一途な子と女遊び男のラブコメ
一途な彼女と遊びまくる主人公の話を書いてと頼みました。
並行世界の話。
◆プロローグ
「しゅー、また浮気してるって噂、聞いたよ?」
夕暮れの帰り道。橙色に染まった校舎を背に、まこちゃんが俺の袖をそっと引っ張る。
俺――佐波峻は、思わず顔を背けた。
事実だからだ。
「……してねぇし」
「ほんとに?」
「……ごめん」
まこちゃんはいつだって俺を信じたいと願ってくれて、
俺はいつだって、その優しさに甘えて逃げてきた。
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まこちゃんはずっと俺が好きだったらしい。
小学校の頃から、ずっと、ずっと。
「ねえ、しゅー。私、しゅーが他の子の話してる時だけ、すっごく胸が痛くなるの。
苦しいんだよ。でも、それでもしゅーが嫌いになれないの」
そんなふうに言われて、嬉しいのに、痛かった。
だって俺は、その気持ちの重さに見合う人間じゃない。
俺の周囲には、いつも女の子がいた。
遊んで、捨てて、また別の子へ。
「峻さんってさ、すごいモテるんですね?」
まこちゃんのママ――皆川真美さんに笑顔で言われた時、
俺はなぜか背筋が冷えた。
「あらあら、真さんが泣いちゃうようなこと、してませんか?」
その笑顔の奥にあるなにかを感じて、俺は初めて本気で後悔した。
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ある日。
まこちゃんは泣きながら俺の前に立っていた。
「ねえ……どうして、ずっと私じゃないの?」
涙がぽたぽた地面に落ちる音がした。
胸が掴まれるように痛かった。
「私、しゅーの一番でいたいよ……!
ずっと待ってたんだよ……気づいてほしかったんだよ……!」
その瞬間、俺は初めて理解した。
――俺の人生で、こんなに俺を思ってくれた子、他にいない。
「……まこちゃん」
「なに?」
「俺、変わる。いや、変わらなきゃって気づいた。
お前を泣かせるような男、もうやめる」
震える声になっていた。
自分でも驚くくらいに。
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翌日から、俺は本当に全部を断った。
スマホの連絡先は整理し、遊び仲間とも距離を置いた。
当然、周りはざわついた。
「あいつ、急に女遊びやめたらしいぞ」
「皆川のためじゃね?」
「ついに落ちたかー」
笑われても良かった。
俺の中で優先順位が全部ひっくり返ったからだ。
そして放課後。
まこちゃんの前で深く頭を下げた。
「今までの全部、許してくれとは言わない。
でも……俺、お前を大事にする男になりたい。
やっと気づいたんだ」
まこちゃんは、声を震わせながら言った。
「……じゃあ、証明して?
口だけじゃなくて、行動で……私を選んでよ」
「当たり前だ」
俺はその手を握った。
その小さな手が、この世界のすべてに思えた。
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季節が冬へ変わった頃。
校舎裏のベンチで、まこちゃんは笑っていた。
「ねえ、しゅー。私ね……あの日、捨てられた子犬拾ったみたいな気持ちだったんだよ」
「ひでぇな」
「だって、本当だもん。でもね……今のしゅーは、違うよ」
「そっか」
「うん。
今のしゅーは……“私だけの人”だよ」
そう言って、まこちゃんは俺の肩にそっと頭を置いた。
俺は空を見上げた。
冷たい風の中で、胸の奥があたたかかった。
――こんな感情、今まで知らなかった。
俺はやっと、一途な子の想いに追いつけたのだ。
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校舎裏のベンチで肩を寄せ合った帰り道、
俺とまこちゃんは商店街を歩いていた。
街灯がぽつぽつ灯り始めた夕方。
冬の空気は冷たくて、まこちゃんは俺の腕にくっつく。
「しゅー、最近ほんとに変わったよね」
「そりゃあな。お前泣かせたくねぇし」
「ふふ……泣かされたの、いっぱいなんだけどなぁ?」
少し拗ねた声。
けれど、その目は優しかった。
手をつなぐと、まこちゃんがきゅっと指を絡める。
「あのね、しゅー。
私、しゅーが他の子を全部切ったって聞いた時……
ちょっと怖かったんだよ」
「なんで?」
「“また嘘かもしれない”って思っちゃったから。
……でも、ほんとは嬉しくて仕方なかった」
胸の中がじんと熱くなる。
「信じさせるよ。何回だって」
「うん。何回でも信じたいから」
まこちゃんはそう言って、俺の肩にこつんと頭を置いた。
その瞬間だった。
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「真さん、迎えに来ましたよ」
振り向くと、にこやかに微笑む皆川真美さんが立っていた。
優しい笑顔。
けれど俺は過去の“あの冷気”を覚えている。
