ベルメール男爵
今日一日神経を尖らせていたというのに、明日だと分かってしまえば、緊張が解けるはずもない。
昨日眠れなかったので、さすがに深夜意識を手放したが、晩飯はほとんど無味だった。
「ついにですな」
「ああ、そうだね」
ギルバートさんもわかっている。俺は気が重いというのにギルバートはやたら嬉しそうに見える。
「なんでそんなに嬉しそうなの?」
「それはもちろん、我らの力を見せつける事ができるからですよ。戦でこのような場所に捨て置かれるとはありえません。今日はラティス様が手柄を上げる日。嬉しくないはずがありません」
やはり、ギルバートとは根本的な考え方が違うと痛感させられてしまう。
そして運命の六日目を迎えたが、レクスオール軍は変わらず最後部でおまけ扱いだ。
最後尾で見ているが、昨日とそれほど大差ない動きに見える
昨日と同様にサンドニ軍が弓隊で攻撃をかけベルメール軍は弓を避けながら応戦している。
「動きがありませんな」
「そうだね。もしかしたらハズれたかも」
もしかしてレクスオール戦記の記述が間違っていたのかもしれない。百年以上前のことだからそういう事もあるかもしれない。
ただ、そうなると全くタイミングが読めなくなってしまう。
「どうやら今日はこれで終わりのようですな」
昨日まで同様、小競り合いを繰り返し両軍が別れ、夕刻が近くなったタイミングでお互いに引く素振りが見て取れる。
徐々に両軍の距離が広がり、ベルメール軍にも退却の意思が見て取れたその瞬間、サンドニ軍が動いた。
前面の弓隊が動き、中央から騎馬隊が槍を持ち引こうとしていたベルメール軍へと突撃をかけてきた。
「いけえええええええええ〜!」
「突撃〜!」
「狙うはベルメールの首!」
「ぐおおおおおおおおおおおお〜!」
気を抜いていたわけでは無いと思うが、引こうとして後方に意識が向いていたベルメール軍の本体は前衛の対応が遅れ
突破される。
突破口から雪崩のように次々とサンドニ軍が押し入ってくる。
「うあああああああああ〜」
「ぐぎゃああああああ〜」
「ひいいいいい〜」
「止めろ〜! 食い止めろ〜!」
「無理だ〜!」
「通すな! ここを通すな! 死んでも止めろ〜!」
混乱したベルメール軍はサンドニ軍が突撃をかけた箇所から左右に真っ二つに裂け、陣形の中心部分がポッカリと開き、道が出来てしまった。
「いけええええええ〜! あそこに見えるはベルメール男爵!」
「その首よこせえええええ〜!」
「ひいいいいい〜! お前ら、いけえええ〜。わしを護るんだ〜!」
道の先にはベルメール軍の本陣、ベルメール男爵の一団がいた。
ベルメール男爵を護る騎兵がサンドニの軍を迎え撃とうとするが、突っ込んで来たサンドニ軍とは勢いが違い、接触した瞬間弾かれ飛ばされてしまった。
「覚悟〜!」
「ひいいいいい〜」
ベルメール男爵は背を向け必死に後方へと逃げ込もうとしているが、サンドニの騎兵の一人が手に持つ武器を投擲すると見事ベルメール男爵の背に命中した。
『ドサッ』
ベルメール男爵はその場で馬から落ちた。




