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魅了の罠(チャーム・トラップ)

ヒロインに魅了が掛かったらどうなる?

そんな話を書かせました。


並行世界の話。


 あらすじ


 ある日、皆川真は学校で怪しげな香水をかけられる。

 その日から、彼女の周囲の異性たちが次々と異常な行動を見せ始める。

 優等生の男子、生徒会長、通りすがりの男性、果ては教師まで──。

 彼らの目には真しか映らなくなり、言動はどこか陶酔している。


 原因を突き止めようとする佐波峻は、真を守るために立ち上がるが……次第に自分の中にも、抑えきれない衝動が芽生え始める。


 それは薬の効果か、それとも本心なのか──。

 峻は自分の理性を賭けて、真を守ろうとする。



---


 第一章:放課後の異変


 教室の空気が変わったのは、放課後のチャイムが鳴った直後だった。

 いつもならざわめきに紛れる笑い声が、今日はやけに湿っぽい。

 峻がノートを閉じると、男子たちの視線が一斉にある一点へ集まっているのに気づいた。


「……まこちゃん?」


 皆川真は窓際に立っていた。髪が夕陽を透かして光り、まるで金粉をまとったようだった。

 しかし、異様なのは彼女ではなく周囲の反応だった。


 男子が一人、机を乗り越えて彼女の近くに寄る。


「皆川……なんか、今日、すげぇ綺麗だな……」


「え? あ、ありがとう……?」


 笑ってごまかす真の背中を、さらに別の男子が掴もうとする。

 峻は即座に間に入り、相手の手を払った。


「おい、何してんだよ。」


「……離せよ、佐波。お前には関係ないだろ。」


 その目は濁ったガラスのようだった。焦点が合っていない。

 峻の背筋を冷たいものが這う。



---


 第二章:街の喧騒の中で


 放課後、真を家まで送ることにした峻。

 しかし、駅前を歩くたびに男たちが視線を送ってくる。

 すれ違いざまに手を伸ばそうとする者もいて、峻は真を庇うように歩く。


「しゅー……私、どうなっちゃったの……?」


「落ち着け、まこちゃん。原因は必ず見つける」


 その時、真の耳元で低い声がした。


「ねぇ、君……すごくいい匂いがする。」


 見知らぬ男が肩を掴もうとする。

 峻は拳でその腕を弾き飛ばし、真を抱き寄せた。

 胸の奥で、何かが焼けるように熱くなる。


 ──守りたい。

 だが、同時に。


 ──触れたい。


 心の奥で、理性と衝動がぶつかり合う。



---


 第三章:理性の崩壊


 真を家に送り届けた夜、峻は玄関先で息を荒くしていた。

 真は不安そうに言う。


「峻、今日は本当にありがとう……」


 その笑顔に、胸の奥が締め付けられる。

 頬が紅潮し、視界が揺れる。


(やばい……俺まで……)


 真の香りがふわりと漂う。

 それはまるで、彼の心の奥に直接触れてくるようだった。

 峻は壁に拳を叩きつけ、自分を現実に引き戻した。


「……っ、駄目だ。俺は、お前を守る側だろ。」


 真が驚いたように目を見開く。


「峻……」


「俺が、お前を襲ったら……誰が守るんだよ。」


 その声は震えていた。

 彼は、自分の欲望を押し殺しながら、真を見つめた。

 そして静かに言った。


「絶対に、俺はお前を助ける。どんな薬だろうが、俺は負けない。」




---


 第4章 真実の香り


 夜が明けた。

 峻はほとんど眠れなかった。

 目を閉じれば、昨日の真の表情が浮かぶ。

 怯えながらも、誰よりも強くあろうとする彼女の目。

 そして、あの香り。

 鼻の奥に、まだ残っている気がする。


(……普通の薬じゃない。あれは“魔術”に近い)


