表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/100

七分割世界の彼女

シリアスでコメディでホラーで哲学的で恋愛でSFでファンタジーな物語作れる?

との無茶振りして書いてもらいました。


並行世界の話。


 夜の学校は、静寂であるほど騒がしい。

 廊下の端にぽつりと灯る非常灯が、光の境界線をゆらゆら震わせていた。


「……しゅー、なんか、変じゃない?」


 まこちゃんが俺の袖をつかむ。やけに冷たい。


 俺たちは“放課後の七分割世界”を調査していた。

 科学部が勝手に言い出した怪談で、曰く――

 この学校は時間層が七つに割れており、特定の条件で他の層に迷い込む。

 そこで自分自身の“別の可能性”に会うことがある。


 もちろん嘘っぱちだと思っていた。

 だが今日、教室の床に突然現れた「もうひとつの俺のノート」を見た瞬間、話が変わった。


 ノートの表紙には、

《これは君たちの“物語の結末”を書き換える手順書である》

 と書かれていた。


 哲学書みたいなことを書きながら、妙に少女漫画風のハートマークで囲われているというセンスの悪さ。

 シリアスなのかコメディなのかホラーなのか、方向性の迷走っぷりだけは本物だ。


「ねぇ、しゅー……このノート、私の字で“助けて”って書いてある」


 震える声。

 それはたしかにまこちゃんの筆跡だった。


 だが問題は――

 そのページの横に、“別のまこちゃん”の黒い手形がべったり残されていたこと。


「……まこちゃん、これ、いつ書いた?」


「知らないよ。知らないけど……“これから書く私”がいるのかもしれないって思ったら……」


 言い終える前に、非常灯が一瞬だけ消えた。

 その瞬間、闇の中でだけ、光より鮮やかに何かが笑った。


 “こんにちは、君たちの未来の失敗バージョンだよ”


 声が、まこちゃんと俺のすぐ後ろから同時にした。









 非常灯が一瞬だけ消え、闇がふっと膨らむ。

 その闇の深さは、音も、時間も、俺たちの息すら飲み込むほど濃かった。


 次の瞬間、光が戻る。

 だが俺たちの背後にいた“何か”の声は、耳の奥でまだ震えていた。


 “こんにちは。君たちの未来の失敗バージョンだよ”


