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02

 俺の使う“魔法”は刻印魔法と言う。触媒となる物に魔法文字を刻んだ“刻印石”を使って魔法を発現させるものだ。刻印石なんて言っているが、石でなくても触媒となる。触媒の良し悪しはあるみたいだが、よくわかっていない。

というのも、この刻印魔法は“大地の魔力”を利用しているものなのだが、そもそもこの世界の住人は生まれつきみな魔力を持ち、刻印魔法とは異なる方法で魔法を容易く使える者がほとんどであるから、この魔法を使う人間はほとんどいないらしい。少なくとも自分が住んでいる地域で自分以外に刻印魔法を使う者を見たことがない。

俺がこの魔法を使っているのは、俺に魔力が無いからだ。だから、職場で付けられた名前は紋無し。

 

 刻印魔法と出会ったのは、一冊の古文書を偶然拾ったことから始まる。

 その頃の俺は、魔力がないから暗器による訓練を延々と行っていたが、魔法とその他の武器による殺傷能力の違いは全くの素人である自分にも簡単にわかるものであったから、生き残るため、職場に認められ使える駒と認識してもらうため魔法が喉から手が出る程欲しかった事を覚えている。訓練の過程で偶然“刻印魔法の本”を拾った時には、思わず神の存在を信じそうになったものだ。

それ以来、来る日も来る日も魔法の練習と仕事で使う上での工夫を凝らして、今日まで組織から捨てられる事なく生き延びてきた。


 思い出に浸りながら練習をしていると時間はあっというまだ。俺や他の従業員用に設けられた体育館程の訓練施設には、気づくと夕暮れが差し込んでいる。


 「今日はこのくらいにしておくかあ〜。使う頻度の多いヤツは上限だしなあ」


 刻印魔法には明確な弱点がいくつかあるが、そのひとつが“使用上限”だ。各魔法毎に一日で使える上限回数が存在する。理屈はわかっていないが検証を行ったところ日の出とともにリセットされるようだ。

日々魔法の練習に励んでいるのは、使っているといつの間にか一日の上限回数が増えるからだ。もちろん増える理屈もわからない。

 俺が主に使う魔法は“発火”、“加速”、“障壁”の三つで、これらの魔法を重点的に鍛えているが、魔法毎に回数増加の成長に差があり、現状だと発火は二十回、加速は四回、障壁は七回使用することができる。






 翌日も同じ訓練を終え、自室に戻る。


 「あちゃ〜、食べもんがほとんど無いな……」


 仕方が無いので買い出しにでかけて、ついでに今夜の食事は外食で済まそう。

 自室からそれほど遠くない町外れの酒場に立ち寄る。この地域のなかでも寂れた場所に位置するこの酒場は、立地自体は悪いが競合も近所に無いためいつもそこそこ賑わっている。

比較的暗い街並みに、突然明かりと賑やかな声が響いてくるこの店は少し異質に見える。

 店に入るとすぐに恰幅の良い男性が俺を出迎える。


 「おお〜!モンちゃん、久しぶりじゃねえか!」

 「親父さん、どうも。適当に座っちゃっていいかな?」

 「かまわねぇよと言いたいところだが、見ての通り今日は繁盛しててな。悪いが相席で頼む!席はあそこの席だ!」

 「わかった。いつもの激安定食一つと、酒もください」


 あいよ、と元気よく返事した親父さんは厨房に消えていく。

 指定された席に向かうと、やけに堂々とした座り姿の女性が席についている。


 「あの〜、すんません。混んでるみたいで相席で通されちゃったんで、向かい側失礼しますね」

 「ん?ああ、いいだろう。断りを入れるとは、このあたりでは礼儀正しい男だな」

 「はは、ありがとうございます」


 一言交わすと、女性はものすごく堂々とした姿であたりの喧騒に視線を移した。

小さいテーブルだ。無言はなんだか気まずい……。


 「お姉さんはどうしてこんなところ店に?」

 「ん?」

 「ああ、いや。ナンパってわけじゃないですよ!ただ見かけない顔だったから、こんな町外れに……」

 「私は最近このあたりに引っ越してきたんだ。職場には別の居所を勧められたんだが、人が多いのはあまり好きじゃないから適当に人が少ない場所を探したらこの辺りだった」

 「なるほど〜。いや、すみません急に聞いちゃって」

 「かまわない。沈黙が気になり場を繋ごうとしたんだろう?」


 分かっていても言うなよ……と、思いつつも料理が到着するまでこの女性と当たり障りのない会話をしていた。


 「———ところで、君は何をしているんだ?話しているとこのあたりには長いようだが」

 「ああ〜えっと、買い出しついでに外食を」

 「いやいや、仕事とかだよ。気を悪くしたらすまないけど少し言葉も不自由そうだし別の国から来たのか?」

 「はいよ!!お二人ともおまちどう!」


 ドンッと音をたて目の前に料理が置かれる。


 「嬢ちゃん、こいつはモンちゃんってんだ。この辺でやってる下働きの人間だよ!確かに外から来たから訛っちゃいるが、怪しいもんじゃあない」

 「あ、ああ、悪かった。ただの興味だ」


 その後はなんだか気まずく、お互い会話すること無く食事を終えた。俺の言葉、怪しく思える程訛って聞こえていたか……ショックだなあ。残った酒を傾けながら、自分の言語力に落胆する。

 先ほどから彼女が気にしている様にこちらをちらちらと見ている。


 「まあ、気にしないでください。自分の言葉がまだまだだって分かって良かったですよ!」

 「う、そう言ってもらえると助かる。そろそろ私は帰るとするよ」

 「ははは、また会った時は言葉でも教えてください」

 「わかった。約束しよう」


 女性が店を後にした後、しばらくして俺も買い出しをして自室に戻ることにした。この酒場は食材の販売も行ってくれるから非常に便利だ。


 「親父さん、さっきはありがとう」

 「なあに、おまえさん達がいるから俺らは安心して商売できるんだ。気にすんな」

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