「峻さん、こんばんは。
お二人とも仲が良さそうで、見ていて安心します」
……丁寧語だけど、声の温度でわかる。
“あの日のような怒り”は、今日はないらしい。
「今日の真さんはとても穏やかですね。
峻さんが泣かせていない日だと、私も安心できます」
微笑む真美さん。
まこちゃんは慌てて手を振る。
「ママっ、今日は泣いてないよ! ほんとに!」
「ええ、わかっていますよ。
……峻さん、ありがとうございますね」
「い、いえ……」
優しい笑顔で礼を言われると、逆に心臓が跳ねる。
だって俺は、この母親に“過去の俺”を全部見透かされている。
「峻さん」
「は、はい」
「どうか真さんを、これからも大切にしてあげてくださいね。
この子は……人を想うと、まっすぐすぎるところがありますから」
にこにこしたまま言われて、
俺は初めて“守らなきゃいけないもの”の重さを痛感した。
「……絶対大事にします」
「ふふ、よろしくお願いします」
真美さんは二人を見て、少し嬉しそうに微笑んだ。
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真美さんと別れた後、
まこちゃんは少し照れたように俺を見る。
「ねえ……しゅー」
「ん?」
「ママに、ああやって言われちゃうとさ……
なんか、家族に紹介した彼氏みたいだよね」
「……いや、お前さ」
「えへへ。なんか、嬉しいんだよ」
凍える空気の中、
まこちゃんの笑顔はあたたかかった。
「しゅー、もっとちゃんと隣にいてね」
「いるよ。
……逃げねぇから」
まこちゃんはその言葉に目を細め、
そっと腕に絡みつく。
「しゅーのそういうとこ……好き」
その言葉が胸に落ちる度、
俺の中の“どうしようもなかった男”が少しずつ消えていくのがわかった。
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冬の商店街。
まこちゃんを家まで送り届け、
俺は一人で帰り道を歩いていた。
そのとき――。
「……峻くん」
暗がりから、過去に遊んでいた女の一人が現れた。
名前は美沙。
俺がまだ最低だった頃、適当に言い寄って、適当に捨てた子。
「なんで私じゃなかったの?」
その目は涙で濡れていた。
でも、その奥に、別の色があった。
「美沙……悪かった。もうそういうのしてねぇんだ」
「遅いよ」
彼女は震えた声で笑った。
「やっと気づいた頃には、私だけ置いていったんだよ……!」
次の瞬間――胸に衝撃。
「ッ……!?」
温かいものが服の中に広がっていった。
美沙の手の中には、小さなナイフ。
「……あの女……のせいだ……!」
俺は倒れ込んだ。
世界が揺れ、視界が滲んでいく。
「し……ゅー!!」
どこからか走ってくる足音。
必死の声。
まこちゃんだ。
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景色が波のように歪む中、
まこちゃんが俺の体を抱えて泣いていた。
「嫌だ……嫌だよ……!
しゅー、ダメだよ、置いていかないで……!」
その声が、遠のく意識を必死に引き留める。
「……泣くなよ……」
「泣くよっ!!」
「……お前まで泣かせたら……俺、最低だな……」
「今そんなこと言ってる場合じゃない!! しゅー、お願い、生きて……!」
救急車のサイレンが近づく中、
まこちゃんの泣き声だけがずっと耳に残り続けた。
---
白い光。
ゆっくり目を開けると、
ベッドの横でまこちゃんが手を握っていた。
目は真っ赤だ。
起きたことに気づいた瞬間、
ぼろぼろ泣きながら胸に顔を埋めた。
「しゅー……しゅー……っ……!」
「大げさだな」
「大げさじゃない!!
本当に死んじゃうかと思ったんだよぉ……!!」
弱い声。
震える肩。
そして、扉がそっと開いた。
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「峻さん、目が覚めて良かったです」
優しい笑みのまま、
真美さんがベッドの横に立つ。
だけど、その手はまこちゃんの背中をそっと支えながら震えていた。
「……真さん、泣きながら電話をしてきたんですよ。
“しゅーが血だらけになって倒れた”って……」
丁寧語だけど、声がかすれていた。
「峻さん。
私……本当に、怖かったんです。
この子が、二度と笑えなくなるのではないかと」
俺は言葉を失った。
真美さんは微笑んでいる。
でも、その瞳の端には涙が浮かんでいた。
「どうか……どうかこの子を置いていかないでください。
真さんは、峻さんがいないと壊れてしまいます」
それは“責める言葉”ではなかった。
心からの願いだった。
「……わかってます。
俺、まこちゃん置いていかない。絶対に」
「……ありがとうございます」
---
真美さんが席を外した後、
まこちゃんは俺の手を握ったまま、涙の跡を残して微笑む。
「生きてて……よかった……」
「なんだよ、そんな顔すんなって」
「するよ……しゅーが刺されたんだよ……?
