基礎・初級実践テストに向けた強化合宿とピンクの髪色対策2
ゆるふわ設定でお届けします。
何卒ご容赦くださいませ。
ご都合主義です。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
神官はスタスタと歩いて行ってしまった。
「神官だから戦えない、弱いと決めつけていた自分が恥ずかしい」
「戦える神官がいるなんて思わないから、仕方がないですわ」
「学園の基礎・初級実践テストってこれ以上なのかしら?」
「魔法師団はもっと凄いって事だよな!?」
「魔術師団手配しなくて良かった…」
「しかし、テスト前には訓練に付き合ってもらわないと、実際の経験者達だし…神官も経験者か」
『ミシェル様が目を覚ましましたよ』
「ミシェル!!」
セインは起き上がって走り出した。
「あいつ、走れるの凄いな、ミシェル嬢の顔を見に行きたいけど、ちょっと無理」
「無理ですわ、すごく眠いですもの」
「クロードはもう寝てるわ、私ももう無理」
◇
ミシェルの部屋のドアは開いていたので、そのまま駆け込んだ。ミシェルはベッドで上体を起こしていた。
あの日、あの時、血の気の失せた顔では無く、涙で濡れた不安と悲しみの顔では無く、健やかな、穏やかに笑う彼女が、そこにいた。
「ミシェル」
侍女達の顔が一瞬曇った。セインが汗と血や土で酷く汚れていたからだ。そんな侍女達の顔を見た神官は、セインがミシェルに近付く寸前に浄化をかけ綺麗にした。
「良かった、目が覚めて。僕を救ってくれてありがとう。君をもう危険な目には遭わせないとやく…」
セインはミシェルを抱きしめながらそれだけ言うと、そのまま眠ってしまった。
「セイン様!? あの? どうなさったのですか? セイン様? お、重いですわ」
「ミシェル様、セイン様は朝の実践訓練を終えて疲労困憊なのですよ。私が運びましょう。午後の訓練はミシェル様も、参加して下さいね」
「神官様、ミシェル様はお目覚めになられたばかりです。訓練など早すぎます」
「そうですよね。早いですよね。実践訓練ですからね」
セインに抱き締められた事で真っ赤になってしまったミシェルは、「もう少し寝て下さいませ」と侍女に寝かされてしまった。
◇
演習場で寝ていた4人を護衛の魔法師数名が運んできた。
「神官、彼らを頼みます」
情報漏洩を防ぐ為、演習場は使用中結界が張られており、外からは見る事が出来ない。実践訓練中、護衛は全員外で待機させられていた。
「入学して1ヵ月ちょっとだろ? 普通は少しは戦えるよな?」
「そうだな、基礎と初級だけでも結構戦えたよな」
「今時の学生は、こんなに弱くなったのか…神官1人にボロボロになるなんて」
「学園じゃなく王宮で実践訓練する位だから、まあ戦闘に慣れて無いってのもあるんだろうけど」
◇
お昼に起こされ、食事の準備が出来ていると伝えられたので、みんなにも会いたいので食堂で取ると伝え、食堂へ急いだ。
「みんな、心配かけてごめんなさいね。そして、心配してくれてありがとう」
「ミシェル嬢、元気になって良かった。すぐに駆け付けられなくてすまない」
「ドミニク王子、気になさらないで下さい。実践訓練でしたのでしょう? 初回に出られず申し訳ありません」
そんな事気にしないで欲しい、元気になって良かったと口々に言われた。ただ、どこか雰囲気がみな暗い。
「実践訓練で何かあったのでしょうか?」
「あまりに自分達が弱く、何の知識も無く、みんな打ちひしがれているんだよ」
セインが口を開いた。
「そんな、まさか!」
それから、ドミニク王子が実践訓練の状況を詳細に教えてくれた。
なんと、あの神官は執着系のあれでは無く、鬼畜系だった。
「だから、対策を立てないとまるで勝ち目は無いのだけれど、対策の立てようが無くて、実践訓練が憂鬱」
エマが元気の無い声で、そんな事を言うなんて。
食事が済んで、お茶を飲んでいると、神官が入ってきた。
