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01

「や、やめてくれ!ほんの、ほんの出来心だったんだっ!!」

「ごめん、これが仕事なんだ」


 薄暗い路地裏で“魔法”によって発生した炎の明かりが広がり、男の呻き声がこだまする。男だったものが動かなくなることを確認し、その場を後にする。


 ここは“エルダリス”、歴史のある古い町だと聞いている。そこそこの規模はあるが首都ではない、首都の名前はなんだったか......聞いたことはあると思うが記憶していない。

 この世の名前は知らない。俺はこの世界の住人ではないから。


 何年ほど前だったか、俺はこの世界に突然迷い込んだ。その頃はまだ学生だったが、もう学生という年ではなくなっていると思う。

 たしか学校の帰り道だった。歩いていたら突然目の前に草原が広がり、見たこともない土地に立っていた。それから救助を求め彷徨い、たどり着いたのがこのエルダリスだったんだ。

 町を見つけたは良いものの、そもそも俺の言葉は通じないし、自分の元いた場所と比べると文明レベルがひどく低いものに見えた時、違う世界に来てしまったんだと自覚した。


 そこからはひどいもんで、言葉も通じない、身元も怪しい俺はあっというまにスラム街でごみを漁って生活していた。そしたらある時拾われたんだ、今の職場に。

 今の職場はわかりやすくいうとやくざ、というのが一番近い表現だ。ご近所さんの孤児たちとともに拾われた俺は、所謂鉄砲玉となるような訓練、教育を施された。

 良いのか悪いのか今の自分にはわからないが、当時のことがあってこそこの世界で今まで生き残れてきているのは確かだ。


「ただいま戻りました」

「今回も無事に終えたか、紋無し———」









 薄暗い路地で、複数の人間が慌ただしく動いている。


「完全に炭なっちまってますが、人です!!」

「“魔力波長”の検査結果はまだか!?まだかなり熱を持ってる!加害者はそれほど遠くに離れていないはずだ!!」


 数人が魔力波長検査装置を持ち出し、死体やその周りを検査している。そのうちの一人があわてたように口を開く。


「だめです!いくらやっても一人分の波長しかでてきません!それに出てくる波長はこの遺体と一致して......」

「そんなはずはないだろう!!こんな、こんな消し炭になるレベルの行為は魔法以外ありえん!よく探せ!それともそのポンコツは故障しているのか!?」


 少し離れた位置で現場を調査していた女性が集団に近づく。女性は集団の中では一番地位の高い人物で、他の人間は静まり返り彼女の言葉を待っている様だった。


「これは、魔力波長のない暗殺者の仕業だ。ここ数年同様の被害がこの町で出ているだろう」

「そ、それは単なる噂では......?だいたい、人は魔法を使わなくてもそこにいるだけで魔力波長を少なからず残しますし、とても現実的だとは」

「国はその噂をそろそろ本気にしているよ。私がこの町に派遣されてきたのがその証拠だ」

「騎士様......」

「とにかく、魔力波長以外にも物的証拠になり得そうなものが残されてないかくまなく探すぞ。拾えた魔力波長で被害者の特定も急いでくれ、なにか繋がるかもしれない」









 俺は職場から与えられた自室に戻っていた。いつも通り報告を終え、次の仕事へのインターバルだ。俺の仕事は毎日あるわけじゃない、必要な時に必要なぶんだけ稼働する。

 悪事を働いている事は理解しているが、生き残る為だととっくのとうに割り切っているし、一応こちらにも筋がある。みたいだ。

 今回の標的は、近頃この町に都会から入ってきた敵対組織の構成員だ。まあ、なにも入ってきただけじゃあ標的にはならないが、どうやらうちの“庭”を荒らすような真似をしてしまったらしい。


「またしばらくは休みかなぁ......」


 職場から寝床も与えられ、給料も貰っている。休みの間は“魔法”の練習をしているか、町に出て暇を潰しているかしかない。

 数年間訓練とともに言葉の教育も受け、ある程度会話ができる様にはなったが、いまだに町の人との会話には苦手意識がある。克服の為、町に繰り出している事も多い。


「でも最近町の方はなあ......向こうの“シマ”には不用意に近づくなって言われているし、ちょっと行きにくいよな」


 幾許かの時間考えた後、ひとまず今日明日は魔法の練習に時間を使う事にした。


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