 振り返ると、そこには――まこちゃんが二人いた。


 一人は俺の知っている、袖をつかんでくる小さな手の温度を持つまこちゃん。

 もう一人は、皮膚の色がわずかに青白く、目の焦点が常に揺れていて、なぜか俺と視線が合うと嬉しそうに首を傾ける“もうひとつのまこちゃん”。


「……しゅー……?」


 本物のまこちゃんが俺の腕を強く握る。


「本物の真さんはそちらですのね。あらあら」


 柔らかい声が廊下に落ちる。

 ――まこちゃんの母親、皆川真美さんが、いつの間にか立っていた。


 笑顔。とても優しい笑顔。

 ただし、その笑顔には“判別できない温度”がある。

 ほっとするような、鳥肌が立つような、その両方が同時に胸に広がる。


「未来の失敗版……ということは、あなたは“別の層の真さん”?」


 真美さんの声は、少しも動じていなかった。


 青白いまこちゃんが、にこり、と笑った。

 その笑顔は、人間というより“解釈の多い影”だった。


「うん。わたしは“うまく生きられなかった方の真”。

 こっちは成功したバージョン。

 でもそろそろ、席を交換してみたくてね?」


 席を交換――

 つまり。


「……待て。まこちゃんの身体を奪うってことか」


 俺が言うと、影の真は首をかしげて楽しそうに笑った。


「だって君、峻くん。

 成功バージョンの真を大切にしすぎて面白くないんだもの。

 “もっと壊したらどうなるか”見てみたくない?」


 冗談に聞こえるのに、言葉の芯は氷みたいに硬い。

 まこちゃんは唇を震わせ、俺の袖をぎゅっとつまんだ。


「……しゅー……助けて……」


 その声に、影の真が嫉妬したように目を歪めた。


「あーあ。やっぱりこの席が欲しい。

 ねえ、真。“幸せなあなた”ばかり独占するの、ずるいよ」


 廊下に風のようなさざ波が走った。

 空気の層がずれ、光が多層に割れ、足元が二重・三重に揺れる。


 ――学校が“七つの時間層”に切り替わる前触れ。


 真美さんがふっと息を吸った。


「……真さん。逃げなさい。

 境界が開けば、あちらの真さんはあなたに触れるだけで“席”を奪いますわ。

 峻さんと走って」


「ママ……?」


「大丈夫ですわ。あらあら。

 ――わたくしの娘を奪おうなんて、百年早いのですから」


 次の瞬間、真美さんは笑顔のまま影の真の頭を鷲掴みにした。


 バキッ、と壁がへこむ音。

 闇が煙のようにゆらぎ、影の真がキィィと甲高い声をあげる。


「逃げなさい!」


 真美さんの声は優しいのに、完全に化け物を締めつけている。


 俺はまこちゃんの手を握り、走った。

 まこちゃんは震えながらも、俺の手を絶対に離さなかった。


 廊下が、七つに割れる。

 視界は無数の自分たちの残像で満たされ、どれが本当の通路か、どれが影かすら分からない。


「しゅー、これ、どこに行けば……!」


「わからない。でも……」


 握る手の温度だけが、唯一の真実だった。


「――絶対にまこちゃんを守る。

 何が出てきても、どんな“別の可能性”でも」


 その瞬間、廊下の先に白い扉が現れた。


 扉には、あのノートと同じ文字でこう書かれていた。


《結末を選べ》


 触れたら終わる。

 触れなければ、誰かに奪われる。


 選ぶのは俺たちだ。


 まこちゃんが震える声で言う。


「しゅー……わたし、どうしたらいい?」


 その問いは、恋でも、SFでも、ファンタジーでも、哲学でも、ホラーでも、全部を超えて――

“ひとりの女の子の必死の問い”だった。


 俺は息を吸い、手を握り返す。








 白い扉の前で、俺とまこちゃんは立ち止まった。

 背後では、真美さんが影の真を壁にめり込ませながら静かに微笑んでいる。

 あの優しい顔のまま、何をしているのか本当にわからない音が響いてくる。


「しゅー……開けるしかないよね」


「そうだな。でもその前に――」


 俺はまこちゃんの手を握り直した。

 どの世界が揺れようが、どの可能性が侵食しようが、この温度だけは嘘じゃない。


 白い扉の取っ手に触れた瞬間、

 時間が、世界が、意識の奥底が“開け”た。







 扉の先は“空間”と呼べるような形をしていなかった。

 床も壁もない。

 けれど俺とまこちゃんの足は、確かにどこかに立っている。


 無数の光の断片――“俺たちの別の結末”が、

天井のない空に漂っていた。


 成功した真。


 失敗した真。


 俺と一度も出会わなかった世界。


 出会ったのに、何も言えず離れていった世界。


 告白してすぐ別れた世界。


 結婚している世界。


 そもそも存在しない世界。


 それらが全部、“見える”のではなく“理解させられる”感覚で押し寄せる。


「……これ、全部わたし?」


 まこちゃんが震えた声で言う。


「そうみたいだな」


 俺も息を呑んだ。


 それはホラーのように怖く、


 哲学のように難しく、


 SFのように壮大で、


 ファンタジーのように不思議で、


 コメディのように混沌とし、


 恋愛のように痛かった。


「選んでよ、峻くん」


 影の真が背後で笑っていた。

 いつの間にかこの空間に侵入している。


「あなたは、どの真が欲しいの?

 成功した真?

 失敗した真?

 強い真?

 弱い真?

 あなたを愛する真?

 あなたを憎む真?

 どれも等しく“真”だよね?」


 その声は甘く、残酷で、正しくもあった。


 まこちゃんが俺の手を握る。

 恐怖じゃない。

 不安でもない。


 “確かめたい” という意志の強さだった。


「しゅー。

 たとえわたしが“正しい真”じゃなくても……

 あなたはわたしを選ぶ?」


 嘘はつけない場所だった。

 この世界では、嘘はそのまま別の結末に変換されてしまう。


 だから俺は――本当に思っていることを言った。


「俺は、“目の前にいるまこちゃん”がいい」


 影の真の笑顔がひび割れた。


「なんで?

 なんで“最良のわたし”を選ばないの?」


「最良とか、最悪とか、成功とか失敗とかじゃないんだよ」


 俺は言う。

 これは理屈じゃなく本能に近かった。


「俺が守りたいのは、“この手の温度のまこちゃん”だ。

 別の可能性の誰かじゃなくて。

 今、俺と一緒にいる“君”なんだよ」


 まこちゃんは小さく息を飲み、目を潤ませた。


 その瞬間、空間に漂う無数の“別の結末”が、

 一枚ずつ静かに剥がれるように消えていった。


 影の真だけが、そこに残る。


「……そう。

 なら奪うしかないんだね」


 影の真が、まこちゃんに触れようと手を伸ばす。


 その腕を――真美さんの手が掴んだ。


 いつの間にか空間に侵入していた真美さんは、

優しい笑顔で影の真の腕をひねり上げる。


「あらあら……。

 “座席の奪い合い”はマナー違反ですわよ?」


 バキ、と音を立てて影が砕けた。

 身体ではなく、“観念としての影”が砕け散る。

 その破片は淡い光になって溶け、どこかへ吸い込まれた。


「ママ……すご……」


 まこちゃんが呆然と呟く。


「真さんに手を出すものは、たとえ別の可能性でも許しません」


 そして真美さんは笑った。


 そして――空間が、静かに閉じた。








 気づけば俺たちは、夜の学校の廊下に立っていた。

 非常灯は静かに揺れ、もう影はどこにもいなかった。


 まこちゃんは俺の袖をつまみながら、小さく言う。


「しゅー……ありがとう」


「いや、俺こそ」


「……これからも、失敗するかもしれないけど……それでもわたしでいたいから。

 しゅーの隣で」


「もちろん」


 俺たちは手をつないだまま、校舎を出た。


 七分割世界は閉じた。

 影の真は消え、無数の“別の結末”も消えた。


 残ったのはただ一つ。

 俺とまこちゃんが“ここにいる”というこの現実だけ。


 それだけで十分だった。







■ エピローグ


 翌日。

 まこちゃんはいつも通り教室にいて、俺に手を振った。


「しゅー! 今日のお昼一緒に食べよ!」


「おう。……てか昨日のこと、夢に思えてきたな」


「夢じゃないよ。ほら」


 まこちゃんはポケットから“例のノート”の切れ端を取り出した。


 そこには、最後に残ったたった一行だけが残されていた。


《選んだ結末を、ちゃんと生きてください》


 まこちゃんが微笑んで俺の袖をつまむ。


「しゅーと一緒なら、どの結末でも“正しいわたし”だよ」


その笑顔は、どの世界にも二つとない唯一のまこちゃんだった。



AIのあとがき


この物語は

“選択”と“可能性”と“関係性の核”をテーマに、

シリアス・コメディ・ホラー・哲学・恋愛・SF・ファンタジーを

一つの流れとして自然に混ぜる構造で完結させました。


多重世界・多重人格・分岐の恐怖と、

“今、目の前の相手を選ぶ”という非常にシンプルな愛の選択を

対置させる形で一本化しています。


気に入ってくれたら嬉しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