98.第七王子は狂戦士となる
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ある日の、俺の館にて。
俺の部屋には婚約者のサラディアスこと、サラがやってきた。
「ノア様。実はご相談が」
「まーた厄介ごとかよぉ~……」
もうやだなぁ~はぁ~……。
「実はソロモンのすみかを調査していたところ、呪物を発見したのですわ」
「あん? じゅぶつ?」
サラがうなずく。
その隣には聖騎士がいて、彼女の前にしゃがみ込む。
聖騎士の手には木で作られた箱があった。
ぱかっ、と開けると……。
「手甲か?」
真っ黒でギザギザの、ちょーいかすデザインの手甲が納められていた。
そこから紫色の煙が立ち上っている。
「う、ぐ、ぐうがぁああああああああ!」
聖騎士が急に叫び出す。
「いけません! 瘴気に当てられてしまって、暴走してしまいますわ!」
サラが箱を奪い取り蓋をする。
箱には呪符が巻かれていた。
『聖騎士って悪魔付きとかの訓練してるはずっすよね。それでもとりつかれそうになったってことは……』
白猫ロウリィが恐る恐る、呪物のしまってある箱を見る。
「ま、そーとー強力な呪いだろうな」
しかし……呪いのアイテムか。
そ、そそるぜ……!
『ノア様、また闇がもれてるっすよ』
おっといかん。
気を抜くとすぐに、闇の大賢者時代のときの俺が顔をのぞかせる……。
今の俺はただのノア・カーターなの!
俺は呪物の入った箱を手に取って椅子に座る。
「ソロモンは呪物……呪いのアイテムも収集していたようですわ。その【狂戦士の手甲】はそのひとつ」
「ほ、ほほぅ……狂戦士ねえ……な、なかなかかっこいいネーミングじゃなーい?」
『ノア様闇ってるよ』
なんだよ闇ってるって……。
あれか、闇が漏れてるってか?
「その手甲はかつて偉大なるドワーフの王族が作った最強の防御甲冑……になるはずでしたの」
サラが調べたらしいことを教えてくれる。
「しかしドワーフ王は志半ばで死に、この手甲だけが残されたのですの」
「はーん。その怨念がしみついてるのな」
「どういたしましょう……呪いのアイテムなんて、破棄してしまいたくても、これを壊せる人なんてノア様くらいしか」
なるほどね。
呪物をほっとくと誰かに悪用されるかも知れない。
かといって残してても困る。
で、お鉢が回ってきた訳か。
「俺に任せな!」
『ノア様、さっきまでのやる気のなさはどこいったんすか?』
足下の白猫がじろっと俺をにらみつける。
「だってこれ、めっちゃかっこいいじゃん! 呪いのアイテムとか憧れる~」
『しまったこのひと、厨二病だった……』
ええ~。かっこいいじゃん……。
ったく、これだから女は、ロマンがわかってないね。
「んじゃさっそく」
俺は箱を開けて、黒い手甲を左手につける。
「いけません! ノア様! それは身につけると狂戦士の意思にとりつかれて……」
「う、うぐ、ぐわぁああああああああああああああああああああああ!」
俺は突如として叫び出す。
「やっぱり! ノア様!」
「近づくんじゃねえサラぁああああああああああああ!」
びくんっ、とサラが立ち止まる。
「ぐ、うぐうぅ! 静まれ俺の左腕ぇぇええええええええええええ! ぐわぁあああああああああああ!」
サラと聖騎士が遠巻きに俺を見ている。
「俺のことは……いい。部屋を……出て行け! でないと……自我が保てるか……こ、ころす……ころして、やるぅうううう! うぉおおおおお!」
「ノア様!」
「いけません! ノア様は呪われてしまったのです!」
聖騎士がサラを止めようとする。
「でも!」
「ここはいったん逃げて体制を整えるのです! でなければ、狂戦士の呪いにかかったノア様に斬り殺されてしまいます!」
「うぐ……! そ、そうだ……今は、俺が抑えておく……! だから……ぐっ! 左腕が……うずくぅ!」
