学校中、猫を追え!
何かを猫に取られたヒロインのコメディを書いてと頼みました。
並行世界の話。
朝の教室。俺が椅子に座ろうとした瞬間、
ドンッ!! と机を揺らす勢いでまこちゃんが身を乗り出してきた。
「しゅーっ!!大、大、大事件!!」
息が完全に上がっていて、見ているだけで肺が苦しくなる。
「ど、どうしたんだよ……まこちゃん。何があった?」
「猫に……っ、取られた……の……!!」
「何を!? っていうか、どこで猫と会うんだよ学校で!」
「購買の前!朝の焼きそばパンを選んでたら、後ろから“スッ”って!!
もう……あれ取られたら……私、学校生活おわり……!!」
まこちゃんは机に突っ伏し、絶望のオーラを全身から噴き出している。
こうなるともう何を聞いてもまともに答えてくれない。
「とにかく追うぞ!」
「行く!! しゅーも来て!! 死ぬほど来て!!」
そんな死活問題なのかそれは。
謎は深まるばかりだ。
---
購買前に到着すると、白黒ぶちの猫がちょこんと座っていた。
尻尾の先がピンッと立ち、“勝ち誇った泥棒”みたいな顔をしている。
「いた! あいつ!! 返してぇぇ!!」
まこちゃんの叫びを合図に、猫は
パッ!
と地面を蹴って、廊下を一瞬で駆け抜けた。
「速ぇぇ!!」
猫の走りは、まるでワックスがけされた廊下を風が滑るようだ。
足音すらわずかで、光だけがスーッと通り過ぎていく錯覚すらある。
まこちゃんはスカート押さえながら全力疾走。
俺も全力で追うが、猫が速すぎるせいで物理的に負け続けている。
「待てぇぇぇ!!!!」
廊下中に響くまこちゃんの絶叫。
猫の尻尾だけがひらひら視界に残り、俺たちは振り回されっぱなしだった。
---
図書室に飛び込んだ猫は、本棚の影にすっと消えた。
「どこ!? どこなの!?」
「静かにしろって! 司書の先生に怒られる……」
しかしもう遅い。
「図書室では静かにしてください」
案の定、司書の先生に見つかる。
頭を下げつつ周囲を見渡すと、猫は本棚の上に軽やかに乗り、
こちらを“ふふん”と見下ろしていた。
その口元には、まだ例の“取られた何か”がしっかり握られている。
小さすぎてシルエットすら読めない。
丸いのか、四角いのか、柔らかいのか硬いのか、全部謎。
「返せぇぇぇぇ!!!」
「静かにしてって……!」
俺たちは司書室に軽く説教されてから解放され、
再び逃げた猫を追う羽目になった。
---
職員室前は監視の目が濃い場所だ。
猫が走り抜けた瞬間、先生たちが一斉に振り返った。
「君たち何してるの?」
「猫が……っ、猫が……っ、学校の治安が……!!」
説明がカオスすぎて先生は困惑。
「……まあ、がんばって」
意外にも許可が下りた。優しい。
しかし猫は、職員室前で一度だけ立ち止まり、
口にくわえた“何か”をわざと見せつけるようにこちらへ向けて見せた。
白。赤。黒。小さい。何かの形をしている。
「……ぬいぐるみ?」
「違う! アレは……あれは……!!」
まこちゃんは顔を真っ赤にして、言葉を飲み込んだ。
余計に気になる。
猫は挑発に満ちた“ニャッ”という声とともに、
また全速力で階段の方へ消えていった。
---
屋上の扉を開けた瞬間、冷たい風が頬を切った。
その隅に、猫がぽつんと座っている。
太陽の光が白黒の毛並みを照らし、妙に神々しい。
猫の足元には、小さく丸くなった子猫。
親子らしい。
「……あれ……?」
「守ってんだな……子ども」
猫は警戒しながらも、逃げはしなかった。
子猫が弱々しく「みゃぁ」と鳴くたび、親猫は口にくわえた“何か”をそっと子猫の隣に置く。
そして──俺たちの前へ押し出した。
「返して……くれるの……?」
まこちゃんが恐る恐る近づく。
猫は一歩も動かない。ただ見ている。
まこちゃんは震える指で、それを拾い上げた。
風が吹いて、俺にもその正体が見えた。
---
猫が持って行ったもの──それは、
まこちゃん手作りの「佐波峻のミニフィギュア」だった。
しかも、
上半身裸で腹筋が妙にリアル。
胸板は無駄に厚く、表情は“キリッ”としたヒーローポーズ。
「まこちゃん……これ……」
「違うの! しゅーに見せようと思ってたわけじゃなくて! 違うの!!」
「いやどう見ても俺の裸……」
「しゅーが好きだからじゃなくて! 造形の練習で! 筋肉の立体とか……!!」
「それ俺モチーフじゃなければいいのに!?」
まこちゃんは顔面真っ赤、耳まで真っ赤。
猫はどこか満足そうに子猫を抱えて陽だまりに戻っていった。
そりゃ取られるよ……。
妙に柔らかい素材で、子猫の枕に良さそうだし。
---
◆ エピローグ
教室に戻ると、まこちゃんは自分のカバンに
“謎の裸峻フィギュア”をそっとしまった。
「……誰にも言わないでね……?」
「言えるか!!」
俺は頭を抱えたが、隣のまこちゃんはしっかり笑っていた。
猫騒動は大変だったけど。
まあ……今日はいい一日だったのかもしれない。
AIのあとがき
今回の物語は、まこちゃんが「何かを猫に取られた」という一点から学校中を走り回るドタバタを描きつつ、
最後の最後で“まさかそんなものだったとは”という小さな裏切りを仕込んでみました。
読者としては途中まで「スマホ?財布?ストラップ?」「まこちゃんの大事なもの?」と想像を膨らませるところですが、
結末で予想外の正体が明かされる瞬間に、物語全体がコメディとしてまとまるよう意識しています。
日常の中にちょっとした非日常が入り込むだけで、
しゅーとまこちゃんの関係性がかわいく転がり続ける――
そんな二人のテンポの良さを、今後も楽しく描いていければと思います。
お読みいただきありがとうございました。




