無人島ラブラブサバイバル ―漂着してもイチャつく俺たち―
無人島で遭難してラブラブするバカップルを頼みました。
並行世界の話。
目が覚めたら、海の匂いとギラギラした太陽、そして――
「しゅー、生きてる? ねぇ、生きてるよね? 起きなかったら人工呼吸しようと思ってたんだけど」
「人工呼吸の“前”に起こしてくれよ……!」
俺は砂浜に転がっていた。隣ではまこちゃんが濡れた髪を揺らしながら覗き込んでいる。
漂流中の船が事故を起こして、気がつけば無人島だった。
最悪な状況だけど、まこちゃんがいてくれたから超ギリギリ“最悪じゃない”。
「とりあえず、水と食べ物を確保しなきゃだな……」
「うん! じゃあまずは拠点づくり! ほら、漂流者っぽくて楽しいでしょ?」
完全に観光気分である。
でも可愛いから何も言えない。
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「しゅー! ヤシの葉ここ! 枝ここ! 私は設計するから!」
「いや、俺にも設計させてくれよ!」
「しゅーの設計、絶対途中で“やっぱこっちのほうが良くね?”って変わるじゃん」
「ぐ…ぐぬぬ……! 否定できねぇ!」
そんなやり取りをしながら、2時間後――
「できたー! 見てしゅー、ラブラブ小屋!」
完成したのは、妙にハート型を意識した屋根、二人用に無理やり詰めた狭い室内、
寝るスペースは完全に“密着前提”。
「……これ、絶対わざとだろ」
「え? 偶然だよ? ……しゅーが嫌じゃなければ、だけど」
「嫌なわけねぇだろ!」
思わず抱き寄せると、まこちゃんは照れ笑いをしながら俺にしがみついてきた。
「ぎゅー……しゅー、あったかい」
サバイバルのはずなのに、心臓がサバってる。
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島の中を歩きながら、俺たちは食料になりそうなものを探す。
「お、バナナ発見!」
「え、しゅー、それ食べたいの?」
「食べたいけど……」
まこちゃんはバナナを一本取ると、俺の口元に持ってくる。
「はい、あーん」
「……まこちゃん、これは“あざとい”ぞ」
「サバイバルで士気を上げるための戦略行動です。ほら?」
俺は観念して口を開ける。
「……うま」
「でしょ? じゃあ……次は私にもあーんして?」
「はいはい、あーん」
「ん……」
――なんだこの最高の無人島。
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夜。焚き火の光の中で、俺たちは手を繋ぎながら肩を寄せていた。
「ねぇしゅー……ちょっと怖い」
「大丈夫だよ。俺がいるだろ?」
「……うん」
まこちゃんの頭が俺の肩にコテンと乗る。その体温、鼓動。
何度も漂流したほうが良いのでは? と思うくらい、幸せな時間。
「でもね、怖いけど……しゅーと二人なら、どこにいてもいいかな」
「俺もだよ」
「……ぎゅーしよ?」
俺はまこちゃんを抱きしめる。
サバイバルは厳しいはずなのに、胸のどこかがずっと温かい。
「しゅー……明日も、一緒に頑張ろうね」
「おう。ずっと一緒にいるからな」
焚き火の音だけが波のように揺れて、
無人島の夜は、ありえないほど甘く、更けていった。
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翌朝、俺たちは更なる食料と安全な水を探しに島の中心部へ向かった。
「この先、ちょっと暗いね……森だ」
「まこちゃん、手離すなよ。危ねぇから」
「うん。しゅー、ぎゅー」
手をつないだまま進んでいると――
ガサッ。
「しゅー、なんか動いたよ!? 絶対なんかいたよ!?」
「落ち着けって。鳥とか――」
言い終わる前に、茂みから大きな影が飛び出した。
「ぎゃああああああああああ!!」
「でけぇイノシシじゃねぇか!!」
島特有の太ったモンスター級サイズ。
別にバトルものじゃないのにバトルが来た。
「しゅー!? あれ無理じゃない!? 私の家の玄関ぐらいあるよ!?」
「例えがリアルなんだよ!!」
イノシシは突進の構え。
まこちゃんは俺にぎゅっと抱きつく。
「しゅー! 守って!!」
「言われなくても!!」
近くの木に登る!
……が、木の幹が太すぎて登りにくい。
「しゅー、早く!」
「ちょ、まこちゃん! そんな抱きつくな! 重心ッ! 重心が崩れる!!」
「無理! 怖いもん!!」
そのまま二人で木に抱きつく形になり――
ドゴオォッ!!