 頭の中で昨夜の出来事を何度も反芻しながら、峻は制服の襟を整えた。

 真を守る。それだけを胸に、学校へ向かう。



---


 校門をくぐった瞬間、ざわめきが広がった。

 視線が一斉に集まる。

 その先には、昨日と同じ──いや、さらに艶やかな雰囲気を纏った皆川真の姿があった。


「おはよう、しゅー……」


 真は困ったように笑う。

 その瞬間、廊下の男子たちが一斉に顔を赤らめた。


「やっぱり……まだ続いてる」


 峻は低く呟いた。


 昼休み。人気のない理科準備室に真を連れ込み、ドアを閉める。

 白いカーテン越しに差し込む光の中、峻は冷静に言った。


「昨日の夜、何か思い出せないか? あの香水──誰が渡したんだ?」


「……思い出せないの。放課後、女子の一人に“新しい香りがあるよ”って言われて、つけたら……そのあとが曖昧で」


 峻は考える。


(偶然じゃない。狙われたんだ。皆川真を──)


「峻……」


 小さな声が響く。

 彼女は怯えるように峻の袖を掴んだ。


「また……誰かに見られたら……怖い……」


 その声に、峻の心臓が軋む。

 触れたい、抱きしめてやりたい。

 でも、今触れたら、自分も飲み込まれる気がする。


「大丈夫だ。俺がいる。」


 峻は自分を律しながら、静かに言った。


 その瞬間、カーテンが揺れ、ふっと風が吹き込む。

 甘い香りが漂った。

 真が一瞬、ふらりと揺れる。


「っ……しゅー……目が……熱い……」


「まこちゃん!?」


 峻が肩を支えた瞬間、真の瞳が淡い光を帯びた。

 その光は峻の瞳に映り込み、心の奥を刺激する。

 世界がぼやけ、呼吸が乱れる。


(くそっ……また、香りが……!)


