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光竜

ある日の夜。


怪しい雰囲気を漂わせた一人の男が、遠くから僕らの屋敷を見ていた。

「兄上め、私にこんな仕事を回すとは。仮にも四天王の私が、こんなコソコソ動くなど、性に合わん。」

男は苦虫を噛み潰すように言った。

「お前達!準備はいいな。目標は、あの屋敷だ。桜花を捕らえよ。」

「うおー!!」

無数の男たちが闇夜に雄叫びを上げた。

「ゴブリンやオーク、リザードマン。これだけの数が襲い掛かれば、流石の大魔法使いも手が出まい。」

「この四天王が一人・光竜ライトドラゴン。元の世界での雪辱を晴らしてくれる。」

漆黒の闇に紛れ、男たちの群れが動き出した。




そのころ、僕たちは昼間の訓練の疲れを癒していた。

「あー、いい風呂だった。次は誰だ?」

イボンヌが風呂から出てきた。

「おいらが最後だ!やっと、風呂に入れるぜ!」

「ロック、ごゆっくりー。」

桜花は、ジュースを飲みながらテレビを見ている。

「プハーッ!この一口の為に生きてるな!」

イボンヌは、ビール片手にご機嫌だ。

「桜花、イボンヌ。湯冷めしないように気をつけろよ。」

「はーい。先生。」

桜花とイボンヌが声を合わせる。

普通なら、誰が先生やねん。と突っ込むところだが、

僕は、いつ敵が襲ってきてもいい様に、気を張り詰めていた。


今日は、大丈夫かな?

と思ったその時。僕は、異様な気配を感じてカーテンを開け窓の外を見た。

すると、


ドドドドドドドドドっ。


地響きのような音が森の向こうから聞こえる。

「全員、戦闘準備!!」

僕は大声で叫ぶ。

「わかった!」

イボンヌと桜花は、慌てて2階の自室に向かう。

「ウワー、ちょっと待ってくれ!!」

風呂場からロックの声がする。


僕が窓から目を凝らすと、森の木々の隙間に無数の人影らしきものが見えた。

これは、無数の人間だ!

この屋敷に向かっている!!


「桜花!イボンヌ!2階で攻撃に備えてくれ!無数の人間が接近中!転生者と思われる!」

「了解!!」

「ロックは1階の守備を頼む。タガーは装備してるか?」

「もちろん、OKだ。」

ロックがリビングにやってきた。

「僕は、攻撃魔法。桜花は、補助魔法。イボンヌは弓で2階から攻撃だ。」

「わかった!」

イボンヌの声がした。

僕も急いで2階に上がる。

自室の窓を開けると、無数の人影がすぐ近くに迫っていた。


「行くぞ!攻撃開始!」

桜花が魔法を唱える。

「束縛せよ!チェーン!」

光とともに大きな魔法陣が現れた。

そして、周囲の男たちの動きが止まった。

桜花の束縛魔法も広範囲に効果が及ぶほどパワーアップしている。

シューッ!ビシッ!

イボンヌの放つ複数の矢が敵に命中する。

僕も魔法で攻撃する。

「風よ吹け!ストーム!」

嵐のような風が巻き起こり、周囲の男たちが吹き飛ぶ。


まるでゾンビのように押し寄せる男たちは倒しても倒してもキリがない。

致命傷を与えなければ起き上がって、また迫ってくる。

屋敷に張られた桜花の結界もいつまでもつか分からなくなってきた。


ガシャン!!


1階から窓が割れる音がした。

「ハク!窓が破られた!」

ロックの声がする。

「わかった!今行く!」

僕は慌てて1階に下りた。窓から入ろうとする男たちを、ロックが必死に抑えている。

「ロックどけ!炎よ出でよ!バーン!!」

激しい炎の柱が一直線に窓に向かう。


ギャー!!


