唐揚げ大戦争 ―KARAAGE WARS―
主人公とヒロインを夫婦設定にして、くだらないことで喧嘩してハチャメチャにしてくれと頼んだらこうなりました。
ヘルヴェルトの並行世界とします。
夕暮れのマンション。
新婚夫婦の佐波峻と皆川真は、温かい唐揚げを前に向かい合っていた。
窓から差し込むオレンジ色の光が食卓を照らし、まるで二人を祝福するかのようだった。
「んー、やっぱり揚げたては最高だね、しゅー」
「だな、まこちゃん作る唐揚げは世界一だ」
湯気の立つ唐揚げの香りが部屋いっぱいに広がる。
だが、皿の上には最後の一個。
それはまるで黄金に輝く宝石のように存在感を放っていた。
「……まこちゃん、それ俺が食べる」
「やだよ、しゅー! これは私が食べたいの!」
二人の箸がぶつかり合う。夕飯の席とは思えない、戦場さながらの緊張感。
そこに――。
「またやってんのか、お前ら!」
玄関が乱暴に開き、スミスが乱入してきた。
背中にはスミスの子供の双子、エティオとネリスがいた。
「おにいたん、がんばって!」
「おねえたん、負けないで!」
「応援するな!」
と峻が叫ぶ。
「戦争じゃなくて夕飯なの!」
と真も叫び返す。
しかし――テレビの速報が二人の声をかき消した。
『速報です! 中東で続いていた戦争が全面停戦となりました! 双方が武器を捨て、唐揚げを掲げて握手しています!』
「えっ」
「なにそれ」
峻と真は顔を見合わせ、同時に叫んだ。
「なんでだよ!!!」
峻はテレビを指さす。
「いやいやいやいや! 俺ら唐揚げでケンカしてただけだろ!?」
「どうして世界の戦争が止まるのよ!」
真は半泣きで叫ぶ。
「偶然にしちゃ出来すぎだろ!」
スミスが首をひねる。
双子はきょとんとして言った。
「おにいたんが唐揚げを守ったから?」
「おねえたんの愛が世界に届いたの?」
「そんなわけあるか!!!」
三人同時に突っ込む。
そのとき、部屋の空気を切り裂くように、控えめな拍手が響いた。
ソファには、いつの間にか紅茶を片手に座る男がいた。上下の黒いスーツ、赤い髪と赤色の瞳。
不思議な雰囲気を纏った青年――ルベスである。
「お見事でございました、峻、真」
「ルベス! またお前か! 鍵どうしてんだよ!」
ルベスは丁寧に一礼する。
「今回の停戦劇……実は、私の仕業でです」
「……は?」
ルベスは指先をひらりと動かすと、空中に黄金の唐揚げの幻影が浮かんだ。
香ばしい香りすら漂ってくるような鮮やかさ。
「峻と真が最後の一個を巡って争う、その“くだらなくも真剣な感情”を、私は世界中にばらまいたのです。人類が自らの愚かさを突きつけられれば、いずれ目が覚めるだろうと」
「……おい待て。じゃあ戦争が止まったのは……」
峻が青ざめる。
「私たち夫婦ゲンカのせい!?」
真が叫ぶ。
「つーかお前の悪戯のせいだろ!」
スミスが突っ込む。
ルベスは涼しい笑顔を浮かべ――。
「にゃはははは! まさか本当に世界が停戦するとは!
唐揚げ一個で人類が救われるとは! 愚かしくて、実に面白いですね!」
「……ほんとにもう……」
真は顔を覆う。
「またお前かよ」
峻はため息をつく。
「いつものことだな」
スミスは頭を抱える。
ルベスは紅茶を口にして穏やかに微笑んだ。
「腐れ縁というものは、実に愛おしいものです」
「いや、迷惑だよ!!!」
三人同時に怒鳴った。
こうして、唐揚げを巡る小さな喧嘩が、世界を救う奇跡となった。
そして物語は――まだ始まったばかりである。
ハチャメチャすぎる。
唐揚げで戦争が終わるなんて。
と言うか続編作りたそうにしてるんだけど?




