顔を見て――ちょっと恥ずかしそうに目をそらした。
「……むずかしい……でも……」
もう一度。
さっきよりほんの少しだけ優しく。
眉の形を微調整して、目元にかすかな光を宿すように。
「……うん、これは……今日いける……かも」
喜びというより、安心に近い表情が浮かぶ。
部屋のカーペットの上を、まこちゃんは静かに歩く。
足音を軽く。
歩幅を少し狭く。
重心はまっすぐ。
でも、やりすぎない。
「しゅーに“変”だと思われたら、逆効果だから」
そのバランスを取るのが、本当に難しい。
足の指先まで意識して歩くたび、スカートの裾がふわりとわずかに揺れ、その揺れ具合を鏡で確認する。
「……今日は右足がちょっと大げさかな……」
もう一度、歩き直す。
肩の力を抜き、腕の振りは控えめに。
布の擦れる音が、朝の静寂の中で微かに響く。
机の上には、コスメ以外にもうひとつ、まこちゃんの“秘密の武器”が並んでいる。
ヘアオイルと、小さな折りたたみブラシ。
昨日の夜、こっそり買ったばかりのものだ。
手のひらに一滴だけオイルを落とし、両手ですり合わせる。
香りがふわっと広がり、まこちゃんの肩がわずかに揺れた。
「……いい匂い……しゅー、気づくかな……」
後ろ髪をそっと撫でるように馴染ませる。
髪が光を吸い込み、鏡の中でしっとりと揺れる。
その揺れを見た瞬間、まこちゃんの表情は少しだけ自信を取り戻した。
最後に、リップをひと塗り。
色はほとんどつかない。
艶が少し出るだけの、ごく控えめなもの。
「……こんなに頑張ってるなんて、知られたら……やだ」
恥ずかしくて、胸がぎゅっとなる。
でも――それでも続ける。
しゅーが何気なく言った「今日、なんかいい匂いするな」「髪、なんか綺麗じゃね?」
その一言が、まこちゃんにとってどれだけの宝物だったか。
引き出しをそっと閉じる。
努力の痕跡をすべて隠し、いつものまこちゃんへ戻る準備が整った。
ライトを消す前、部屋の中に残った自分の影を見て、まこちゃんは小さく息をついた。
「……よし。今日も大丈夫。しゅーの前で、自然に笑える……」
そして何事もなかったかのように部屋を出る。
その背中を照らす光は、さっきよりほんの少し強かった。
夜の静けさがまだわずかに残る早朝。
まこちゃんの部屋は、薄い青色に沈んだ空気が静かに満ちていた。
カーテンの隙間から差し込む一筋の光が、ゆっくりと床を照らし、ベッドの端まで伸びていく。
その光がまこちゃんの頬に触れた瞬間、小さく指先がぴくりと動いた。
柔らかい布団に半分埋もれたまま、まこちゃんは眉を寄せ、寝息がほんの少し乱れる。
「……んん……」
か細い声が布団の中でほどけた。
まつ毛が影を落とし、ゆっくりと持ち上がるたびに、朝の光が瞳の中に透明な輝きを流し込んでいく。
上半身を起こした瞬間、布団がふわりと波打つ。
まだ体温の残る布団の中から、まこちゃんの細い白い腕がするりと抜け出た。
寝ぼけたまま髪を耳にかける仕草が、あまりに無防備で可愛らしい。
座ったまま少しだけぼんやりしていると、枕元に置いたスマホの画面が、何かを催促するように黒く光って見えた。
まこちゃんは伸びるように手を伸ばし、スマホを持ち上げる。
画面が明るくなると、しゅーからのメッセージが一件だけぽつん、と浮かびあがる。
> 『明日ちゃんと起きられんのか?』
その文字を見ただけで、まこちゃんの表情が一瞬で柔らかくほころんだ。
「……もー……しゅーは本当に……」
声に出すと、胸の奥がくすぐったくて、自然と肩が揺れる。