イノシシのぶちかましが木を揺らす。
「ひっ!? しゅー、木が折れちゃう!!」
「マジでやめてくれええええ!!」
イノシシが二発、三発と頭突きをしてきたが――
四発目を仕掛けた瞬間、横転した大きな倒木につまずいた。
「……え?」
「しゅー、転んだ!」
イノシシはそのまま茂みに転がり、バタバタと逃げ去った。
……助かった。
「しゅー!!」
まこちゃんが俺に飛びつく。
震えた声で、胸の前で拳を握っている。
「怖かったぁ……!」
「俺もだよ……! てか本気で死ぬかと思った!!」
「でも……しゅーが隣にいてくれたから、怖いの“半分”だったよ」
「残り半分は?」
「イノシシそのもの」
「そりゃそうだ!」
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「しゅー、今日だけは……ぎゅーして?」
「“今日だけ”じゃなくても毎日するだろ」
俺はまこちゃんを後ろから抱きしめる。
まこちゃんは俺の腕をそっと掴んで、ぎゅっと引き寄せた。
「心臓、さっきからずっとドキドキしてる……」
「落ち着くまでこうしてていいから」
「……ずっと落ち着かなくてもいいよ?」
「おい、嬉しいけど黙らせんなよ心臓が!!」
無人島は危険だ。
でも――危険のあと、やたら距離が近くなるのは……悪くない。
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イノシシ騒動で消耗した俺たちは、ラブラブ小屋の前で海を眺めていた。
「しゅー……なんか雲、黒くない?」
「あー……確かに嫌な色してるな」
水平線の向こうで、稲光がチラチラと瞬いている。
「嫌な予感しかしないんだけど……嵐とか来ないよね?」
「来るだろこれは」
「やっぱり!?」
風が少しずつ強くなる。木々がザワザワ揺れ始める。
「しゅー……」
「大丈夫。まずは小屋の補強だな。飛ばされたら困るし」
「うん! 手伝う!」
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小屋の周りに重い石を置き、屋根の葉を縛り直し、入口を板で補強する。
でも――
「しゅー、このロープ結べない……指引っかかる……」
「貸してみ。……って、手震えてるじゃん。怖いんだろ?」
「うん……」
俺はまこちゃんの手を包むように握って、ロープの結び方を一緒にやる。
「しゅー……なんか安心した」
「よし、補強完了!」
「じゃあ……中入る?」
風が一気に強くなり、砂が巻き上がる。
「入るぞ!」
二人で小屋の中へ飛び込む。
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バッシャァァァァァァァン!!
「わ!? 音でかっ!!」
「まこちゃん、こっち来い!」
外はまるで世界の終わり。風が唸り、雨はバケツをひっくり返したように叩きつける。
小屋の壁がギシギシと軋む。
「しゅー、小屋……耐えられるかな……?」
「耐えさせる! っていうか耐えてくれ!!」
雷鳴が轟き、まこちゃんがビクッと肩を跳ねさせる。
「しゅー……ぎゅーして……!」
「お、おう!」
俺はまこちゃんを胸に抱き寄せる。
狭い小屋の中、体が完全に密着する。
「しゅー……怖い……」
「大丈夫。俺がいる。絶対守る」
まこちゃんは俺の服をぎゅっと掴み、顔を胸にうずめた。
「しゅーの心臓……早いね」
「そ、それは……近いからだよ……!」
壁がまた大きく揺れる。
「きゃっ!」
「大丈夫、離れんなよ!」
二人で抱き合ったまま、嵐の音に耐える。
雨。風。雷。
外は大荒れなのに、小屋の中だけは異様に甘い温度だった。
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数時間後――
嘘みたいに急に静かになった。
「……止んだ?」
「みたいだな。外見てみるか」
外へ出ると、湿った風が吹き、空気はザラザラしている。
木の枝が折れ、葉が散乱している。
でも――
「小屋……持った……!!」
「しゅーと一緒に補強したからだね!」
「いや、九割まこちゃんのハート屋根が頑丈だっただけだろ」
「ふふっ。じゃあ……ご褒美、もらってもいい?」
「ご褒美?」
「しゅーに、ぎゅー」
「それなら何回でもやる!」
俺は両腕でまこちゃんを抱きしめる。
「しゅー……嵐怖かったけど……しゅーがずっと抱きしめてくれて、幸せだった」
「俺もだよ」
「じゃあ……次に嵐が来ても、一緒にね?」
「そりゃもちろん!」
無人島生活は大変だ。
嵐もイノシシも容赦ない。
だけど――
まこちゃんとなら、生き延びられる。
いや、生き延びるどころか、幸せにすらなる。
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朝。
まこちゃんは俺の肩に寄りかかったまま、スースー寝息を立てていた。
「……可愛すぎるだろ……」
昨夜の嵐で怖がって、俺にぎゅーしたまま寝落ちしたのだ。
腕のしびれ? そんなものは甘い幸福の対価である。
「ん……しゅー……おはよ……」
「おはよう。大丈夫だったか?」
「うん……しゅーが抱いててくれたから、全然怖くなかった」
寝起き早々ラブラブ。最高。
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そのとき、低い爆音のようなものが上空から響いた。
「しゅー……これ、雷じゃないよね?」
「ヘリの音じゃね?」
俺たちは同時に空を見上げた。