「みなさん、良くお眠りだったので、回復をかけて起こしましたよ。昨日のミシェル様と同様に、魔法力が枯渇したのです。寝ていれば回復するものを、無理矢理回復させるのは好きでは無いのですが、あなた達はやる事が沢山ありますからね」
「また、今朝と同じ訓練を繰り返すのでしょうか?」
「ええ、そうなります。但し、あなた達には座学も必要なのだと思いまして、ここでこのまま始めますね」
神官は楽しそうに言うと、侍女にお茶やお菓子の準備をさせていた。
「さて、気楽にやりましょうね。早朝の1番目の死因は何でしたか? クロード様」
「窒息です」
「では、皆さんは何故窒息したのでしょう?」
「空気が吸えなくなって、いくら吸っても空気が吸えなくて、周囲の空気が無くなったからかしら?」
「皆さんもキャサリン様と同じ答えですか?」
皆が頷いた。
「空気を無くしても良かったんですけど、単純に皆さんの首を絞めたのですよ。では何故あの時反撃出来なかったのでしょう? ドミニク王子」
「私は、息が吸えなく苦しくなり、何をしていいのか分からなくなった」
「そうですね、その状況が恐慌であり混乱ですね。息が吸えないと本能的に死ぬと思いますから、恐怖に支配されたのです。そして死ぬかもしれないと言う状況から脱した後、冷静になれずに簡単な恐慌状態にかかり、額に小石をぶつけられたのですよ」
「穴に落としたのは冷静さを取り戻させる為だったんですね」
「その通りです。セイン様。あのままですと訓練にならなかったもので。その後、冷静さを取り戻し作戦を立てたのでしょう。ただ、あなた達は思い込みが激しいのと柔軟性に欠けるのです」
「思い込みと柔軟性ですか…具体的に教えていただけないでしょうか」
「よろしいですよ。セイン様。皆様少し散歩をして気分転換しましょうか。行きましょう」
外で控えていた侍女に、戻ってくるのでそのままにと話して、神官はスタスタと歩き始める。
「昨日私達が実践訓練をした所ははどこですか? エマ様」
「練習場です」
「そうですよね。当たり前の事を聞いてしまいましたね。ではそこまで散歩しましょう」
練習場に入ると、また神官が当たり前の事を聞いてきた。
「私達は今どこに滞在していますか? セイン様」
「王宮です」
「私達が今いるのはどこですか? ドミニク王子」
「練習場じゃないか! 何故当たり前な事ばかり聞く? ん? 当たり前な事…ここは王宮だから、演習場のはずだが…」
「ようやく気が付きましたか。よく見て下さいここの演習場を」
今まで見えていた風景が変わっていって驚き言葉を失った。ミシェルは何が起こっているのかさっぱり分からなかった。
「王宮の演習場は第一から第四までありますね。ここ、第一演習場は何も無いのです。皆さんが逃げ込んだ森も、私には丸見えでした。実際には森など無いのですから」
「一体どうやって…」
「不思議ですよね、ドミニク王子。私は訓練の前日に皆さんに練習場でお待ちしておりますと、そして当日、練習場を上手く使ってくださいと言いました。皆さんは前日から練習場のイメージをされていたので、当日そのイメージを強化したのですよ」
「実践訓練は前日にもう始まっていたという事か」
「そうですね、クロード様。皆様、戦うという事は、常に冷静でいる事です。自分の状態を把握する事も、どこにいるのかを確認する事も、混乱状態にならない事も、全て冷静でいる事が何より大切とお分かりいただけましたか? では戻ってお茶の続きを楽しみましょう」
「いい感じの木の枝を探したのです。あれも思い込みからのイメージなのでしょうか? それとも本物なのでしょうか?」
「キャサリン様、全てに疑問に感じる事は素晴らしい事ですよ。あれはいい感じの木の枝をいくつか置いておいたのです」
食堂に戻ると神官はお菓子を食べながら、話しを続けた。
「ミシェル様はセイン様にかけられている魅了を、どの様にしようとしたのです?」