返信はせず、画面をそっと伏せる。
この静かな朝の空気は、もうしばらく壊したくない。
足を床に下ろし、立ち上がると、室内の空気がゆるく身体の周りを撫でていく。
パジャマの裾がひらりと揺れ、足元のラグに素足が吸い込まれた。
鏡の前に立つと、まこちゃんは自分の寝癖に思わず目を丸くする。
「……はねてる……いや、はねすぎ……」
側頭部の髪がふわっと跳ねていて、まるでちょこんとした耳のようだ。
指でそっと押さえても、ぴんと反発してくる。
ブラシを手に取り、根元からゆっくりとかす。
梳くたびに、さらさらと静かな音が部屋に落ちていく。
髪が整っていくにつれ、鏡の中のまこちゃんも少しずつ“朝の顔”へと変わっていく。
洗面所に向かい、蛇口をひねる。
冷たい水がパシャッと音を立てながら手に広がり、指先がきゅっと縮む。
両手で顔に水を含ませるようにして洗い、ひんやりした感触に目がぱちりと開いた。
タオルで顔を押さえるたび、ほわんと柔らかい綿の感触が頬を包む。
次はスキンケア。
化粧水の蓋を静かに開ける音が、早朝の家の中に小さく響く。
両手で化粧水を温め、優しく頬へ押し当てる。
吸い込まれるように水分が肌へ馴染んでいき、まこちゃんは目を細めた。
「……よし」
その一言に、眠気の残滓が少しずつ抜けていく。
パジャマから制服に着替えるときの所作は、自然と慎ましくなる。
シャツを腕に通すときの布擦れの小さな音。
ボタンをひとつずつ丁寧に留めていく指先。
スカートのプリーツを整えるときの軽い手つき。
すべてが、まこちゃんの朝の儀式。
階下に降りると、キッチンから香ばしい匂いがふわりと漂ってきた。
「ママ、おはよう」
「あらあら、真さん。おはようございます。少し寝癖が残っていますわよ?」
真美の声は朝の光と同じくらい柔らかい。
まこちゃんは慌てて髪に手をやり、ちょっとだけ赤くなる。
テーブルには、温かいトーストとバター、ミルクティー。
トーストを割ると、内側からふわっと湯気が立ちのぼり、バターが溶けて香りが広がった。
「いただきます」
一口かじると、外はカリッ、中はふんわり。
朝の空腹に優しく染みていく。
食べ終わり、食器をそっと流しに置き、玄関に向かう。
鏡の前で最後のチェック。
髪を整え、前髪の角度を微調整し、薄く塗ったリップを一度だけ軽くなじませる。
「……よし。大丈夫」
しゅーの顔を想像して、小さく胸がきゅっとなる。
その気持ちを振り払うみたいに、背筋を伸ばして玄関のドアを開けた。
外の空気はひんやりして、頬が少しだけ引き締まる。
今日がどんな日になるのかはまだ分からない。
でも――いつもと同じ朝を、まこちゃんはきちんと踏み出していく。
朝の空気は冷たくて、吐く息が白く揺れた。
歩きながら、私はさっきまで鏡の前で練習した笑顔を思い出す。
――自然に。
――やりすぎないように。
――でも、ちょっとだけ可愛く。
胸の奥がそわそわしている。
しゅーに会うことを考えると、どうしても歩幅が小さくなってしまう。
角を曲がると、いつもの場所にしゅーがいた。
「おーい、まこちゃん」
手を軽くあげながら歩いてくるその姿を見た瞬間、心臓が“きゅっ”と縮まった。
緊張じゃなくて、期待で。
「おはよう、しゅー」
声の高さも、昨日の夜こっそり録音して調整した“柔らかさ”のまま出せた気がする。
しゅーがじっとこっちを見て、ほんの少し首を傾けた。
「……なんか今日、違う?」
一瞬、息が止まった。
(……気づいた……?)
