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ゾンビ・ラブ・サバイバル

ゾンビの世界でバカップルな主人公とヒロインの二人で生き残る。ラブラブしながら。

と指示してみました。


ヘルズゲートの並行世界です。



 街はすでに崩壊していた。

 ビルの窓は割れ、道路には放置された車が並び、時折ゾンビの呻き声が遠くから響いてくる。


 そんな中――。


「まこちゃん、こっちだ!」


 俺は手を引いて走る。


「しゅー、待って! 私の足短いんだからぁ!」


 息を切らしながらも、まこちゃんはついてくる。その赤いアンダーフレームの眼鏡が、夕陽を反射して光った。


 背後で、ゾンビが数体こちらに迫ってきていた。だが俺は振り返り、ニヤリと笑う。


「ゾンビより速く、俺の心臓がドキドキしてるんだが?」


「バカ! そんなこと言ってる場合じゃ――」


 そう言いながらも、まこちゃんは耳まで真っ赤になっている。

 廃ビルに飛び込み、扉を閉める。ゾンビの手がドンドンと叩きつけられるが、とりあえずはしのげた。


 二人して息を整え、暗い部屋の中に腰を下ろす。


「……怖いね」


 まこちゃんが小さな声で呟く。


「大丈夫。俺がいる」


 俺は彼女の肩を抱き寄せる。


「しゅー……」


 その瞳が潤む。


 しんと静まり返った中で、かすかに聞こえるのはお互いの心臓の音。

 外ではゾンビが暴れているというのに、ここだけは別世界みたいに甘い。


「でもね」


 まこちゃんがクスッと笑う。


「ゾンビだらけの世界なのに、しゅーと一緒だと修学旅行みたいに楽しいんだよね」


「俺も。まこちゃんが隣にいるだけで、終末でもデート気分だ」


「……ほんとにバカップルだね、私たち」


 笑い合う二人。


 その直後、ドンッと天井から大きな音がした。思わず身構える俺。

 だが、まこちゃんは唐突に俺の頬にキスをしてきた。


「えっ!?」


「だって、怖いんだもん。今のうちにいっぱいドキドキしたいから」


 俺は呆れながらも、彼女を抱きしめ返す。


「よし、ゾンビが来てもキスで撃退するか」


「できるわけないでしょ!」


 二人の笑い声が、崩壊した世界に小さく響いた。








 夜。


 廃工場の一角に作った小さな焚き火の前で、俺とまこちゃんは寄り添っていた。


「……これしか見つからなかったけど」


 俺は缶詰を開ける。中身は水煮の豆。


「ふふっ。サバイバルって感じ!」


 まこちゃんはスプーンを受け取り、一口食べる。


「……うん。味気ないけど、しゅーと食べればご馳走だよ」


「おいおい、またそんなこと言って……俺をドキドキさせてどうするんだ」


「だって本当だもん」


 彼女はくすぐったそうに笑い、俺の肩にもたれた。


 工場の窓の外では、ゾンビが数体よろよろと歩いている。

 だけど、この小さな空間だけは温かかった。


「なぁ、まこちゃん」


「なに?」


「明日さ、郊外のショッピングモールを探ってみようと思う。食料も武器もあるかもしれない」


「わかった! でも……」


 まこちゃんは俺をじっと見上げる。


「約束して。絶対に私を置いていかないで」


「当たり前だ。俺はまこちゃんといなきゃ意味がない」


「……」


 まこちゃんは一瞬黙り込み、それから勢いよく俺に抱きついた。


「しゅー大好き! ゾンビよりもしゅーに食べられちゃいたいくらい!」


「いやいやいや、比喩が物騒すぎ!」


 俺は慌てて笑う。