 衝動が胸の奥から突き上げてくる。

 真を抱き寄せ、唇を近づけたくなる。

 でも、峻は歯を食いしばった。


 壁を拳で叩き、痛みで意識を戻す。


「……ダメだ……俺は、負けない……!」


 その叫びに、真が目を見開いた。

 峻の手の甲から血が滲んでいる。

 それでも彼は笑っていた。


「ほら……平気だろ。俺はお前に……触れたりしない。」


 真の目から、ぽろりと涙が落ちた。


「しゅー……ごめんね……私、迷惑ばっかり……」


「バカ言うな。まこちゃんが悪いわけない」


 峻はそっと彼女の肩に手を置いた。

 今度は、穏やかに、優しく。


「絶対に、解く方法を見つける。だから信じろ。俺を。」


 真は小さく頷いた。

 その瞬間、窓の外から小さな笑い声が聞こえた。


「にゃはははは!」


 峻と真が同時に顔を上げる。

 そこには、ルベスが窓枠に座っていた。


「お困りのようですねぇ、お二人さん」


 峻は睨みつける。


「お前……何をした」


 ルベスは微笑んだ。


「別に。ただの“魅了試験薬”ですよ。でも、ここまで耐えたのは……あなたが初めてです」


「試験……だと?」


「そう。“本当の愛”があれば、薬は効かない。でもねぇ、ほとんどの人間は、自分の欲に負けてしまうんですよ。佐波さん、あなたはどちらかな?」


 その挑発に、峻は拳を握った。

 だが、ルベスは楽しそうに笑い、宙に浮かび上がった。


「この薬の本当の効果……まだ、続きがありますよ」


 そう言い残し、ルベスは霧のように消えた。


 峻と真は顔を見合わせた。

 嵐は、まだ終わっていなかった。



---


 第5章 心を映す鏡


 静寂。

 ルベスが消えたあと、理科準備室には風の音と二人の呼吸だけが残った。


 峻は拳を握りしめたまま、しばらく動けなかった。

 “本当の愛があれば、薬は効かない”──

 その言葉が頭の中で何度も響く。


「峻……」


 真の声が、震えていた。

 彼女の頬にはまだ涙の跡が残っている。


「私……私のせいで、みんなおかしくなって……」


「違う」


 峻は即答した。


「まこちゃんが悪いんじゃない。これは“試されてる”んだ。俺たちが」


 その言葉を口にした瞬間、空気が揺れた。

 窓の外の雲が不自然に流れ、蛍光灯がちらりと明滅する。


「しゅー……?」


「来るぞ」


 峻が構えた瞬間、床に描かれた円が淡く光り出した。

 そこから、鏡のような液体が湧き出す。

 それは円形に広がり、やがて水面のような光沢を放った。


 ──心を映す鏡。


 ルベスの声がどこからともなく響く。


「この鏡は、あなた方の“本心”を映します。嘘も、理性も、仮面も、すべて剥がれ落ちる。さあ、見てみましょう……あなたたちの“愛”とは何かを」


 真は思わず一歩下がった。

 峻はその前に立ち、鏡を睨みつける。


 鏡の表面が揺れ、二人の姿が映る──

 だが、その中の峻は、真の肩を強く掴み、衝動に任せて抱きしめていた。

 そして、その表情は苦痛に歪みながらも、どこか幸せそうだった。


「……俺?」


 峻の声が震える。


「俺が……そんな顔で……」


 真は唇を噛んだ。

 鏡の中の自分もまた、抵抗せずに峻を受け入れていた。

 涙を流しながらも、微笑んで。


 その光景は残酷なほど美しく、現実の二人を黙らせた。


「あなたたちは、お互いに“触れてはいけない”と思いながらも、心の奥では求め合っている。それが人間。欲と愛は、同じ根を持つものです」


 ルベスの声が優しく響く。


 峻は鏡を睨み、低く言った。


「……なら、俺は証明してやる。欲じゃない、これは“愛”だ」


「証明、ですか?」


「俺は、まこちゃんを傷つけない。どんな誘惑があっても、絶対に守る。それが、俺の本心だ!」


 その瞬間、鏡が割れた。

 金属音のような響きとともに、光が弾け、部屋を満たす。


 真が目を閉じ、風に包まれる。

 香りが、消えていく。

 それはまるで、長い夢から覚める瞬間のようだった。


 ルベスの声がかすかに届く。


「……なるほど。本当に、あなたたちは“例外”ですね。にゃはははは!」


 笑い声が遠ざかり、静寂が戻った。



---


 光が収まったあと、二人はただ見つめ合った。

 真の瞳から、あの不自然な光はもう消えている。

 空気が澄んで、香りももうしない。


「終わった……のかな?」


「ああ。たぶん、な」


 峻は肩の力を抜き、笑った。

 真も、小さく笑い返す。


 そして──


「ねぇ、しゅー」


「ん?」


「さっきの鏡に映ってたの、本音、だった?」


 峻は少し間を置いて、静かに答えた。


「……ああ。本音だよ」


 真の頬が赤く染まり、視線が泳ぐ。


「そっか……じゃあ、私も」


「え?」


 真はほんの一瞬、峻の手を取った。

 その手は小さく震えていたけれど、確かに温かかった。


「ありがとう。私を……守ってくれて」


 峻はその手を包み込むように握り返した。


「当たり前だろ。まこちゃんは──俺の、大事な人だから」


 二人の間に、静かな時間が流れた。

 もう、香りも魔法もない。

 あるのは、素直な心だけ。



---


【エピローグ】


 放課後。

 ルベスは屋上の手すりに腰掛けて、風に髪を揺らしていた。


「ふふ。やっぱり、あの二人は面白いですねぇ」


 手元の瓶の中で、淡い光が消える。

 魅了の薬の最後の一滴。


「“欲望”ではなく、“愛”が勝つなんて……やっぱり人間って、奥が深いですね」


 ルベスは微笑み、夕陽に向かって手を振った。


「にゃはははは──また、面白いことを仕掛けに行きましょうか」


 風が吹き、彼女の姿は夕焼けの中に溶けて消えた。



完。



ルベスの描写が女性になっていて修正してます、偶にAIに覚えさせたキャラ設定を忘れるみたいですね、さすが無料版。


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