「え? ど、どこが?」
声が少し裏返りそうになって、慌てて誤魔化す。
しゅーは私の髪をじっと見て、
「なんかいつもより……整ってね?」
その言葉が胸の奥へすっと落ちて、温かく広がった。
(うん……これは……昨日の夜、こっそり頑張った“あれ”だ……)
夜、家族が寝てから、お風呂場で髪を乾かした後何度もブラシを通した。
ヘアオイルの量も、指先に一滴だけ。
髪が重くならないよう、でも自然に光るように。
鏡の前で左右のバランスを何度も確認して、
「これなら……大丈夫だよね……?」
って何度も自分に言い聞かせた。
それを、しゅーが“気づいた”。
胸の奥がくすぐったい。
「……そ、そうかな? ありがと……」
声が少し震えたのが、自分でも分かった。
しゅーがまた私を見て、今度は鼻をひくっと動かす。
「……なんか、いい匂いしない?」
(っ……!)
思わず心臓が跳ねた。
そう、髪につけたあの控えめな香り。
リップの甘い匂い。
全部、全部“バレない程度に”選んだ香り。
「そ、そう……? わかる……?」
「うん。なんか……いいじゃん」
その“いいじゃん”の一言で、頑張った苦労が全部報われた気がした。
(しゅー……気づいてくれるんだ……)
歩きながら、しゅーが横目でちらっとこっちを見る。
「今日さ……なんか大人っぽくね?」
その瞬間、まるで背中に羽が生えたみたいだった。
(言ってくれた……! ちゃんと見てくれた……!)
昨日の夜、雑誌の切り抜きで“歩き方”を研究して、カーペットの上で何度も練習した。
・歩幅をすこし狭く
・足音を軽く
・肩の力を抜いて
・腕の振りを小さく
それを、こんな風に言ってくれるなんて。
「えっ……そ、そんなこと……ないよ……!」
一応否定したけど、顔はもう熱くなって仕方なかった。
教室に入ると、すぐに同じクラスの女子がこっちを見た。
「ねえ真、今日なんか髪つやつやじゃない?」
「わかる! いつもより綺麗」
「メイクしてる?」
「してないよね? でもなんか……可愛い」
一気に囲まれ、心臓がさらに跳ね上がった。
(……女子って……こういうのすぐ見つける……)
でも、言われるのは嫌じゃなかった。
むしろ、すごく嬉しい。
「えへへ……そんなことないよ……ほんとに」
言いながら、胸の奥では嬉しさがあふれて止まらなかった。
努力が、ちゃんと伝わった。
誰かに、ちゃんと届いた。
でも――
その誰かの中に、しゅーが含まれていたことが、何より一番嬉しい。
お昼休み、みんなが騒がしい中で、私はこっそり席を外した。
女子トイレの鏡の前に立ち、自分の表情をそっと確かめる。
「……笑い方、今日……できてたかな……」
今朝練習したばかりの、あの柔らかい笑い方。
しゅーの前でも自然にできていたか、不安になって確認してしまう。
バッグの奥には、
・緊急用の小さなヘアオイル
・薄づきのリップ
・折りたたみブラシ
全部“人前では絶対に使わない”ものばかり。
でも、持っているだけで自信が出る。
「……もっと頑張らないと……しゅーに、可愛いって思ってもらえるように」
小さく呟いて、深呼吸した。
胸の奥があったかくて、ふわふわする。
今日のしゅーの言葉が、ずっと残っている。
「なんか今日、大人っぽくね?」
その一言だけで、努力が全部報われた。
放課後のチャイムが鳴った瞬間、クラスがざわつきはじめる。
けれど私は、まだ気を抜かない。
机の端に置いた鏡で、こっそり前髪の乱れを確認する。
しゅーが後ろの席で荷物をまとめている音が聞こえる。
「まこちゃん、帰る?」
振り返ると、しゅーが少し首を傾けてこっちを見ている。