 二人で笑い転げたあと、彼女は焚き火の明かりに照らされて、小さく囁いた。


「でも……こんな世界なのに、こんなに笑えるなんて、私たちって不思議だね」


「不思議じゃないさ。俺たちがバカップルだから」


 その言葉に、まこちゃんの眼鏡の奥の瞳がとろんと潤む。

 ゾンビが世界を覆っても、俺たちだけはきっと笑って生き残れる。









 翌日。


 俺とまちゃんは、郊外に残された巨大なショッピングモールの前に立っていた。


「うわぁ……。しゅー、まだ看板残ってるよ! “グランドセール開催中”って」


 まこちゃんが指を差して笑う。


「セールはセールでも、今はゾンビ大放出中だな」


 俺はため息をつきながらショットガンを構える。


 モールのガラス扉は割れ、内部からは低いうめき声が響いてきた。

 暗い館内。影のようにゾンビがうごめいている。


「いくぞ、まこちゃん」


「うん!」


 突入。

 最初に飛び出してきたのは制服姿のゾンビ店員。俺は迷わず一撃で吹き飛ばす。


「きゃーっ、サービス悪いっ!」


 まこちゃんが冗談を言いながら、拾った鉄パイプでゾンビの頭を叩き割る。


「まこちゃん、意外と強いな」


「だってしゅーの彼女だもん。守られてばかりじゃイヤだし」


 ドヤ顔で言う彼女に、俺はつい笑ってしまう。


 その瞬間、二階からドサッとゾンビが落ちてきた。


「まこちゃん、危ない!」


 俺は彼女を抱きかかえ、床に転がりながら避ける。


「ひゃあっ……!」


 彼女は俺の胸にしがみつき、真っ赤な顔で見上げる。


「も、もう……ゾンビよりしゅーにドキドキしてどうするのよ!」


「こっちも心臓止まるかと思ったぞ」


 俺は彼女の頬に軽くキスして、立ち上がった。


 ゾンビを蹴散らしながら進み、俺たちは食料品売り場にたどり着く。棚にはまだ缶詰や乾燥食品が残っていた。


「わぁ! これでしばらくご飯に困らないね!」


 まこちゃんは嬉しそうに両手いっぱいに食料を抱える。


「……なぁ、もし世界が普通に戻ったら、ここでデートして買い物したかったな」


 俺がぽつりと言うと、まこちゃんはくるりと振り向き、微笑んだ。


「じゃあ約束ね。ゾンビがいなくなったら、しゅーと一緒にショッピングカート押してデートするの」


「ああ、絶対に」


 二人で笑い合った瞬間――背後から再びゾンビの群れが迫る。


「逃げろ!」


「はーい! お買い上げありがとうございましたーっ!」


 まこちゃんは叫びながら俺の手を取る。


 崩壊した世界でも、手を繋いで走り抜ければ、まるで遊園地のアトラクションみたいに楽しい。

 俺たちはゾンビの群れをすり抜け、笑い声を響かせながらモールを駆け抜けていった。








 モールから命からがら逃げ出した俺たちは、廃工場の拠点へと戻った。

 袋いっぱいの食料を床に広げ、二人してニヤニヤしながら戦利品を確認する。


「じゃじゃーん! インスタントラーメン発見!」


 まこちゃんが得意げに掲げる。


「おおっ、文明の味じゃないか!」


 俺は思わず拍手する。


「こっちは缶詰のフルーツ! しかも桃!」


「マジか!? 王侯貴族のデザートだぞ!」


 二人で大袈裟に騒ぎながら、焚き火の上で鍋を温める。

 ラーメンの香りが立ち上ると、途端にお腹がぐぅっと鳴った。


「ねぇしゅー」


 まこちゃんが少し照れながら、両手で鍋を抱えるようにして座り込む。


「こんな終末なのに、二人でご飯食べるのが……幸せって思っちゃうの、変かな」


