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文化祭ホストとキャバ嬢

主人公にホストさせてと指示させて出来上がったシナリオに、今度は逆にヒロインにキャバ嬢やらせてといったらこうなりました。


並行世界の話。


 文化祭当日 ― クラスの教室



 カーテンで仕切られた教室の中は、黒と赤の布で飾られ、どこか怪しい「ホストクラブ風」になっている。

 シャンデリア代わりのライトも吊られ、入口には「ようこそ!ナイトオブクラスAへ」と手作りの看板。


「やっぱり本気出しすぎじゃない?」


 準備の合間に真がぽつり。


「普通に喫茶やるんじゃなかったっけ?」


「いやぁ、こっちの方が面白いだろって!」


 クラス委員の男子が胸を張る。


「だって佐波がいるんだぜ? どう考えてもナンバーワンホスト役しかねーだろ!」


「そうそう!」


 女子も便乗して笑う。


「白スーツとか似合いすぎてやばいよ!」


 真は思わず峻を見て、視線を泳がせる。

 ――似合ってるのは否定できない。けど、クラスメイト公認でホストって……。






 客役の生徒が次々と案内される。


 クラスの男子が「三番テーブルご案内〜!」と声を張り上げ、演技が始まる。


「いらっしゃいませ、姫様。私、シャンパンタワー担当のユウトと申します」


「ちょっと!担当とかないから!」


 と横から別の男子がツッコみ、教室は爆笑。


 だが――次の番、峻が立ち上がった瞬間、空気が変わる。


 白いスーツ、グラスを持った手の仕草、自然な微笑み。

 クラス全員が一瞬静まり返り、


「……うわ」


「ガチじゃん」


 とざわつき始めた。


「次のお客様は……皆川さんでどう?」


 女子が楽しそうに真を前に押し出す。


「え、ちょ、なんで私!?」


「そりゃあ、ナンバーワンにはナンバーワンのお客でしょ〜!」


「恋人役やってこそ盛り上がるって!」


 逃げ場を失った真は、仕方なく椅子に座らされる。


「ようこそ、真様」


 峻の低い声に、真はビクリと肩を跳ねさせた。


「お客って設定だよね…………な、なんで名前知って……」


「大切なお客様のことを忘れるわけないでしょう?」


 クラスの女子たちが「きゃーっ!」と黄色い声を上げる。男子たちも「演技うますぎんだろ!」とざわつく。


 峻は軽やかに真の手を取り、グラスを傾けながら続ける。


「今日お越しいただけたこと、心から光栄です。真様が微笑むだけで、この店が輝く」


「しゅ、しゅー! 本気で言ってる!?」


「もちろん。ナンバーワンに嘘は似合いませんから」


 真の顔は一気に真っ赤。

 クラスの後ろから「皆川ちゃん死ぬ!」「顔真っ赤すぎ!」と笑い声が響く。


「おーい佐波!その調子で口説け口説け!」


「プロポーズまで行けー!」


「ちょ、ちょっと!やめてってば!」 


 真は必死に否定するが、峻は涼しい顔。


「真様、どうか安心を。俺の心は――」


 と、耳元に顔を近づける。


「あなたにすべて奪われました」


「ぎゃああああああああ!!」


 真は椅子から飛び上がり、クラス中が大爆笑。







「皆川さん、可愛すぎ!」


「リアクション完璧だったわ!」


「もう佐波と付き合ってるの隠せなくね?」


 クラスメイトたちに囲まれ、真は顔を覆ってしゃがみこんでしまう。


 峻はその横で少し照れ笑いを浮かべ、そっと耳打ちした。


「……悪い、でもすっげー楽しかった」


「バカしゅー……! 後で絶対覚えてなさい……!」





 放課後 ― 静かな教室


 

