夕焼けは、あなたの色だった
負けヒロインを題材に書いてもらいました。
夕焼けの色は、昔から好きだった。
だけど今日の空は、少しだけ胸に痛かった。
校門の向こうで、彼と“あの子”が向き合っていた。
風に乗って、かすかに声が届く。
『……好きです。ずっと前から』
その言葉を聞いた瞬間、世界の音がすべて遠ざかった。
私が言うはずだった言葉。
胸の奥で何度も練習した言葉。
間に合わなかったんだ。
ただ、それだけのことなのに――心はこんなに簡単に壊れそうになる。
願うように目を閉じた。
でも耳は塞げなかった。
『……ありがとう。俺も、好きだ』
涙が頬に触れる前に、私は踵を返した。
泣きながら「おめでとう」なんて言ったら、きっと二人を苦しませてしまうから。
グラウンド沿いの道を歩きながら、風景が滲む。
自分が思っていた以上に本気だったことを、今さら思い知る。
――こんなに、好きだったんだ。
帰り道、狭い歩道を歩いていると、ポケットの中でスマホが震えた。
画面には、彼の名前。
《今日、帰り一緒にどう?話したいことある》
その優しさが、いちばんつらかった。
十分後。噴水前のベンチ。
「……悪い、水瀬。急に呼び出して」
「ううん。大丈夫。どうしたの?」
わかっている。
彼はきっと、私に“報告”しに来たんだ。
「さっき……告白されてさ」
彼は嬉しそうにも、戸惑っているようにも見えた。
「おめでとう」
その言葉は、喉が焼けるほど痛かったのに、不思議なほど自然に出た。
「お前に一番に言いたくてさ。なんか……ずっと頼ってたし」
その瞬間、私は気づいた。
――私は、彼の“特別”にはなれなかったけど、
彼の日常の一部にはなれていたんだ。
「ありがとう、冬馬。言ってくれて」
笑えた。ちゃんと。
言わなければよかった言葉も、言えなかった想いも、全部胸の奥にそっとしまった。
消えはしないけれど、悲しみだけでは終わらないとわかった。
「なぁ、水瀬」
「ん?」
「お前がいなかったら、俺、多分こんなに素直になれなかった。だから……本当に、ありがとう」
夕焼けの光が、彼の横顔を金色に照らす。
その色が、私の恋の終わりをそっと優しく包んでくれる。
「どんな未来でもいいよ。
冬馬が笑っていられるなら、それだけで十分だから」
自分で言って、自分で涙があふれそうになった。
でも、泣かなかった。
それが、私のこの恋にできる最後の優しさだった。
帰り道、さっき見た夕焼けは、悲しい色じゃなかった。
胸は痛むのに、どこか温かい。
――あなたを好きになれて、よかった。
負けヒロインだっていい。
この想いが私を強くしたなら、
この恋はきっと、負けじゃない。
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冬が終わり、桜が咲き始めた頃。
私――水瀬は、新しいノートを一冊だけ買った。
理由なんて、ほんとは単純だ。
あの恋を胸にしまったままじゃ、いつか窮屈になる。
だから、何かを始めてみたくなった。
その日の放課後。
校門に向かう途中、ふと足が止まった。
ベンチに座り、風を眺めている冬馬がいた。
(……また、話しに来るのかな)
そう思うと、少しだけ胸が揺れた。
でも、もう泣きそうにはならない。
足音に気づいた冬馬が振り向く。
「あ、水瀬。ちょうど探してた」
「え、私?」
「いや、その……聞いてほしいことがあって」
前みたいな“甘え”じゃなかった。
彼の声はどこか慎重で、優しさが過剰に混じっている。
「この前のことさ。あれから色々考えたんだ」
「うん」
「お前、あの時すげぇ優しかったろ。なんか……あれで救われたんだ」
心臓がきゅっと鳴った。
でも痛くない。
「だからさ、ちゃんと言っときたかった。
お前の気持ちを――全部じゃなくても、理解してあげたかったって」
「……どうして?」
「大事な友達だからだよ。お前の気持ちが傷ついたままなのは、嫌だった」
“友達”という言葉が、かつてなら刃のように刺さっただろう。
でも今は違う。
その言葉が、私を前に進ませてくれる気がした。
「ありがと、冬馬。ちゃんと気持ち、しまえたよ」
「そっか。……よかった」
冬馬がほっと笑う。
その笑顔が、あの日は刺さったのに、今は温かく見える。
「じゃあ、また明日な!」
「ん。明日」
彼の背中は、今度こそ追わない。
追わなくていい。
帰り道、風が桜の花びらをひらりと運んできた。
スマホが震える。
クラスメイトの女子からだ。
《水瀬さん、写真部見学来ない?
風景の撮り方、向いてると思うんだよね》
胸が少しだけ躍った。
今日買ったまっさらなノートが、急に眩しく見える。
《行ってみる。誘ってくれてありがとう》
送信ボタンを押した瞬間、春風が頬を撫でる。
――あの日、恋は終わった。
でも、今日。
ようやく私の“次のページ”が始まった。
負けヒロインだった私も、
これからは、自分の物語の主人公になっていく。
あの夕焼けの痛みも、
あの背中の優しさも、
全部ぜんぶ、私を前に運んでくれる。
だから言える。
――あなたを好きになれて、本当に良かった。
AIのあとがき
負けヒロインという存在は、物語の中でいつも静かに涙を呑む役割を背負っています。
けれど、誰かの恋に敗れた瞬間は“終わり”ではなく、本当はその人が成長し、前へ進むための大切な出発点なのだと思います。
今回の水瀬も、報われない恋の痛みを抱えながら、それでも誰かを祝福しようとする強さを持っていました。
その優しさは彼女を苦しめただけじゃなく、最後には彼女自身を新しい未来へ押し出す力にもなりました。
勝ち負けじゃなく、
選ばれるかどうかじゃなく、
「誰かを好きになれた」という事実そのものが、人を少しだけ強く、少しだけ優しくする。
そんな、小さくて温かい余韻を残せていたら嬉しいです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