「全然変じゃない。むしろ俺もそう思ってる」


 俺は笑い、彼女の頭をポンポンと撫でる。


「どんな世界だろうと、まこちゃんと一緒に食う飯が一番うまい」


「……ずるい。そう言われると涙出ちゃう」


 眼鏡の奥の瞳が潤んで、彼女はくすっと笑う。


 ラーメンをすすり、桃の缶詰を半分こして食べる。

 甘酸っぱい果汁が舌に広がると、思わず二人して同時に言った。


「……生きててよかった!」


 顔を見合わせ、吹き出す。


 食後、焚き火の明かりの中で寄り添う。

 外ではゾンビの呻き声が相変わらず響いていたが、この瞬間だけは心地よい静寂に包まれていた。


「ねぇ、しゅー」


「ん?」


「……明日も一緒に、ご飯食べようね」


「もちろん。これから先、毎日ずっとな」


 俺たちは指切りを交わし、そっと唇を重ねた。

 ゾンビの世界でも、二人の時間は甘くて幸せだった。









 深夜。

 廃工場の拠点に、不気味な地響きが伝わってきた。


「……しゅー、なにか聞こえる」


 まこちゃんが俺の袖をぎゅっと掴む。


 次の瞬間、壁の外から無数の呻き声が重なり合った。

 窓から覗くと、ゾンビの群れが波のように押し寄せてきていた。


「……大群だ」


「ひゃっ……!」


 俺はショットガンを構え、まこちゃんは鉄パイプを手に取る。


「まこちゃん、後ろに下がってろ!」


「いやだ! 一緒に戦う!」


 彼女の瞳は揺れていない。

 俺は一瞬迷ったが、すぐにうなずいた。


「わかった。絶対に離れるな」


 壁が破られ、ゾンビが雪崩れ込む。

 俺はショットガンをぶっ放し、まこちゃんは渾身の力でパイプを振り下ろした。


「どりゃあああ!」


 鈍い音と共にゾンビが崩れ落ちる。


「ナイスだ、まこちゃん!」


「へへっ、しゅーの隣だと勇気出るんだ!」


 しかし次から次へと押し寄せる大群。

 汗と血の匂いに混じって、まこちゃんの髪の香りがかすかに漂う。

 俺は必死に銃を撃ちながら、心臓が別の意味で高鳴っていた。


 やがて弾が切れ、俺は背中を壁に預けた。


「……くそっ、もう弾が……!」


「大丈夫!」


 まこちゃんが俺の前に立ちふさがり、パイプを構える。


「私が守るから!」


「バカ、俺が守るんだ!」


 俺は彼女を抱き寄せ、同時に近づいたゾンビを蹴り飛ばす。


 二人で背中を合わせ、必死に戦った。

 汗まみれになり、息も絶え絶えになりながら、互いに笑みを浮かべていた。


「しゅー……」


「なんだよ」


「こんなに必死なのに、なんで楽しいんだろ」


「俺もだ……! やっぱり俺たち、バカップルだからな!」


 ゾンビを最後の一体まで蹴散らした時、辺りは死体の山と静寂に包まれていた。

 二人して崩れ落ち、肩で息をしながらも、顔を見合わせて笑う。


「生き残ったね……」


「……ああ。やっぱり俺とまこちゃん、最強だ」


 疲れ切ったはずなのに、彼女は俺の胸に顔を埋め、囁いた。


「しゅー、大好き。こんな世界でも……一緒なら笑える」


 俺は彼女の頭を優しく撫で、静かに唇を重ねた。

 ゾンビに囲まれた終末の夜でも、俺たちだけは生きることを楽しんでいた。








 戦いが終わった工場の一角。

 床にはゾンビの死体が転がり、壁もあちこち崩れていた。だが焚き火を囲む場所だけは、不思議と穏やかな空気が流れていた。


 俺とまこちゃんは並んで腰を下ろし、黙って夜空を見上げる。

 雲の切れ間から、星がいくつも顔を出していた。


「……綺麗だね」


