交戦
戦場ではあまりにも贅沢な望みだが、戦場のご飯の不味さは格別だ。
緊張から舌が味を感じる事を拒否しているのかもしれない。
食事を終え、特にやる事もないので早めに寝床に着くが、やはり眠れない。
これは慣れてくると普通に眠れるものなんだろうか。
外からは兵達のいびきが聞こえてくるので眠れてるんだろうな。
だけど、俺が本物の戦場にいるなんてこの場になっても信じられない。
突然戦場で気が付いたらラティスに仕立て上げられて、今も俺はなぜかラティスだ。
リクエの戦いの後、どうにかして元の時代に帰れないかと考えてみたけど、どうやって来たのかもわからないので帰る術なんか思いつくはずもない。
それに落ち着いて考えてみると、本物のラティスが死んでしまったこの時代から俺が居なくなってしまうとまずい事が起こる気がする。
子孫たる俺の存在も危ういし、お父さんや妹の存在も危うい気がする。
これでもお父さんや妹の事は家族として大事に思っているので、自分の命を含めそんなリスクは冒せない。
つまりは俺に残された道はひとつ。
この時代のラティスとして生き、レクスオール戦記をなぞる。それしかない。
だけど、ラティスは戦記の主人公となるだけあって波瀾万丈。
正に英雄一代記そのもので、群雄割拠の覇者。幾多の戦いを勝ち抜き南部の覇者へと駆け上ったのだ。
まだ序盤も序盤でこんなにヒィヒィ言ってる俺にこれからどうにかできるんだろうか。
とにかく一日一日を生き抜くために頑張るしかない。
翌朝、寝不足気味になりながらもなんとか起き出し、また戦場へと向かう。
朝起きたら戦場へと向かう。こんな生活嫌だ。嫌だけど頑張ろう。
昨日と同じく後方へとつき戦況を見守る。
「昨日より、サンドニ軍は引き気味ですな。弓隊を投入してきてますな」
「こっちは変わらずっぽいけど」
「まあ数がいますからな」
サンドニ軍が昨日よりも弓矢を多用した事で、両軍の距離は昨日ほどは詰まらず、痛み分け。厳密にいうとベルメール軍の被害の方が多かったように見える。
「サンドニの奴ら我らに畏れを成したと見える」
「このまま押せば近いうちに落ちますな」
「さすがはベルメール男爵様」
「それほどでもないがな。ハッハッハッ」
昨日同様の軍議が始まり、特に案も無いまま終わってしまう。
俺は軍議なんか参加した事もないので、こんなもんなのかも分からないがイメージだともっと作戦を練るんじゃないかと思うが、俺の出る幕ではないので大人しくしておく。
「ラティス様」
「昨日と同じだよ」
「そうですか」
そんな感じで二日間が過ぎた朝グラディスが声をかけてきた。




