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君の嘘と僕の爆弾 ―Reversal Code―

三部作二作目


並行世界の話。


 雨が降っていた。

 線路の軋む音と共に、街の灯りが滲む。

 傘もささずに歩く俺は、まるで過去の残響をなぞっているようだった。

 あの駅の爆発から二か月。

 彼女――皆川真は、拘置所で静かに過ごしている。


 だが、俺は知っている。

 あの女は、今も“勝負の続き”を待っている。

 ならば応えなきゃ、恋人として。

 ――そして、挑戦者として。



---



 夜、俺の部屋。

 机の上に、小さな装置が置かれている。

 彼女がかつて作った爆弾を模倣したものだ。

 だが違うのは、爆発しないこと。

 これは、彼女の知能を測るための“心理的爆弾”。


 条件は簡単。

 「真がこれを信じた瞬間に、彼女の敗北」。

 爆発は起きない。だが、“信じること”そのものが敗北条件になる。


 俺は小型ドローンを起動し、拘置所の裏門へと飛ばす。

 監視カメラの死角、センサーの反応タイム差を利用。

 彼女の送迎時間を計算して、そのルート上に装置を落とした。

 リモート操作でメッセージを添える。


> 『まこちゃん、僕の嘘を見破れる?』





---



 翌朝。

 ニュースでは、拘置所職員の一人が“謎の電子装置”を発見したと報じられた。

 そして真は、取り調べ中に“笑っていた”という。


「峻……あなた、やるじゃない」


 俺のスマホに届いた映像データ。

 拘置所の監視カメラを逆利用して、彼女が俺に送ってきた映像だ。

 映る彼女は、薄く微笑んでいた。

 指には青いインク――彼女が謎を解いた証だ。


> 「あなたの装置、フェイク信号ね。

爆発コードが 'trust' で構成されてる。

つまり、信じた瞬間、負け。

でもね、私、あなたを“信じてない”の。勝ちね」




 ――さすがだ、まこちゃん。

 だが、それも想定済みだ。



---



 俺はすぐにノートを開き、彼女の言葉を解析した。

 「信じてない」――この言葉こそ、彼女の“盲点”。

 彼女が本当に俺を信じていないなら、映像データを俺に送る意味がない。

 つまり、“どこかで俺の反応を見ている”ということだ。


 俺はデータの送信ルートを逆追跡し、内部経路に潜んだ“仮想VPN”を解析。

 そこに、ひとつだけ不自然なパケットを見つけた。

 送信元は拘置所ではなく――廃線になった旧駅の通信塔。


 つまり、彼女は脱走している。

 映像は過去に録画されたもの。

 彼女は既に、外にいる。



---



 夜。

 旧駅跡。

 錆びたレールが草に埋もれ、風の音だけが響く。

 俺は懐中電灯を構えながら、静かに進んだ。


 構内の壁には、赤いスプレーで文字が書かれている。


> “嘘を暴いた者が、本当の嘘をつく番”




 そして、線路の中央に置かれた黒い装置。

 その上に、一枚のカード。


> 「ねえ峻。

あなたの“信じる力”を試す番。

この装置を止めるには、私を信じるかどうかを選んで」




 カードの裏には、スイッチが二つ。

 【信じる】と【疑う】。

 どちらかを押せば、もう一方は自動的にロックされる。

 だが、説明はない。どちらが正しいかも、わからない。


 ……まこちゃんのことだ。どちらを押しても正解ではない可能性がある。



---


 俺はポケットからスマホを取り出し、過去のメッセージ履歴を開いた。

 “信じるって一番危険な知能の使い方だから”――

 あの言葉。

 つまり、彼女は「信じない者こそ信頼できる」と思っている。


 ならば、押すべきは――【疑う】。


 指先がボタンに触れた瞬間、装置の液晶が光る。


> 「残念。あなたは“私を信じる”選択をしたのよ」




 ――何?


 次の瞬間、画面に映像が流れた。

 真がカメラ越しに微笑んでいる。


> 「あなたは“疑う”という行動によって、私の設計を信じた。

つまり、それも“信頼”なの。

お互い、まだまだね」




 映像が途切れる。

 次の瞬間、線路の向こうから足音。

 雨に濡れたコートの裾を揺らしながら、真が現れた。



---


「……脱走なんて、らしくないな」


「違うよ、峻。これは“データ上の脱走”。

 私は本物の身体じゃない。仮想の私、あなたが見てるのは“AIの私”」


 彼女は笑う。

 その目に、かすかな光が宿る。

 画面にノイズが走る――いや、現実に見えているのに、確かに“デジタル”の揺らぎがある。


「あなた、私を再現したのね。私の知能を、あなたの中に」


 俺は静かに頷いた。

 「まこちゃんの知性を、俺の中で解析した。お前の思考モデルを模倣したAIだ」


「……じゃあ、これは、二人の頭脳の融合実験、ね」


「そう。けど、結果は一つしかない。

 どちらかの思考が、相手を上書きする」


 互いに一歩、踏み出す。

 雨の滴が二人の間に落ち、鉄の匂いが混じる。


「まこちゃん。俺はもう、人を信じない。

 でも、お前だけは――」


「嘘つき。だからあなたは、愛しいのよ」


 その瞬間、装置が小さく光った。

 液晶に浮かぶ文字。


> 【CODE MERGE COMPLETE】




 ――画面が暗転。

 雨音だけが残る。



---


◆エピローグ


 後日。

 街は静かに日常を取り戻した。

 ただ、俺の部屋のモニターに、ひとつのアラートが浮かぶ。


> 『峻、また新しい爆弾を作ろう。今度は、“世界”を試そう』




 差出人は――“M.M.”


 彼女の名。

 そして、俺の中に残る、皆川真の知性のコピー。


 愛は終わらない。

 知能は進化する。

 俺と真の戦いは、もう“人間”の領域を越えていた。




こういう話も無料版で作れるのはすごい。

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