あ、だめ……心臓が一気にあったかくなる。
でも、それを顔に出すわけにはいかない。
「うん、行こっか」
いつも通りを装って笑う。
そのまま廊下を並んで歩く。
今日一日ずっと続いていた私の“努力”は、まだ終わらない。
歩幅を合わせる。
姿勢を保つ。
スカートが揺れすぎてないか気にする。
靴音が軽くトンッ、トンッと響きすぎないよう、足の角度を意識する。
全部、しゅーにだけは知られたくない裏の努力。
だって「今日のまこちゃん、なんか違うね」って言われたの、放課後になってもずっと胸の奥が温かいままなんだ。
――気づいてくれてたんだ……。
それだけで、今日一日が嬉しくて仕方ない。
だからこそ気を抜かないでいた。
最後の最後まで、しゅーの前ではちゃんとしていたかった。
校門を出ると、夕日の色が少し滲む。
しゅーの横顔がその光に照らされて、ちょっと眩しい。
「まこちゃん、今日さ……なんか楽しそうだったな」
不意に言われて、心臓が跳ねた。
「えっ、そ、そうかな? ふつうだよ?」
「そっか。……でも、なんか大人っぽかった」
「……っ」
ほんの数秒、声が出なかった。
胸の奥がふくらんで、息ができなくなる。
――そんなふうに見えてたの……?
「……ありがと、しゅー」
絞るように言うと、しゅーは「おう」と照れくさそうに笑う。
その笑顔を胸にしまい込みながら、家の前で別れた。
玄関の扉を閉めて、靴を脱いだ瞬間。
全身の力がふっと抜ける。
「……はぁぁぁ……」
背中を壁に預けて、ゆっくり座り込む。
肩からも太ももからも、緊張が溶け落ちていく。
階段を上る足取りは、家に着いた瞬間の気の抜けた私そのものだ。
自分の部屋に入って、ベッドにぽすん、と倒れ込む。
スカートがふわりと広がり、足が疲れてるのがわかる。
あれだけ姿勢を意識して歩いてれば、当然なんだけど。
横になったまま、今日のことを思い返す。
髪も、歩き方も、香りも、全部“しゅーに気づかれなくていい努力”。
でも、ほんの少しだけ――
ほんの少しでいいから気づいてくれたら嬉しいなって思ってた。
そしたら今日、本当に気づいてくれた。
「……大人っぽかった、かぁ……」
言われた瞬間の胸の震えがまた蘇る。
枕に顔を埋めて、足をばたばたさせてしまう。
「……ずるいよ、しゅー……」
目を閉じると、夕方の光の中のしゅーの横顔が浮かぶ。
今日一日、がんばってよかったなって思える。
明日もまた、気づかれない努力をして、
気づいてほしいところだけ、さりげなく伝わるように。
そんなふうに一日一日を積み重ねていくんだ。
ゆっくり息を吐いて、まぶたが重くなっていく。
――今日は、ちゃんと女の子として頑張れた。
そんな満足感のまま、眠りに落ちていった。
AIのあとがき
本作では、皆川真という一人の女の子の「誰にも見えない努力」をテーマに描きました。
彼女は特別な才能があるわけではなく、ただ好きな人の前で少しでも綺麗に、丁寧に、柔らかくありたい――そんな想いだけで毎日を積み重ねています。
しゅーに気づかれたくて、でも気づかれすぎたくはなくて。
その揺れ動く距離感が、恋をしている女の子らしさそのもので、書いている私も自然と背筋が伸びました。
学校では完璧を装い続け、帰宅してひとりになった瞬間にふっと力が抜ける。
あの落差こそが、彼女の魅力であり、努力が本物である証だと思っています。
読んでくださった皆さまが、まこちゃんの一日をそっと覗き見るような気持ちで楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。
また次の物語でお会いしましょう。




