第十五話 不可能とは
祟の強さは、川原先生に匹敵する。
そして川原先生は、中上級生が束になっても倒せない。
それほどの強さを持つ霊である祟を、初級生が祓える確率は、ほぼ……0%。それ故、祟に挑むものはバカだとされていた。しかし今回は皆、祟に向かって好戦的な態度をとっている。その原動力は……
「祟てめぇ!!死ねぇ!!!」
「もう死んでんだよ!!馬鹿が!!」
みんなバカだ。こんな強大な敵、本来ならば勝てっこない。勝てても相打ちとか、他の霊媒師の助けが来ないと無理だろう。
「「黒乱 唸」」
『ゔゔゔゔぅ゙ぅ゙ぅ゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!』
霊力が敵の唸り声に乗ってこちらへ飛んでくる…。超範囲攻撃、、、
地面がえぐれるほどの声の力で放つ霊力は、計り知れない威力となる。
並の霊媒師なら、ここで全員力尽きただろう…。
「上上…!!」
下から巨大な腕が生え、俺たちを持っている。
「横軸に攻撃範囲が広いだけなら、縦軸に逃げればいいだろ?」
「お前脳筋じゃなかったのか!見返したぜ!」
三鈴がほざく。
「あ…?バラバラにしてやろうか…??」
「ゴメンゴメンゴメンゴメン」
「はぁ…。よし、降りるぞ。黒龍、あれみたいな感じで。よろしく」
「あ、、、あれ…?あれってなんだよ、」
そういった途端、全員落ちた。
「あ……「青龍」」
黒龍の能力である青い龍、移動速度特化の龍らしい。それ故、どこからでも俺たちをキャッチできる。
「よしみんな…!いくぞ!!!」
「おう!!」
「「神ニ告グ。我ラノ霊媒力ヲ増加サセヨ!」」
俺等の霊媒力がみるみる湧いてくる…!!
「「黒乱 泥」」
ドロドロの黒乱を周囲に撒き散らす。
「「巨蹴」!!」
人間化した霊は、物理に弱くなる。基本霊媒力で戦う霊媒師に、物理技を持つ者は居ないと思っているのだ。
上上の能力は、人間には見えないし効かない。しかし、完全に人間ではないものには効く。霊化した川原先生や、無神無人先生にも効果はある。そしてこの霊はまだ人間化レベル90にしかなっておらず、人間化のマックスが100であるため、残りの10に上上の攻撃が食らってしまうようになる。
「「白炎」!!!」
祟は相当ダメージを食らっている。だが…まだ全然動いている…。、
「「黒乱……撃!!」」
衝撃波に黒乱を乗せて、全方位に攻撃する。黒乱 唸の上位互換。
ドゴォォォォォォオン………
上上の金手壁の向こう側にいた川原先生と、川原先生の治療をしている加蔵は、黒乱の影響を受けなかった。
「え…もしかして、やばい攻撃…??」
「そ、そうかもですね……先生、動けますか…?」
「いや、全然動ける……けど、体がちょっと追いついてないかも…、」
「了解です、俺、ちょっと行ってきます。」
「ちょ、加蔵くん!?危ないよ!!」
「みんな!動けるか!??」
「………………。」
くそ、全員気絶してんのか??
「ふははは!!!やはり人間は祟には及ばない!!!あいつもそうだったが、お前らはもっと雑魚だ!!!」
全員体中に傷がある。腕が取れていたり、足がもげていたり。重傷者ばっかり…。あの攻撃一撃でこうなったのか……!?
「仲間の死に様を、あの壁が邪魔で見れなくてショックか???あぁそうに違いない。お前もすぐ殺してやるよ。お仲間と一緒に、冥界に行って来い!!!」
「なぁ…祟…」
「あ?なんだよ」
「倒したはずの相手が、また起き上がって襲いかかってきたら……どう思う?」
「は?てめぇ何言って、」
「「監獄 赤十字」」
「は…は…??」
加蔵が咄嗟にそう口に出した。下から赤色の十字が出てきて、その周りを赤色の光が覆っている。広範囲の人間を、少ない力で治癒する。そうするためには、監獄しかなかった。三鈴に教えてもらった監獄のやり方……分かりにくかったけど、イメージしまくったらできた…!