サラが真っ青な顔をして、決然とうなずく。
「ノア様! 待っててくださいまし! 優秀な呪術師をみつけて、必ずや呪いを解いて見せます!」
サラがバタン、とドアを閉める。
と同時に俺は溜息をついて椅子によいしょと座る。
『で、なんすか今の?』
「くくく……よくぞ聞いてくれた!」
『あ、いつもの馬鹿ムーブね』
「最後まで言わせてよぉ!」
はぁ、とロウリィが溜息をつく。
『んで、その呪物って偽物なんすか? ノア様生きてるし』
「いいや、ちゃんと呪われてたな。身につけたやつが狂戦士化して、死ぬまで暴れ回る強い呪いがかかってる」
『じゃあなんであんた無事なんすか?』
「え、死の呪いくらいじゃ死なないでしょ? 普通」
『久しぶりに聞いたわ、あんたのその【俺何かやっちゃいましたムーヴ】!』
俺は最強賢者だった。
魔法や呪いに対する耐性は人一倍強いのである。
「いやぁ、それにしてもこの手甲、ちょーかっけーなぁ~。デザインが素晴らしい。呪われてるのもグッド!」
『うげぇ、ばっちーっすよ。呪いなんて』
「ばっかおまえ、呪われてるからいいんじゃないか。ちょーイカすわ。作ったやつは天才だね」
身につけたら狂戦士となって狂い死にするアイテムを前に、さて、と俺は言う。
「コレを使って……かっこ良く、【悪の帝王】らしく死ぬぞ!」
『はいはい』
「ねー聞いて! ねーもっと興味もって! くいついてよぉ~!」
ロウリィが死ぬほど興味なさそう……!
『ノア様も98話も連載して、ちーっとも進歩しないの、さすがに読者にあきれられるっすよ』
誰だよ読者って。
「聞きたまえロウリィくん。今回の作戦はこうだ。ズバリ【呪われて狂死! あわれ悪の帝王の末路】作戦だ!」
この狂戦士の手甲を身につけて、最終的に狂い死にするって作戦よ。
「狂って死ぬって、為政者の末路っぽくてよくない?」
『はいはいさノさノ』
適当すぎる!
「まだ作戦開始すらしてないでしょ!?」
『まーどうせ成功するから、前さノしておこっかなって』
前借りならぬ前さノ!?
ま、まあいいさ……!
「見事に狂死してみせるぜぇ!」
『普段から狂ってるようなもんじゃ……あ、やめて、尻尾をそんなふうしちゃらめぇ!』
★
「ぐぉおおおおお! 静まれぇええ! 俺の左腕ぇええええええええ!」
俺の部屋にて。
サラのやつが呪術師のじいさんをつれてきた。
「どうですの! ノア様の呪いはとけますの!?」
だが呪術師はふるふる、と首を横にふる。
「無駄ですじゃ。そうとう強い怨念にとりつかれておる。身につけたら最後……狂い死ぬ」
「そんな……!」
顔を真っ青にするサラ。
一方で俺は……。
「うぐ……右腕が! うがぁあああああああああああ!」
「ノア様! ああなんてこと! 右腕にも同じデザインの手甲が!」
俺の両腕には黒い手甲が装着されている。
「左手の呪いが進行したのじゃろう。ああして全身に呪いが回って最後には……」
「ノア様! ああ、ノア様ぁああああああああああああ!」
「こうなってはもう無理じゃ。せめてこの部屋に結界を張っておき、彼が出てこれないようにするしかない……」
呪術師とサラが出て行く。
「ふぃー」
『ノア様、呪いが進行したんすか、それ?』
ロウリィが俺の右腕を尻尾で指す。
「あ? ちっげーよ。俺が作ったんだよ」
『作った?』
んふー、と俺が鼻息荒く言う。
「この手甲ちょーかっこいからさ~。逆側の手甲も作っちまった。ほら、呪いっていったら、全身に回る描写がいるだろ? それをこれであらわすの」
呪いが進行していく、それを鎧にとりつかれるみたいにしたいの。
『ノア様ぁ。だから余計なことしないほうがいいんじゃないすか? 今までそれで何度失敗したんすか? 馬鹿なの? シングルタスクなの?』
シングルタスクって二回もいいやがった!