 まこちゃんが呟く。


「ゾンビばっかりの世界なのに、空はちゃんと輝いてる」


「そうだな。星は何も変わってない」


 俺はそっと彼女の肩を抱き寄せた。


 しばらく沈黙が流れ、やがてまこちゃんは俺の胸に頭を預ける。


「ねぇ、しゅー」


「ん?」


「……もし明日死んじゃったらって、ふと思っちゃった」


「おいおい、縁起でもないこと言うなよ」


「ふふっ、ごめん。でもね……」


 彼女は小さく笑いながら俺の胸をぎゅっと掴む。


「一緒にいる今が幸せすぎて、ちょっと怖くなったの」


「……バカ」


 俺は彼女の髪を撫でる。


「明日どうなるかなんてわからないけど、俺は絶対にまこちゃんを守る。だから安心しろ」


「……ありがと。やっぱり私たち、バカップルだね」


 眼鏡の奥の瞳が潤んで、火の光に揺れた。


 俺は彼女の顔をそっと持ち上げ、唇を重ねる。

 短いキスのはずが、互いに離れられなくて、長く深いものになった。


 唇を離すと、まこちゃんは真っ赤になって笑った。


「ゾンビに囲まれてるのに……なんでこんなにドキドキするんだろ」


「ゾンビが来ても関係ない。俺たちだけは、どんな世界でも甘々でいいんだ」


 彼女は小さく「うん」と答え、俺の腕の中で目を閉じた。

 焚き火のはぜる音と、彼女の寝息。

 それだけで、崩壊した世界の夜は、何よりも優しいものになった。









 翌朝。

 俺が荷物をまとめていると、背後で突然ガシャーン!と音がした。


「まこちゃん!?」


 振り返ると、壊れた窓からゾンビが数体雪崩れ込んでくる。

 その一体が、まこちゃんに飛びかかっていた。


「っ!!」


 俺が叫ぶ間もなく、牙が彼女の肩に食い込んだ。


「いやあああっ!」


 必死でゾンビを撃ち抜き、まこちゃんを抱きかかえる。

 だがすでに肩口から血が流れ落ち、彼女の顔色は青ざめていた。


「しゅー……ごめん、私……」


「言うな! 助ける方法を……!」


 必死に縋る俺を見て、彼女は小さく笑った。


「大好きだよ……」


 数分後。

 彼女の体は痙攣し、目が白濁し、低い唸り声をあげ始めた。


「……まこ、ちゃん……」


 ゾンビになったまこちゃんが俺に手を伸ばす。

 噛みつこうとしているのに、俺の胸はなぜかドキドキが止まらない。


「……あれ? ゾンビになっても、可愛いじゃねぇか」


 自分でも信じられない言葉が口をついて出た。

 彼女の乱れた髪も、赤い眼鏡も、少し青白い唇さえ愛しく見えた。


「ぐるる……」


 ゾンビまこちゃんは俺の頬に噛みつこうと顔を近づける。


「……キスか? いいぜ」


 俺は目を閉じて、その唇を受け止めた。


 甘いのか苦いのか、もうわからない感覚。

 だが確かに、彼女の温もりはまだそこにあった。


「まこちゃん……ゾンビでも、俺は愛してる。どんな姿でも、俺の彼女だ」


「……ぁ……しゅー……」


 一瞬だけ、彼女の目に理性の光が戻った気がした。

 ゾンビの呻き声に混じって、俺の名前を呼んだのだ。


 俺は彼女の手を強く握り返し、泣き笑いになりながら叫ぶ。


「ゾンビでもバカップルでいいじゃねぇか! このままラブラブしてやる!」


 崩壊した世界で、人間とゾンビの奇妙な愛が始まろうとしていた。







 それから数日。

 ゾンビ化したまこちゃんと、俺は廃ビルの一室で暮らしていた。


「ぐるる……あぁ……」


 まこちゃんは、時折ゾンビらしく呻きながら俺に噛みつこうとする。

 だがそのたびに俺は彼女の額にチュッとキスする。