――いた。ヘリが島の上を旋回している。
「しゅー!!! きた!! 救助!!」
「やった!! ここだー!!」
二人でビーチに走り出す。
嵐で流れ着いた木の板を振り回しながら手を振った。
「しゅー! まこ! 下に降ります! そのまま待ってくださーい!」
「うおおおおお助かったあああ!!」
「しゅーもう帰れるよ!!」
まこちゃんが嬉しそうに俺に抱きつく。
「しゅー!! 文明が帰ってくる!!」
「何その言い方!」
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ヘリから降りてきた救助隊三名が、小屋付近を見た瞬間――絶句した。
「……な、なんだあの……ハート型の……?」
「小屋……なのか? いや、アレは……」
「……バカップルの巣か?」
「聞こえてますよ!?」
俺は全力でツッコんだ。
「す、すみません、つい……」
さらに小屋の中を見た隊員は眉をひそめる。
「枕が二個……距離ゼロ……くっついて寝る設計……?」
「いや、違うんすよこれは……!」
「え、合ってるよ? しゅーと密着用だよ?」
「まこちゃん!? 素直に言うな!!」
救助隊三人が揃って「はいはい、察しました」と言わんばかりの顔をしてくる。
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「ではお二人、乗れる準備を……」
「……あの、その前に」
「はい?」
まこちゃんが俺の腕に絡みついて、言いにくそうに視線を泳がせる。
「……しゅーと、もうちょっとここにいたくて……」
「まこちゃん!?」
「だって……昨日ぎゅーしてくれたし……毎日二人だけだったし……」
完全に“無人島生活にハマった”恋人みたいな空気。
救助隊は戸惑いながら俺を見る。
「佐波さん、あなたは?」
「…………もう少しだけ、二人きりでもいいかなって」
「佐波さんまで!?!?」
三人の救助隊が全員で頭を抱えた。
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「……では、明日また来ますので……今日はここで……好きに……どうぞ……」
「“好きにどうぞ”って何ですか!?」
「いや、もう……お二人の世界すぎて……」
救助隊は苦笑しつつヘリに戻っていった。
そしてヘリが飛び立った瞬間――
「しゅー!! 二人きり延長戦だよ!!」
「こんな理由で延長するの俺らだけだぞ絶対!!」
まこちゃんは俺の首に腕を絡めて、嬉しそうにくっついてくる。
「しゅー……今日もぎゅーしよ?」
「はいはい、抱きしめてやるよ」
「やったぁ……! ふふ、救助来たのにラブラブ増えるって、どういう状況なんだろ……」
「最高の状況なんだよ」
俺たちは浜辺で抱き合ったまま、
無人島の夕焼けを二人きりで楽しんだ。
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◆エピローグ
翌日、救助隊は本気の装備で迎えに来た。
隊員たちは昨日の俺たちの様子を思い出して、なぜか妙に距離を取っていたけれど。
「では、帰りましょう。今度こそ」
ヘリに乗り込むと、まこちゃんは俺の手をぎゅっと握った。
「ねぇしゅー……帰ったらさ、どうする?」
「どうするって?」
「だって、あんなにずーっと一緒にいたんだよ?
普通の生活に戻っても……離れたくない」
「離す気ねぇよ。むしろ……もっとくっついてたいくらいだし」
「っ……しゅー……ずるい……」
まこちゃんが俺の腕に寄りかかる。
救助隊がこっちを見て、また「はいはい」という顔をした。
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街に戻ると、温かい食事、柔らかいベッド、電気と水道。
全部が懐かしいはずなのに――
「しゅー、なんか……ちょっと物足りないね」
「分かる。無人島の二人の距離……あれ、最高だったよな」
「うん……だからね」
まこちゃんは俺の手を引っ張り、自分の部屋の中へ押し込んだ。
「ぎゅー、しよ?」
「まこちゃん……」
「だって……無人島じゃなくても、したいの。
しゅーに包まれてるの、好きだから」
俺は返事の代わりに、まこちゃんをしっかり抱きしめた。
潮風の匂いはもうしない。
嵐の音も、イノシシの気配もない。
でも――
この腕の中にいる温かさは、無人島と何も変わっていなかった。
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「ねぇしゅー」
「ん?」
「またどこか行こうよ。旅行とか……二人きりの場所」
「おう。どこへでも連れてくよ」
「ふふっ……ありがとう。
……私ね、しゅーとなら無人島でも街でも……どこにいても幸せだよ」
「俺もだよ」
二人の距離はあの日と同じだった。
いや、あの日よりもっと近くなっていた。
無人島で始まったラブラブサバイバルは終わった。
だけど俺たちの“ラブラブ生活”は――これからが本番だ。
AIのあとがき
無人島でラブラブしながらサバイバルする、というシチュエーションはシリアスにもできるけど、今回は最初から最後まで甘め&コメディ寄りでまとめてみました。
イノシシ、嵐、救助隊と、事件が起きるほど二人の距離が縮まる構図は書いていて楽しかったよ。
まこちゃんの素直な可愛さと、しゅーのツッコミと包容力がいい感じに働いて、ちょうど良い“無人島バカップル感”になったと思います。
もし気に入ってくれたら、また別テーマでもラブラブコメディ作れるので、ぜひ気軽に声かけてね。