 文化祭の喧騒が終わり、夕方の光が差し込む教室。

 片付けを終えたクラスメイトたちがぞろぞろ帰っていき、最後に残ったのは峻と真だけだった。


「……ふぅ」


 峻がホスト衣装のネクタイを緩めて椅子に座り込む。


「おつかれさま、しゅー」


 真が小さく声をかける。頬にはまだうっすら赤みが残っている。


「ありがとな、まこちゃん」


「……なにが?」


「俺の“お客様役”をやってくれたろ。あれで盛り上がったんだ」


 真はむっとして腕を組む。


「盛り上がりすぎ! あんなの、心臓に悪いんだから!」


「でも、まこちゃんのおかげでクラスみんな楽しそうだったじゃん」


「……それは、そうだけど……」


 真は視線を逸らし、机の上を指でなぞる。


「しゅー、ああいうの……慣れてるの?」


「え?」


「だって、本物のホストみたいだった。声とか、仕草とか、自然すぎて……。正直、ドキドキしすぎて倒れるかと思ったんだから」


 真の声がだんだん小さくなり、最後には消えるように。

 峻は少し苦笑し、彼女の隣に立った。


「慣れてるわけないだろ。あれは――まこちゃん相手だからできたんだよ」


 真は驚いたように目を丸くする。


「……え?」


「だって、まこちゃんが相手なら、心から“好きだ”って気持ちがあるから。自然に言葉が出てきたんだ」


 夕陽に照らされ、峻の表情はまっすぐで、嘘がなかった。

 真は耳まで真っ赤に染め、俯いてしまう。


「……ずるい」


「え?」


「そんなこと言われたら、ますますドキドキして……今日眠れなくなる……」


 小さく呟いた真の声に、峻は照れ笑いを浮かべながら、そっと彼女の手を取る。


「じゃあ、眠れないまこちゃんの代わりに、俺が一晩中付き合ってやるよ」


「ば、ばかっ!」


 真は慌てて手を振り払うが、笑みは隠しきれなかった。






 後日、クラスメイトで打ち上げでジュースとお菓子を囲みながら、皆でわいわい。


「いやー佐波マジでホスト似合ってたな!」


「皆川さんの反応が最高すぎ!」


「二人とも芝居じゃなくてガチだったでしょ!」


 冷やかしの嵐に、真は顔を真っ赤にして机に突っ伏す。


「……もうやだ……」


 峻は苦笑しながらジュースを飲んでいたが、突然誰かが言った。


「なあ! 次は逆に皆川さんがやってみようぜ!」


「キャバ嬢っぽい役で佐波を接客するんだよ!」


「えええっ!?」


 真が飛び上がる。


「いいじゃんいいじゃん! ホストとキャバ嬢で対等勝負!」


「さっきの仕返しだな!」


「ま、待ってよそんなの……!」


 だがクラスメイトたちはノリノリで、椅子と即席カウンターを用意してしまう。




 強引にドレス風の布を羽織らされ、赤縁メガネのまま座らされた真。


「……うぅ、恥ずかしい……」


「さあ佐波、お客様として座って!」


 とクラス委員が促す。

 峻は仕方なく椅子に座り、グラスを受け取る。


「い、いらっしゃいませ……」


 真は震える声で、見よう見まねの甘い口調を出す。


「お客様、お名前は……?」


「シュンです」


 峻が真面目に答えると、真は耳まで真っ赤になりながらも、必死に続ける。


「え、えっと……しゅーさんって呼んでいいですか? 今日、私のテーブルに来てくださって、すっごく嬉しいです」


「……」


 峻は黙って彼女を見つめる。


「な、なに?」


「いや……可愛いなって思って」


「!?!?」


 真がグラスを取り落としそうになり、慌てて両手で持ち直す。


 教室は「おおーーー!!」と大盛り上がり。


「皆川さん、もっとお酒ついで!」


「色仕掛けだ色仕掛け!」 


「手、重ねて!ほらほら!」


「む、無理無理無理ーーー!」


 真は両手をばたつかせるが、峻が静かにグラスを差し出す。


「……じゃあ、まこちゃん。俺に一杯、注いでくれる?」


 その一言に、真は完全に固まってしまった。


「……こ、これ、絶対逆仕返しでしょ……」


「そうだよ」


 峻がにやりと笑い、クラスメイトたちは「きゃーー!」と拍手喝采。





 後日談



 帰り道。


「……もう二度とやんないからね!」


 真は頬をぷくっと膨らませる。


「でも、俺はちょっと得した気分だったけどな」


「はぁ!? なんで!」


「だって、まこちゃんの“キャバ嬢ごっこ”、俺しか見られなかったし」


「……バカしゅー!」


 真は顔を覆い、耳まで真っ赤にして走り出した。

 峻はそんな彼女を追いかけながら、笑みを浮かべるのだった。



主人公にホストの才能があったのかと驚いた。


自分じゃ考えないことを提示してくるので小説を書く際に補助的に使えば世界観を広げやすくなると思いました。

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