「状態異常回復をしようとイメージしました。内側から完璧な状態になるように」
「では、皆さん他に、どの様な方法があると思いますか?」
「マーサは状態異常無効、状態異常回復、魅了抵抗、魅了無効、防御結界と言っていたな」
「ええ、そうですわね」
「神官は恐慌が使えれば魅了に対抗出来ると言っておられました」
「そうですね、恐慌は有効でしょう。他には?」
何も思い付かず、皆黙り込んでしまった。
「皆さんは真面目なのでしょうね。ですからマーサさんが言った言葉を基準に考えてしまうのでしょう。必ず腕を触ると言っていましたよね? 手を切り落とせばいいじゃないですか。単純な事です。物騒な方法ですけれど」
「実際、その様な事は出来る訳がない」
「そうですね、ドミニク王子。これは考え方を話したのです。では切り落とさずに手を使えなくするには? 触られた所から魅了の効果が入ってこないようにするには?」
「出来るかどうかは分からないが、風を薄く纏わせて実際には触れられていない様にするのはどうだろうか」
「とてもいいじゃないですか」
「私の火魔法では難しいわ」
「そうでしょうか? 何故です?」
「燃えてしまいますし、どちらにも怪我を負わせてしまいます」
「火は熱いものだと囚われているのですね。熱くない火を作ればいいじゃないですか。火が必ずしも熱い必要は無いのです」
「熱くない火を作る?」
「皆さんは色々考えを出し合ってみてください。夕方実践訓練をしましょう。すぐに死んでは嫌ですよ」
神官は、にこにこしながら出て行ってしまった。教えている途中で行ってしまうのかと皆が呆気に取られていた。
「魅了につては後回しにして、実践訓練の作戦を立てよう。同じ事をしていては今朝の二の舞になる。先ず最初の攻撃を回避するか先手を打ちたい」
「ドミニクの言う通りだな。我々の問題点として、叫びあってるから手の内がバレてしまう。防御が驚くほど無い。混乱に弱い。連携が取れていないと言ったところか」
「風魔法でも声が聞こえてしまいますものね。手紙のようなメッセージカードのような感じか、私達だけに聞こえるようにしないといけませんよね」
「何て言えばいいんだろう、最初から通信出来る魔法をかけておくとかかしら」
エマが困惑しながら言った言葉で私は何かを掴みかけたような気がした。
「……私はセイン様に回復魔法をかけた時、セイン様にだけ届くようにと魔法力を伸ばしました。それを全員に伸ばせば何か出来ないでしょうか? ちょっとやってみますね」
全員が全員と繋がるように。回路の様に魔法力を繋げていった。これをこのまま設置してしまえれば私の魔法力消費は抑えられるのよね。
「全員に繋げました。ただこれを固定して設置するような事が出来なくて、状況を聞くに、あまり魔法力を削りたくは無いのです」
「ミシェル、そこに索敵を付けてみるよ。ちょっと待って」
クロードが真剣な顔で魔法力を操っている。
「これは!? みんなの場所がわかるな!! 声はどうだろうか。直接頭に響きそうじゃないか? 試してみよう」
『打倒神官』
『聞こえますわね』
『すごいわ』
『例えば全員じゃなく3人とか出来るのだろうか』
『キャサリン様、エマ聞こえます?』
『私達だけに聞こえてるのかしら?』
『確認してみましょうか』
『どうやって確認するのです?』
『キャサリン様、ドミニク王子愛してると言ってみて下さい』
『聞こえてても聞こえて無くてもそれはいいわね』
『2人共私の事からかって。ドミニク王子愛してますわ』
「女性陣は随分楽しそうだね」
「ドミニク王子に聞こえなかったのが残念ですわ」
「一つ問題が解決したね。次は防御を何とかしよう。どんな攻撃を受けているのかを正確に把握する事も出来れば防御が遅れたり、弱くても対応する事が出来るはず」
「そうだなセイン。さっきドミニク王子が言っていた風を薄く纏わせて実際には触れられていない様にすると言っていたじゃないか、そしてミシェルも魔法力を繋げた。自分の魔法力を薄く身に纏う、あるいは薄い膜を張れば。感覚はより鋭敏になるのではないだろうか?」