「はい、落ち着いて。噛みつく代わりに、キスで我慢な」


「……しゅー……」


 白濁しかけた瞳に、一瞬だけ理性の光が戻る。

 その時のまこちゃんは、確かに“俺の彼女”の顔をしていた。


 食料を探すのもひと苦労だ。

 俺は人間用の缶詰を食べ、まこちゃんには――ゾンビ用(?)として獲物の肉を少し与える。

 最初は怖かったが、不思議と彼女は「ただの食欲」で動いているわけじゃないと感じた。


「おい、まこちゃん。これ、俺の腕は食料じゃないからな」


「……しゅー、だいすき……」


 そう言って抱きついてくる彼女。

 噛みつかれるかとヒヤヒヤするが、代わりに首元に頬をすり寄せてきた。


「……ゾンビでも可愛いって、どういうことだよ俺」


 思わず笑いながら、彼女の背中を撫でる。




 夜。

 外からゾンビの群れが聞こえても、俺たちは焚き火を囲んで寄り添っていた。

 彼女は言葉にならない声で「ぐるる……」と唸る。

 だけど俺にはそれが「しゅー、すき」と聞こえる。


「なぁ、まこちゃん」


「……ん……」


「ゾンビだろうがなんだろうが、俺たちはバカップルでいようぜ」


 彼女はゆっくりと笑ったように見え、唇を近づけてきた。

 ぎこちない、でも温かいキス。


 崩壊した世界。

 人とゾンビの境界を越えて、俺たちは今も一緒に生きている。






 ある日。

 俺とゾンビになったまこちゃんは、崩壊した街の中を仲良く散歩していた。


「ぐるる……」


「え? 手を繋ぎたいのか? よしよし」


 俺はまこちゃんの手を取る。冷たいのに、やっぱり心地いい。


 その姿を見て、隠れていた生存者のグループが一斉に顔を引きつらせた。


「お、おい……あいつ、ゾンビと手ぇ繋いで歩いてるぞ」


「えっ、えぇ……!? 襲われてないの!?」


「むしろラブラブに見えるんだが……」


 俺は気づかず、彼女の赤いアンダーフレームの眼鏡を直してやる。


「よし、似合ってるぞ。ゾンビ界で一番可愛い」


「ぐる……」


 まこちゃんはゾンビの声で嬉しそうに唸った。


 さらに。

 拠点に戻ってから、俺たちは並んで食事。

 俺は缶詰を食べ、まこちゃんは……ゾンビ用(?)に獲物の肉を少しかじっている。


「ぐちゃぐちゃ……」


「おーい、行儀よく食えよ、ほっぺにソース付いてるぞ」


 俺はハンカチで彼女の口元を拭く。


 ドアから覗いていた生存者が震え声で言った。


「……な、なんであんなに夫婦漫才みたいにやってんだよ」


「……もう“愛は種族を超える”とかそういう次元じゃないぞ」




 夜。

 俺とまこちゃんは焚き火のそばで寄り添う。

 彼女はゾンビらしく「ぐるる……」と唸るが、俺にはそれが愛の囁きにしか聞こえない。


「ん? 『キスしたい』って? しょうがねぇな」


 俺は唇を寄せる。


 その瞬間、背後で物音がして、例の生存者グループがまた覗いていた。


「キスしたぁあああ!?」


「もう俺、明日からアイツのこと“変態勇者”って呼ぶわ……」


 俺はにやりと笑って、まこちゃんを抱き寄せる。


「いいか、まこちゃん。ゾンビでも人間でも関係ない。俺たちはバカップルとして世界一幸せなんだ」


「ぐるる……」


 崩壊した世界。

 ゾンビと人間のカップルが、堂々と愛を叫びながら歩いていく姿に、生存者たちはただただドン引きするしかなかった。






 ある日の夜。

 俺とまこちゃんは、廃墟になったショッピングモールの裏にあるスパ施設を見つけた。