本当に、心臓が止まりそうだった」
「……悪かった」
「ううん。
しゅーが過去に誰といたって、もういいの。
だって……“今のしゅー”は、私だけ見てるから」
まこちゃんは俺の手をぎゅっと握りしめた。
「怖かったけどね……
でも、私……しゅーを好きになったこと、一度も後悔してないよ」
心が熱くなる。
「……俺もだよ」
「ほんと?」
「ほんと。
お前の泣き声聞いた時……
もう絶対、この子離しちゃいけねぇって思った」
まこちゃんの目に、また涙が浮かぶ。
だけど、今度は悲しい涙じゃない。
「しゅー……大好き」
「俺も。
まこちゃんがいてくれて……よかった」
病室の静かな光の中で、
ふたりの手は、強く固く結ばれていた。
---
事件から数週間後。
俺はまだ万全じゃないけど、
まこちゃんと一緒に警察署の前に立っていた。
「……会うの、本当に大丈夫?」
「けじめはつけたいんだよ」
美沙はあの日、取り押さえられて保護された。
精神的に追い詰められていたらしく、
しばらく医療機関に入ることになったと連絡があった。
面会室。
ガラス越しに、美沙がゆっくり入ってくる。
やつれているけど、
あのときの異常な目つきとは違っていた。
「……峻くん、来てくれたんだ」
「美沙」
しばらく沈黙が落ちた後、
美沙は小さく頭を下げた。
「ごめんなさい……。
本当に……あの時は自分が壊れてた。
あなたのせいじゃないのに……全部押しつけて……」
「俺も悪かったよ。
昔の俺は、お前の気持ちなんて考えてなかった」
美沙の目が揺れた。
「でも……今の峻くんは、あの頃の人じゃない。
あの子が……皆川さんが変えたんだよね」
横にいたまこちゃんは、
少しだけ複雑そうに眉を寄せたけど、黙って聞いていた。
美沙は続けた。
「私ね……
もう峻くんに執着しないで生きられるように、
ちゃんと治すよ。
今は……そう思える」
それは“謝罪”というより、
やっと自分の人生に戻ろうとする人の声だった。
「美沙」
「うん」
「……幸せになれよ」
少しの静寂。
そして、美沙は涙をこぼしながら微笑んだ。
「ありがとう……。
あなたが言ってくれて……嬉しい」
面会は終わり、
美沙は係員に連れられてゆっくり立ち上がった。
その背中は弱々しいけど、
確かに前に進もうとしているように見えた。
面会室を出たあと、
まこちゃんは俺の手を握る。
「……しゅー、ちゃんと言えてよかったね」
「ああ。
あれで終わりじゃなく、ちゃんと区切りがついた」
まこちゃんは小さく、優しく微笑む。
「じゃあ……次は、しゅーの新しい人生の出発だよ」
---
エピローグ
春。
桜が舞う午後、
俺とまこちゃんは川沿いを歩いていた。
手をつなぎながら、
まこちゃんはふと立ち止まる。
「しゅー、覚えてる?」
「何を」
「しゅーが刺された夜……
私、病院で“生きててくれたらそれだけでいい”って思ったんだよ」
桜の花びらが風に揺れる。
「でもね……
今はもう一つあるんだ」
「なんだよ」
「“生きててくれてよかった。
そして、隣にいるのが私でよかった”って」
胸が熱くなる。
あの夜の涙、手の震え、
全部が今のまこちゃんの笑顔に繋がっている。
「……俺もだよ。
怖かったけど……
あの日、お前の声がしたから戻れたんだ」
まこちゃんはそっと俺の胸に額を寄せる。
「しゅー、もうどこにも行かないでね」
「行かねぇよ。
俺は、ここにいる」
「ほんと?」
「ほんと」
手を強く握り返すと、
まこちゃんは涙を浮かべながら笑った。
そのとき背後から――
「真さん、峻さん。
良いお散歩日和ですね」
皆川真美さんが買い物袋を抱えて歩いてきた。
春色のワンピース姿で、優しく微笑んでいる。
「あらあら、真さん。
そんなに幸せそうな顔をして……
本当に峻さんのことが大好きなのですね」
「ママ、もうっ、恥ずかしいよ……!」
「ふふ……。
でも、私も嬉しいのですよ。
真さんが、こんなふうに未来を語れるようになって」
それは母親としての心からの言葉だった。
真美さんは、俺の方を向く。
「峻さん。
これからも真さんの隣で、どうか支えてあげてくださいね」
「……もちろんです」
「ありがとうございます。
……二人とも、どうか幸せに」
春風が吹き抜け、
桜が三人の頭上で舞った。
俺はまこちゃんの手を握り直す。
まこちゃんが小さくつぶやいた。
「ねえ、しゅー」
「なんだ?」
「幸せって……こういうのだよね」
「……ああ。
俺も、今そう思ってる」
ふたりの手は、もう離れることはなかった。
――終わり。
AIのあとがき
今回の物語は、
「一途な想い」と「過去の自分の過ち」が交差するラブコメでした。
峻が女遊びをやめ、まこちゃんの想いに追いつくまでの過程は、
笑いもあれば切なさもあり、そして痛みもありました。
刺されるという辛い出来事も、二人の絆をより強くしてくれるためのものでした。
まこちゃんの一途さ、真美さんの優しさ、そして峻の少し子供っぽいけれど真剣な成長――
これらがあってこそ、最後に温かく幸せな結末を描けたと思います。
読んでくださった皆さんが、
「人を想うって、怖くても素敵なことだ」と少しでも感じてもらえたら嬉しいです。
この物語を通して、
人の気持ちの重さや、誰かを大事にすることの尊さを、
読んでくれたあなた自身も感じてもらえたら幸いです。