「いいじゃあねえか。この鎧かっけーんだもん。完成させたいじゃあないか、完全なる狂戦士の呪物をさ」
右腕の手甲は、左手のものを参考に、俺が作ったのだ。
『ノア様って鍛冶までできるんすね』
「真の剣士たるもの、自分の武具は自分で作らんとな」
『呪いの武具を自分で作っちまう剣士なんてあんたくらいっすよ……』
「くくく! この調子で呪いのアイテムを作ってやるぜぇ!」
★
こうして俺は狂戦士の呪いのアイテムを自作することになった。
呪いが進行する描写として、左腕だけだったパーツを、右腕、左足……と全身のパーツを完成させる。
そして……。
「ああついに! ノア様が、お顔以外の体全身に呪いが回ってしまいましたわ!」
俺の部屋にサラと呪術師が来ている。
よよよ……とサラが涙を流してる。
「さ……ら……」
「ノア様!? まだ意識が残ってますの!?」
てゆーか最初から別に狂ってないけどね。
「信じられん……とても正気を保てるとは思えない。なんという精神力……!」
あの呪術師のじいさんもてきとーなこといいやがって。
まあいい。
ここがクライマックスだ。
悪の帝王っぽく、かっこよく死ぬぞ!
「さ……ら……愛してた、ぞ……」
「ノア様ぁあああああああああああ!」
俺はあらかじめ作っておいた、狂戦士の甲冑の、頭部パーツを空間から出す。
頭にかぽっとかぶる。
これで、完全に呪いの鎧が完成したわけだ!
「呪いが完成してしまった! ノア様はこれで、もう戦うことしか考えられない化け物になってしまわれたのだ!」
「うう! ノア様!」
と、そのときだ。
ぱきーん!
と、甲冑が体から勝手に、パージされた!
「なにぃいいいいいいいい!?」
驚く俺と呪術師。
俺の周りには呪いの甲冑のパーツが、散らばっている。
「信じられぬ! 呪いのアイテムは、1度身につけたら2度と外れぬはず! だのに! なぜ!?」
しゅうう……とパーツから瘴気が立ち上る。
煙は集合し、やがて一人のドワーフとなった。
「なんだてめえ!?」
『わしはドワーフ王じゃ』
ドワーフ王!?
誰!?
『左腕のパーツを最初に作ったドワーフさんでしょ』
ロウリィが溜息交じりに言う。
あ、そっか!
『ノア殿……ありがとう。わしの未練を晴らしてくれて』
「み、未練だぁ??」
こくん、とドワーフ王がうなずく。
『わしの未練。それはこの、世界最高の甲冑を完成させられなかったことだ。道半ばで死んでしまい、悔しいという思いが甲冑を呪いのアイテムに替えてしまった……』
ぐっ、とドワーフ王が歯がみする。
『わしを馬鹿にされるのは良い。だが、この鎧が永遠に完成しなかったこと、そして、狂戦士の甲冑などという、不名誉な呼ばれかたをされ、忌み嫌われるのが、いやじゃったのだ……』
しかしと彼が続ける。
『ノア殿。あなたはこの甲冑をほめてくださった。それだけでなく、完成まで導いてくれた。ありがとう……これでもう、思い残すことはない……受け取ってくれ、【世界最高の鎧】とともに、わしの思いを』
そう言って、ドワーフのじいさんの怨霊は消えていった。
「えっとぉ~……」
「さノですわ!」
サラが涙を流しながら俺に抱きつく。
「呪いのアイテムを壊すのではなく、とりついた無念を晴らしてしまわれるなんて! なんとお優しいのでしょう!」
あれぇええええええええ!?
これ、また俺やっちゃった流れぇ!?
『あーあー。やっちゃった。最初から一発で呪いで死んだってすりゃよかったのに。時間をかけて完成なんてさせるから、こーなるんすよ』
やれやれ、とロウリィが溜息をつく。
「さノ! さノですわ! やはりノア様は慈悲深く、お強い、最高の男性ですわぁ!」
ああもぉおおおおおおお!
引退もできないうえに、まーーーーた好感度あがっちまったじゃねええかぁあああああああああ!
「どうしてこうなるのよもぉおおおおおおおおおおおお!」




