薄味の朝食
「ラティス様〜ビルドワースです! お目覚めになってますか〜! ラティス様〜!」
う〜ん、外から誰かの声が聞こえてくる。
ラティスって誰だろう。ビルドワース? 俺には関係ないな……
「ラティス様〜! まだ寝ているのですか〜!」
うるさいな。ラティスって誰? 俺はレイシア……俺だ。ラティスって俺のことか!
寝起きではっきりしない意識の中で、自分が呼ばれていることに気がつき一気に目が覚める。
ビルドワースさんか。
「は〜い、ちょっと待ってください」
俺は返事をして急いで支度をする。
「いててて」
全身が痛い。特に腕と内腿が痛い。一日ベッドで休んだくらいでは、全身の筋肉痛が治る事はなかったようだ。
痛む身体を無理やり動かしてビルドワースさんの下へと向かう。
「ラティス様、よく眠れましたか?」
「いや、それが、お腹が空いて……」
「あぁ〜ギルバート様。何も考えてなかったんでしょうね。確かにお屋敷には誰もいませんし、そうなりますか」
「はい」
「それでは、ちょうどいいです。町の食堂で朝食としましょう」
「本当ですか! それは助かります」
どうやらビルドワースさんはギルバートさんよりは気がきくのかもしれない。
そのままビルドワースさんに連れられ、しばらく歩き小綺麗なお店へと入った。
「いらっしゃ〜い」
「朝飯を二つ頼む」
「はいよ〜」
恰幅の良いおばさんが注文を受けてくれた。
「ビルドワースさんは、ここにはよく来るんですか?」
「いや、一応家に家内がいるので、たまにですよ」
「そうなんですか。ビルドワースさんは、レクスオールの偉い人なんですよね」
「いや、別に偉くはないですが、専従の兵士の一人ではあります」
「お店の人って兵士の人にもあんな感じなんですか?」
「ああ……レクスオールは田舎ですから。王都や街に行けば兵士や騎士と町民の区別は大きいでしょうが、ここではこんなもんです」
「そう。いい町なんだね」
「ええ。だからこそ護り抜かねばならないのです」
俺が元いた場所でもこんな感じだった。
上位貴族や騎士に対してはそうではなかったけど、末端の俺への態度はこんな感じだったので、気楽な感じで助かる。
「はい、おまちどうさま」
おばさんがそういいながらスープとパンを並べてくれた。
「いただきます」
スープを口に含むと味が薄い。
お腹が空いているので美味しいのは美味しいが、やっぱり味が薄い。
野菜が少しと、肉の欠片らしき物が入ってはいるが、スープの大部分はお湯だ。
そしてパンも硬い。
戦場でも感じたが、やはりこの時代の食事は俺の食べていたものよりも質素で美味しくない。
やはりレクスオール領が貧しいのか? それともこの時代はこんなもんなのか?
色々考えながらも、お腹が空いていたのであっという間に完食してしまった。
「どうでしたか? 美味かったでしょう?」
「うん、まあ、美味しかったよ」
「そうでしょう。ここは評判の店なんですよ」
ここが評判という事はやっぱり、薄味が当たり前なんだな。
「ビルドワースさん、みんな薄味が好きなの?」
「薄味ですか?」
「そう、もっと塩が効いててもいいんじゃないかな〜なんて」
「塩ですか。塩は貴重品ですからね〜。全部他領からの輸入に頼ってますから」
「レクスオールじゃ塩は取れないんですか?」
「取れませんね。海もないですし、岩塩もとれないです」
それでか。塩が貴重品だからこんなに味が薄かったんだな。もし本当にこのままラティスの役を続けないといけないなら食事は大事だ。
毎日のことだし、最優先で塩をなんとかしたい。