 まだ水が出る。奇跡だ。


「よし、せっかくだから一緒に入るか」


「ぐる……?」


 首をかしげるゾンビ彼女。


「いやいや、デートの延長だよ。世界がどうなろうと、俺たちはカップルなんだから!」


 浴場に入ると、湯気が立ち込め、タイルの床に足音が響く。

 まこちゃんは服を脱ぐのに少し手間取り、ゾンビらしいぎこちない動きでこちらを見てきた。


「ぐる……(見ないで……)」


「いやいやいや、俺の彼女だぞ? ゾンビだろうが何だろうが、世界一可愛いんだからな」


 彼女の頬はほんのり赤く――いや、それはゾンビ特有の血色かもしれないが、とにかく恥ずかしがっているように見えた。


 湯船に並んで入る。

 俺は肩まで湯に浸かり、隣で「ぐるる……」と呻くまこちゃんを見て笑った。


「なぁ、まこちゃん。ゾンビでも、湯に浸かると気持ちいいんだろ?」


「……しゅー……」


 彼女は俺の肩に寄りかかり、ゾンビらしからぬ甘えた声を出す。


「可愛いなぁ。……って、おい、耳かじるな! ここはリラックスするところだぞ!」


「ぐるぅ」


 俺は仕方なく、まこちゃんの背中を洗ってやる。

 冷たい肌に石鹸の泡を立てながら、優しく撫でる。


「ほら、こっちも向け」


「ぐ、ぐるる……(恥ずかしい……)」


「おー、照れてる照れてる。ゾンビでも女の子だなぁ」


 彼女は振り向きざまに、ぎこちないキスをしてきた。

 温かい湯気の中で、俺はその冷たい唇に触れる。


「ふふ……なぁ、まこちゃん」


「……ん」


「世界がどうなっても、俺にとって一番可愛いのはお前だ」


「ぐるる……」


 お風呂場に響くのは、ゾンビの唸り声と、バカップルの笑い声だった。






 夜。

 崩れかけたビルの屋上で、俺とゾンビ彼女――まこちゃんは並んで寝転んでいた。

 星がまだ生きているように瞬いている。


「ぐるる……」


「ん? 『寒い』って? おーい、ゾンビでも寒さ感じるのかよ。しょうがねぇな」


 俺はジャケットを彼女に掛け、腕を回して抱き寄せる。


 下の階では、別の生存者たちが俺たちをチラチラ見ながら噂していた。


「……なぁ、あの人、ゾンビと普通にイチャイチャしてるけど」


「うん。むしろ俺たちより幸せそうなんだが」


「なんかもう……見ちゃいけないものを見てる気がする」


 でも俺は気にしない。

 ゾンビだろうが人間だろうが、俺とまこちゃんは世界一のバカップルなんだから。


「なぁ、まこちゃん」


「……しゅー……」


「もし人類が絶滅して、俺とお前だけになっても……俺は絶対に寂しくない。だってお前がいるから」


 ゾンビの目が、ほんの一瞬だけ柔らかく揺れた。

 彼女はゆっくり俺の頬に触れる。冷たい手だけど、心は温かい。


「ぐるる……」


 唇が重なり、世界の終わりの屋上に、奇妙な静けさと甘さが満ちた。


 崩壊した世界。

 ゾンビと人間。

 常識もルールもなくなったこの時代に、俺たちはただ「好き」という気持ちだけを大事にして生きていく。


 誰に笑われても、ドン引きされても――。

 俺たちは最後までバカップルだった。


――Fin.




色々話を書いていくと次はどうしますかとこの後生存に遭うのか、食料を探すのかなど数パターンの提案を選んで描いていくスタイルですね。


途中でまことゾンビを提案したらこういった結末でした。


やっぱどんな世界でも二人はラブラブだな。

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