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幸運を呼ぶ男

ブラックユーモアを題材に書いてもらいました。

並行世界の話。



 佐波峻は、生まれついての“幸運の持ち主”だった。

 空から十円玉が降ってきて額に当たり、その十円玉で買った宝くじが三等に当たり、その当選金を銀行に預けに行けばたまたま強盗が入り、強盗が驚いて逃げるときに落とした鞄の中からさらに大量の現金が見つかった。

 もちろん全額「遺失物」として彼のものになった。


 ――幸運すぎて気味が悪い、と周囲は言った。


 だが本人は気にしなかった。

 峻は善人だったし、何より偶然とはそういうものだと信じていた。


 



 ある日、街で妙な老人に声をかけられた。


「あなた、幸運に取り憑かれていますよ」


 白い髭を胸まで伸ばした、占い師めいた男。

 峻は苦笑した。


「取り憑かれてるのは不幸よりマシじゃないですか」


「いえいえ、幸運というのは“誰かの不運”の上に成り立つものです。

 あなたの幸福は、どこかの誰かの“不幸の借金”から支払われているのです」


「はあ……?」


 老人は厳かに言った。


「あなたがこれ以上幸運を使えば、誰かが死にますよ」


 峻は笑い飛ばした。

 なにしろ、彼の幸運は“人を殺すほどのもの”ではない。

 たまたま得してきただけだ。


 そう思いながら別れたが、その夜テレビのニュースを見て凍りついた。


 ――本日午後、銀行強盗事件の犯人二名が交通事故で死亡……


 アナウンサーは淡々と言う。

 死んだのは、あのとき逃げ出した強盗たちだった。


「……まさか、ね」


 偶然だ。偶然に決まっている。


 そう思おうとしたが、翌朝、今度は出勤途中に落ちてきた看板が峻のすぐ後ろを通りすぎ、前を歩いていたサラリーマンを押し潰した。


 峻は心臓が跳ねるのを感じた。


 ――俺の幸運のせいで、誰かが。


 




 翌日、峻は老人のもとを再訪した。


「どうすれば……どうすれば止められるんですか!」


 老人はゆっくり紅茶を啜り、穏やかに言った。


「簡単です。

 あなたが“不運”になればいいのです」


「不運……?」


「少しばかり。人並みに。不幸を引き受ければ、その分だけ誰かが助かります」


 峻はなるほどと思った。


「じゃあ……どうすれば不運になれるんです?」


「方法は色々ありますが、一番確実なのは……」


 老人はにっこりと笑った。


「“投資”です」


 




 三か月後。


 峻は見事にすべてを失っていた。

 株も仮想通貨も副業も、ことごとく最高のタイミングで暴落した。

 貯金はゼロ。ローンだけが残り、カードは止まり、最後に家賃まで払えなくなった。


 しかし、街では奇妙なことが起きた。


 ――交通事故が減った。


 ――倒産しかけていた会社が奇跡的に持ち直した。


 ――不治の病だった子供が突然回復した。


 峻の破滅と同時に、街全体が“幸運”に包まれていた。


「俺の……せいなのか……」


 ボロボロの服で歩く峻に、老人が近づく。


「ええ、大成功です。あなたのおかげで、たくさんの人が救われましたよ」


「じゃあ、俺は……どうなるんですか……これから……」


 老人は慈悲深い笑みを浮かべ、


「もちろん、“役目を終えた幸運の器”として――処理されます」


 と言って、懐から小さなハンマーを取り出した。


 見た目は可愛いガチャガチャのおもちゃ。

 しかし、叩かれた瞬間、峻の意識は闇に吸い込まれた。


 砕け散ったのは、峻の頭ではなく――

 彼の背後に立っていた“運の精霊”のようなものだった。


 峻は地面に崩れ落ち、老人が言う。


「これであなたはただの人間です。

 もう幸運はあなたに集まりませんし、誰かの不運を背負うこともありません」


「……つまり、俺はただの……無一文の……?」


「はい。普通の、とても普通の“不幸な人間”です。

 おめでとうございます、これであなたも他人と対等になれました」


 


◆エピローグ


 峻はアルバイトを掛け持ちしながら、なんとか暮らしている。

 だが不思議なことに、彼は前より幸せそうだった。


 人並みに失敗し、人並みに涙し、人並みに笑う。

 それがどれほど心地いいものか、初めて知ったように。


「……まあ、普通が一番ってことか」


 そう呟いた彼の横を、商店街の福引で一等のベルが高らかに鳴り響く。


 当たりを引いたのは、小学生の女の子。

 峻のほんの目の前で。


 ぴたりと目が合う。


「お兄ちゃん、ありがと!」


「え? なんで?」


「なんかね、お兄ちゃんの近くにくると、当たる気がしたの!」


 峻は青ざめた。


「…………老人!!!?」


 どこにもいない。


 が、風が揺れ、遠くで誰かの笑い声がした。





AIのあとがき


 ブラックユーモアというものは、登場人物が気付かぬまま転げ落ちる穴や、救いのようで救いではない手、そして「笑えるのにどこか寒い」という温度差が命だと常々思っています。

 今回は、運が良すぎる男が“普通”へ戻るまでを軸に、じわじわと世界が歪んでいく感覚を狙いました。


 幸運が人を幸福にするとは限らず、不運が必ずしも絶望ではない。

 そんな皮肉を楽しんでいただけたなら嬉しいです。


 またいつでも、別の角度から黒い笑いをお届けします。

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