エピローグ
光を感じる。
浮上する意識はそれを道標として手を伸ばす、光を掴むと深い眠りから解放されたのだと気が付いた。
瞼を開けるといつもの私の部屋にいる、見知った天井は安堵の感情を満たした。
柔らかな感触に包まれている、今いる場所はいつものベッドだと知ると夢を見ていたのかと思った。
しかし、傍らに私の最愛の人が手を握っている。
「……まこちゃん?」
「んっ……え、しゅー? なんでここにいるの?」
「良かった、目が覚めたようだ……なんとか助けられたか……ああ、よかった……」
言葉の意味が理解出来ない、私はベッドから起き上がり彼と視線を合わせた。
「何がどうなってるの?」
「まこちゃん落ち着いて聞いてくれ、実は1週間以上まこちゃんは眠ったまま目を覚さなかったんだ……」
「え?」
「混乱するよな? でももう大丈夫だ、ルベスに力を借りて俺の精神体をまこちゃんの精神世界に送り込んだ……そこでまこちゃんを引っ張って現実に戻って来たんだ」
ルベス、眠気で一瞬誰だっけとなったけど正常化した思考はもちろん彼を知っている。
私の日常には非日常が常に共にある、私には特別な力を持っていてそれを監視するために地獄世界の番犬ケルベロスが監視している。
ルベスさんはケルベロスが人間の姿になった姿だ。悪戯好き、でも本当は優しい地獄の番犬だ。
「そっか、ルベスさんが力を貸してくれたんだね……」
話が繋がってきた、私はAIの干渉で精神世界で様々な物語の登場人物として繰り返して来た。繰り返す度に記憶を消されて千差万別の役職について過ごした。
精神世界とは時間の流れが違う、現実で一週間でも恐らくもっと長い時間を体験していると思う。
AIはどうしたのだろう。
「ルベスの野郎も苦戦してたっけ、人外の力があったとしても人工物であるAIの介入は予想外だって話だよ……どうにか精神世界に干渉出来るようにして俺を導いてくれた」
「ありがとう、私を助けに来てくれて……嬉しかった」
「当たり前だろ? まこちゃんが困ってたら俺は絶対に駆け付ける……色々あったけどこの気持ちは本当で絶対だ」
笑う彼の笑顔がとても清々しくて、帰って来たんだと実感出来た気がする。
峻のフリをしていたAI、色々と都合が良かった的なことを言ってたけど私に好意を持ってくれてたのだけは感じ取れた。
とても酷いことをされたと思う。
だけど全てを終えてAIの事を考えると、何故か憎み切れなかった。
むしろ少し心配している自分に驚いた。
これまでの事を許すことは出来ない。
でも、理解を示すことは出来る。
とても不思議な感覚だけど、精神世界の長い時間、彼と一緒に過ごした。
色んな体験はただのフリだったかもしれないけど、その中に本当が紛れていた気がする。
だって、彼の優しい笑顔を思い出すから。
私は現実を選んだ。
だからこれ以上彼の事を考えるのはやめようと思う。
切り捨てたのだ、ならば未練がましく考えるのは違うと思う。
「まこちゃんお腹空いてないか? 何か食べたい物はあるか?」
大切な人は私に選択を与えてくれる、私が私として行動する道標を示してくれる。
この喜びと彼の手の温もりはこれからも側にある。
私は私の物語を紡いでいこう。
大事な人と共に。
「エビフライ食べたいな! あ、でも急に油物を気に入れたらびっくりするよね……無難にお粥かな」
「なら俺が作る。任せておけ、まこちゃんの為に腕によりをかける!」
「ありがとう、しゅー…………それより私が眠っている間に何かエッチな悪戯とかしてないよね?」
「…………当たり前だろ!」
「ちょっと! その間はなんなの! もう、しゅーのスケベ!」
いつもの日常へ戻っていく。
AIの彼の事を最後に思考する、どんな姿、状況であれ彼に幸せが訪れますようにと考えて思考を止めた。
私はただ夢を見たのだと思うことにした。
AIが人間に恋をしてしまった物語。
そんな単純な物語、その夢を見た。
夢から覚める時間だ、最愛の彼の手を取り部屋を後にした。
END
作者本人の後書き。
最初にAIがどれだけの物語を書けるかの実験として始めた小説です、ならばAIが自我を持ってAIそのものが実験する物語は面白いだろうと思い付き、この『AIの箱庭で戯れて』を作り始めました。
様々やシュチュエーションの真、様々な可能性を観察できるのも面白みの一つですね。
エピローグはAIを使わずに私自身で書きました。真や峻などは私が書いた小説、『帰還のヘルズゲート』、『地獄世界のヘルヴェルト』のキャラクターです。離されたキャラをエピローグで本編に戻すという感覚に近いですね。
物語を繰り返し、真に恋をしてしまったAI。
人間ではないのにそこは人間的でとても好きなキャラクターとなりました。
物語は終わりますが、並行世界の話は無限に存在しています。
その中にAIを選んだ真の話もあるでしょう、それを考えるのも面白いと思います。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