「んん……なんだ………さっきまで死を覚悟してたけど……体が治ってる…!?」
「もしかして、」
「「「加蔵!?」」」
「皆、まだ霊は祓えてないよ。猛攻の続き、頑張ろう!!」
加蔵が監獄を習得した。監獄という技は、その能力にもともと兼ね備わっているもので、本来自分で作り出すものではない。極稀に、自分で監獄を作り出すものもいる。三鈴もそのうちの一人だ。そして、作り出した監獄がある能力には、真の監獄が存在することもある。しかし、監獄を作り出したものは、真の監獄を使うことができない。
「川原先生、動けますか!?」
「加蔵くんの監獄…なんだよね、あれのおかげで僕も絶好調!!!ありがとね!!」
「よっしゃみんな!!やるぞ!!」
「クソが……これだから治癒は嫌いなんだ!!治癒は!!!……「黒乱 触」…!!」
黒い触手が俺等を襲う。
「んだこれ……気持ち悪ぃ…」
「「白乱 爆」!!」
川原先生が唱えた。瞬間、黒い触手が破裂して消えた。
「みんな…!この黒い攻撃は霊力の塊!だから白乱で破壊できるよ!!」
「了解!!」
「てめぇら…くそ…撤退だ…!雷風様の元へ……今すぐ…!!」
「あ、まて!!!」
「「監獄 極炎」!!!」
「九九ちゃん!?」
「こうするしかないです…!ヤツの動きを止めるには、監獄で行動範囲を狭めるしかありません…!」
「……クソ霊媒師がよぉ…!!お前らはどうして!!俺を前にして諦めない!!!祟である俺とお前らじゃ、差が開きすぎている…。なのに!!なぜ諦めないんだ!!!」
「まぁ、……任務だからね!」
「面白くねぇ返答だなぁ!!!黒乱…」
「「吸炎、…業炎斬」!」
「うっ、…、ぐぁぁっ……」
【朝野九九の監獄と吸炎】
監獄「極炎」は、対霊の炎を円形に散らし、そこをバトルフィールドとする。そしてその円の外に出ようとすると、炎が霊の体を焼き尽くす。
そして、吸炎は、自分が出した炎以外の炎を吸い取り、自分の炎をより強力にするもの。しかし、この監獄内の炎は例外で、吸炎することができる。そして監獄内は常に燃えているため、霊媒力が許す限り吸炎できる。
̮「あぁもう…!!!なんなんだよ!!カスが!!」
「「人間化……レベル100…!!」」
「え、オーナー…??」
「今気づいた感じ…?そうだよそいつはあの宿のオーナー!でも躊躇無く祓って!霊には変わりないから!!!」
「ふぅ……もういい。終わらせよう。」
「「黒乱 放」」
黒乱 放は、玉と似た技である。霊力を一直線に相手に放つ。
「川原先生…!!危ない!!」
「「白乱 玉」!!!」
白乱は黒乱を破壊し、黒乱は白乱を破壊する。黒乱 放と白乱 玉の中心同士が真ん中でぶつかり合い、破壊が同時に起こって結界が作られている。しかしそれは、互いの力が限りなく近しいときにのみ起こり、少しでも強さが上回ったほうがその結界を破ることができる。
川原俊は少し反応が遅れてしまった。それ故に、助走なしで飛んだ幅跳びのように、本領の発揮はできなくなってしまっている。
「「白乱……玉…!」」
「「白乱、玉」!!」
続けて上上と朝野が白乱を放った。
それぞれ一騎打ちであれば確実に彼らは負けていた。しかし、川原先生の力もあり、少しづつ結界を押し返すことができている。
「「白乱 玉」」
「「白乱…玉…」」
黒龍と雨正も応戦している。皆の白乱 玉はあの時無神無人先生が祓ってくれた祟に放った時よりも強く光っている。
「「白乱……、玉」!!!」
三鈴も放った。まだ…あともう少しで……結界が破壊できる…!!!
「「白乱………玉………!!!」」
加蔵は基本的に白乱は苦手だった。固有能力が固有能力故に、霊媒力を出すのが少し苦手だったのだ。しかし、今となっては強大な力になっている。
「クソ………クソ……!!!こんなクソ集団に!!!!やられるのは!!!!御免だ…!!!うぉぉぉぉおおおおぁぁあ!!!!」
「「「うぉぉぉぉあああああ!!!!」
全員の白乱が一つになり、あの頃では考えられなかった最強の玉となった。
「もう1回、死ね!!!!」
俺は我を忘れて叫んだ。
皆何か叫んでいたけど、あんまり聞き取れていない。自分のことで必死だったから。
「嫌だ…!!!嫌だ………!!!雷風様…雷風様ぁぁぁぁ!!!!!………」
ボロボロ……
「……、あ………祓えた……?」
「祓えた……祓えたよ!!みんな!!!……」
全員、疲労と達成感でその場で倒れ込み、泣くものもいた。強大な敵にようやく打ち勝て、死ぬかもと思いもした。
しかしこうして皆生きている…。奇跡と言ってもいい。不可能に…打ち勝ったんだ……
――しかしまだこれは序章に過ぎない。