「みんな、やってみよう! キャサリン少し疲れたのかい? 飲み物を頼んでくるよ」
ドミニク王子が侍女に大目に果実水と紅茶を用意するように伝えていた。果実水は正直私も有難い。魔法力を身に纏う、薄い膜の様に張る。自分に結界を張るみたいね。自分だけにに集中し魔法力を身体全体に伸ばしていく。
「おい! エマ嬢、クロード、身体が全体が真っ黒になっているぞ! 暗闇で纏うのではなく魔法力だ! アハハハハハハ それはそれで攻撃に使えそだ!」
ドミニク王子の爆笑につられて、みんながエマとクロードを見て大笑いした。久々にこんなに笑った気がする。エマとクロードもお互いを見て大爆笑していた。
最初の攻撃は、首を絞められたが、次はもっとエスカレートするだろうと私達は予測した。神官様の鬼畜っぷりが振り切っているから。
いきなり臓器を止められかねない。気乗りはしないがペアを組んで、相手を窒息させる事にした。もちろん回線を使う事も出来るし反撃もできる。
開始から5分で終了する。
くじ引きで攻守が決められた。
攻撃:ミシェル、クロード、ドミニク
防御:キャサリン、エマ、セイン
私達はテーブルを挟んで攻守に分かれて向かい合った。作戦会議を3分取った後に開始だ。
『ミシェル嬢、クロード、僕たちは愛する人がどんな状況になっても冷静にそして攻撃を続けなければいけないし、迎撃もしなければいけない』
『はい。 はい』
『ミシェル嬢はキャサリンを、クロードはセインを私はエマ嬢を攻撃しようと思慮したがどうだろうか』
『私は構いません 俺もそれで大丈夫です』
『窒息の方法はどうしますか?』
『それぞれに任せる』
『キャサリン嬢、エマ嬢、僕達はこれから愛する人達から攻撃を受ける。だがこれは訓練で、憎しみを持たれている訳ではないから、悲しまず冷静に戦況を分析して反撃しよう』
『はい。 はい、誰が誰を攻撃するかは分かりませんものね』
『それを含め分析が必要だね。窒息の方法もそれぞれ違うと考えた方がいい』
『最悪、攻撃に対応できなくても、こちらから反撃は出来ますのもね』
『ああ、頑張ろう』
◇
『キャサリンです。私は空気の流れを遮断されているようです。顔に何か張り付いているような!』
『エマです。風での流れで空気を、私の周りの空気を奪っているようです』
『セインだ。魔法力で首を絞められている。闇魔法のようだがエマ嬢、相殺出来る気力はあるか?』
『私はエマの風を何とかしてみます。エマ、ビックリするだろうけど私を信じて下さい。出来れば大袈裟に苦しんで!』
『私はこのままミシェルに攻撃をしかける。空気の遮断はミシェルの魔法力だろう』
ここ迄で30秒程だ。
セインが土壁でミシェルの全身を隙間なく覆ったのとキャサリンが爆炎でエマを燃やしたのは同時だった。キャサリンへの攻撃は止まった。炎は周りの風を奪い威力を増す。クロードの魔法力が乱れる。すかさずエマが闇魔法を相殺した。
キャサリンがエマの火を消し、3人の周囲を取り囲むように灼熱の炎で取り囲んだ。そこにエマがアレンジを加えた血の暗闇を、セインが砂塵を乗せた。
『ミシェルです、身動きできませんが、皆さんを回復するのに専念します』
『クロード、狼狽えるな。大丈夫だ。向こうに暗闇を頼む』
『何!? 血の匂いがする、気持ち悪い!』
『落ち着けミシェル。こんな事するのエマしかいない』
リーンリーンリーン
終了の合図がなった。
反省会をしようにも部屋が半壊しており、これはお説教コースだが、今は時間が無いので書置きを残して逃げる事にした。
ドミニク王子の部屋へ移動し反省会を行った。
最後までお読みいただきありがとうございました(*'ω'*)
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