盾と槍?
「いや〜驚きましたね」
「なにがでしょうか?」
「普通陞爵の儀で陛下があのようにお声がけする事は稀です。しかもハッキリと陛下の盾と槍になれと。それだけラティス殿に期待されているという事でしょう。いやいや、これからが楽しみですねぇ」
ちょっと待ってくれ。あれは常套句じゃないの? いったい国王陛下は俺のことをどう思ってるんだ。まさか本当に英雄の相を持っているとか思った訳じゃないよな。
確かこの時代の王は権力が低下し、他国や、国内の貴族から攻撃を受けることも多くあったと記憶している。
本当に俺を盾とか槍とかとして使えると思ってる訳じゃないよね。
大丈夫なのか? みんなの前でハッキリと「はっ」と答えてしまったので今更間違いでしたと言う訳にはいかないが、大変な事を引き受けてしまったんじゃないかと背筋が寒くなる。
「どうかしましたか?」
「いえ、大丈夫です」
「この後のパーティも楽しみですね。この度のこと既に参加者の方々にも伝わっていることでしょうから」
なんで今の密室での出来事がパーティの参加者に伝わるんだ。
この時代に機密とかそんな概念はないのか?
いずれにしても、とにかく、俺的によくない状況に追い込まれたことだけはハッキリとわかる。
重くなった身体を引きずるようにしながら、ギルバート達とヴィレンセ侯爵家へと引き返す。
「ラティス準男爵閣下!」
「ギルバート、やめてくれる?」
「いえ、ついにラティス様が準男爵閣下に! このギルバート夢のような思いでございます」
「声が大きい。準男爵閣下はやめて」
「ですが、聞きましたぞ。国王陛下から、直接陛下の盾と槍となるよう仰せつかったとか。これはもうラティス様がこの国の盾、そして槍となったと同義。レクスオール家に怖いものはございません」
「なんでギルバートまでその事を……」
ギルバートと合流するまで、どれほどの時間もなかったはず。それなのに、盾と槍の話が伝わっているなんて。
どうなってるんだ。
「ラティス様、おそらくは国王側に取り込む意図と、ラティス様の英雄譚に箔をつける意図があるのかと推察します」
「やっぱりそうだよなぁ」
脳筋軍団の中でもユンカーはギルバートよりは冷静に判断する力があるようで、ほぼ俺と同じ意見のようだ。
だけど、メルベール男爵領を引き継ぐと言っても所詮は準男爵、今の段階で取り込んだところで特にメリットがあるとは思えないのによくわからない。
面倒に巻き込まれなければいいなと思いながらヴィレンセ侯爵家まで戻ってくると、フェルナンド様が満面の笑みで出迎えてくれた。