窓から入ろうとした男たちを炎が一気に燃やし尽くした。


「流石、ハック!」

「ロック!窓を何かで塞いでくれ!」

「了解!」

1階はロックに任せて、僕は、2階に戻った。

男たちの数はかなり減ったが、まだ迫ってくる。

「こいつら、キリがないね。」

イボンヌの矢も弾切れが近い。

「束縛魔法だけじゃ厳しいよ!」

桜花も頑張っているが、魔力の限界が近い。


周辺の被害を最小限にと思っていたが、

もう、贅沢は言っていられない。

「炎よ、出でよ。インフェルノ!」

僕は、男たちを燃やし尽くそうと、炎を放った。

周囲の木に火が燃え広がってしまう前に鎮火せねば。

「水よ、出でよ。フロード!」

周囲の木の火は消えたようだ。

煙で回りが良く見えない。

「風よ吹け、ストーム!」

風で煙を四散させる。と、男たちの残骸が周囲に無数に広がっていた。

生き残りはいないようだ。


「最初から、それやってくれれば良かったのに。」

桜花が言う。

「炎は、周囲の木まで燃やしてしまう。できるだけ被害は最小限にしたかったんだ。」

日本には日本のルールがある。

目立たず余計なトラブルを避けるためにも、被害は最小限に抑えたい。

警察沙汰だけはゴメンだ。

「まあ、とりあえず、敵はいなくなったんだし、よしとしようじゃないか。」

イボンヌは、笑って言った。


僕らは1階に降りて、ロックと合流した。

「おいらも、少しは役に立っただろ?」

ロックも頑張ってくれた。

「もちろん、ロックにもとても助けられたよ。」


ふと、僕は、外に何かの気配を感じて玄関から外に出た。

僕の様子に気づいたみんなも後に続く。

屋敷の外は、周囲の木が焼けて酷い惨状だ。

倒した男たちは、やはり転生者だったんだろう。

跡形もなく消えていた。

「あいつら、何だったんだろう?」

桜花が呟く。

「恐らく、ゴブリンか、オークか。両方かも知れない。」

あれだけ大量の転生者だ、勇者パーティに倒された魔物であれば、きっとそうだろう。


その時。


!!


遠くで何かが光った。


「みんな、伏せろ!!!!」

僕は叫んだ。


光の矢が、ものすごい速さで空気を切り裂く。


僕達は間一髪で光の矢をかわした。

これは。。。光魔法!

何者だ!


すると、遠くから一人の男がゆっくりと、歩いてきた。


その男は、ゾッとするほどの端正な顔立ちで、どこか『日記の男』アバンに似ている雰囲気があった。

マントを羽織り、タキシードのような服を着ていて、高貴さも感じさせる。


男は、僕らの近くまで来ると、ゆっくりとした口調で話し出した。

「お久しぶりですね。大魔法使いハック、回復師オウカ。」

「お、お前は、誰だ?」

僕は、必死に記憶を辿るが、思い出せない。

「まだ記憶が戻っていないようだ。力ずくで、思い出させてあげましょうか。」

男は、怒りを抑えながら話しているように見える。

「ハク、この人。ドラゴンの気配がする!」

桜花が驚いて叫ぶ。

ドラゴン!まさか・・・

「四天王!!」

「思い出したようですね。私は、闇竜ダークドラゴンの弟であり、魔王の子。四天王、光竜ライトドラゴンのアベル。」

「光竜。あの時倒した・・・。」


『光竜。闇竜ダークドラゴンの弟。四天王の一人にして、世界を闇に堕とそうとする4体のドラゴンの1体。光の魔法を得意とする。勇者一行にドラゴニアの戦いで敗れる。』



「ドラゴニアの戦いで倒したあいつか!?」

僕は全てを思い出した。




ドラゴニアの戦い。

戦士ユウのパーティが光竜率いる魔物の集団と古の都ドラゴニアで激突し、勝利した戦い。僕・魔法使いハックとヒーラー・オウカは、その魔力で、魔物を圧倒した。そして、光竜を倒した戦士ユウは、その名を世界中に知らしめることになる。

あの時のユウくんの活躍は凄まじいものがあった。僕らのパーティが経験した中でも、最も激しかった戦いのうちの一つだ。






「そうです。あの時はお世話になりました。お世話になりっ放しでは失礼なので、お返しに来ましたよ。」


「みんな!戦闘態勢!」

僕は、全員に叫んだ。


「おっと、そうはさせません。」

アベルが、そう言うと、右手から光の矢が放たれる。

僕は、間一髪、かわすことが出来た。さあ、反撃だ。

「炎よ、出でよ。バーン!」

攻撃範囲を出来るだけ狭めて、アベルを狙う。

「ふっ。こんなもの。」

バシッ。簡単に片手で払いのけられてしまった。

「束縛せよ!チェーン!」

桜花の束縛魔法が、アベルに命中する。魔法陣がアベルを包み込む。

効いている!


今だ!


「水よ、出でよ!フロード!!」

僕は、渾身の魔法を放つ。大量の水がアベルを襲う。

「私の矢を喰らいな!!」

イボンヌは、複数の矢を一度に放つ。

「おいらだって戦える!」

ロックは、自慢の足の速さでアベルの懐に飛び込む。


「こんな束縛など!!」

アベルが全身に力をこめると、ビリビリッという音とともに魔法の束縛が緩みだした。

「んんんっ!」

桜花も負けていない。

押し返している。


ロックが目にも止まらぬ速さでアベルの手足に切りつける。

「クッ!」

イボンヌの矢がアベルの体に命中する。

「グアッ」

そして、僕の水流魔法がアベルに直撃する。

「ウォー!」

やはり、読み通り、人間の体ではダメージが大きいようだ。

畳みかければ勝てる!


僕は、持てる限りの力で、魔法を連発した。

「炎よ、出でよ!インフェルノ!」


ブワーッ!

炎の束がアベルに襲い掛かる。


グオーーーーーーーーーーっ!!!!!!!


アベルの体が激しく燃え上がった。片膝をつき、崩れ落ちていく。

「またしても、敗れるのか!兄上ーーーーー!!!!」

アベルが叫んだ、その瞬間。

全身が青白い光に包まれ、

フッと炎とともにアベルが消えてしまった。


!!


一瞬、何が起こったのか判らなかった。


逃げられた?


僕は、魔力を使い果たし、力尽きて、気を失い、その場に倒れてしまった。

「ハクっ!ハクっ!」

遠ざかる意識の中、僕は、勇者ユウの声を聞いた気がした。。。

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