92.第七王子は父親の病を治す
英霊達をぶっ倒してしまった俺。
その後父親を呼び出したら、なぜか幼児退行してしまった……!
カーター領の、領主の館。
俺の部屋にて。
「ほぎゃー! ほぎゃー! ほぎゃー!」
いい年した大人が、ベッドの上で赤ん坊のように泣いている。
こいつこそ俺の親父。
城から追放されて、俺のセカンドライフは幕開けだっけか……。
「んで、ナベちゃん。悪魔の仕業ってほんとっすか?」
ベッドに腰掛けているのは、白髪の猫耳女ロウリィと、黒髪の犬耳女ナベリウス。
どちらも人間の女の姿になっている。
ナベリウスはさっきまで、親父の状態を見ていた。
「ノア様の父親は、悪魔に魂を奪われてしまっている状態だ」
「悪魔に魂うばわれると、おぎゃってしまうんすか?」
「おぎゃ……? まあ魂には記憶が刻まれてるからな。奪われると当然、記憶を喪失することになる」
「おぎゃーおぎゃーおぎゃー! おぎゃぁあああああああああああああ!」
親父が大泣きしだした。
「おなか空いたんすかね。ノア様、出番っすよ」
「やだよ! 何で俺が!?」
「ノア様のお父さんでしょ~?」
にやにやと笑いながらロウリィが言う。
くっそこの女、面倒ごとを俺に押しつけやがって……!
「まっま」
「ほらノア様のことママだって……って、ちょ!? なになになにぃ!?」
親父がロウリィにのしかかってくる。
「まっま! まっま!」
「ちょっ!? ままじゃねーっすよ! あこら、おっぱいでないから! の、ノア様ぁあああああああああ!」
親父がロウリィのおっぱいに吸い付こうとしていた。
「ばっきゃろう! それは俺んだ!」
俺は親父を風魔法でぶっ飛ばす。
壁に激突し、親父が沈黙する。
「の、ノア様……」
ぽーっ、と赤い顔をするロウリィ。
「わたしのおっぱい……ノア様のって……」
「お、おう……わ、わるいかよっ」
「え、えへへ~♡ ううん、いいっすよ~♡ ノア様にあげる~♡」
「い、いいのぉ~?」
「もちろーん♡」
「「えへへ~♡」」
はぁ……とナベリウスが溜息をつく。
「ところ構わずいちゃつくな、バカップルどもが」
まあ冗談はさておきだ。
「これからどーすんすか?」
「どーするもこーするも、元に戻すよ。うぜえしな」
しかし……とナベリウスが続ける。
「ノア様。悪魔に奪われた魂は、決して元には戻らないぞ。特にもう食べられたあとだと、仮に奪った悪魔を見つけ出したとしても手遅れだ」
「万事休すじゃないっすか~。どうすんの?」
うーん……どうすっかなぁ、と思っていたそのときだ。
「ノア! 大きな音がしたがどうしたんだ!?」
「おお、駄馬兄さんじゃないっすか」
俺の兄貴、ダーヴァが心配して駆けつけてきたのだ。
「最近駄馬兄さん見かけなかったから、死んだかと思ってたっす。生きてたんすね」
「おまえ……悪魔より悪魔っぽいこといってるぞ……」
悪魔にツッコまれる魔神。
「こ、これは……! 親父!」
倒れ伏す親父を見て、ダーヴァが抱き上げる。
「そうか……そういうことか……!」
ダーヴァが俺をにらみつける。
「ノア! 見損なったぞ!」
「「「え?」」」
俺、ロウリィ、そしてナベが、そろって首をかしげる。
「ノア……おまえ、親父を殺そうとしてたんだな!」
ダーヴァが俺に憎しみの目を向ける……。
「何勘違いしてるんすかねこいつ」
「まあ壁にひびは入ってるし、父親倒れてるしで、勘違いしたんだろうな」
ペットたちが解説する。
「確かに……確かに親父は! おまえを殺そうと刺客を送り込んだとは聞いた! でも! 親父はおまえの、家族じゃあないのか! それを殺そうとするなんて……! ノア! 見損なったぞ!」
「駄馬兄さん。落ち着いてっす。ノア様は別に……」
「くあっはっはっはー! その通りだぞだーーーーーーう゛ぁああああああ!」
俺はにやりと笑って言う。
「ちょ、ちょノア様!?」「ノア様もしかして……」
「親父を殺そうとしていたのだ……この悪の帝王、ノア・カーターがな!」
「「またかよ……!」」
まあ偶然だし殺す気もまったくなかったけど……。
でも、今は好機!
「ねえナベちゃん。これノア様、帝王ムーヴして嫌われようとしてないっすか?」
「どうみてもそうだろう……おそらくはダーヴァに嫌悪を向けられて、これはチャンスと思ったんじゃないか?」
「今それどころじゃないのに……なんでそんなことを……」
「馬鹿だから、新しい情報が入ると、そっちに意識が行っちゃうんだろうな……」
「ああ、馬鹿だから……」
馬鹿って書いてシングルタスクって読まないでよ!
しかしちょうどいい!
くく……俺が何もせずとも、嫌われるチャンスが巡ってきた!
親父の件は後回しだ!
「消えろ、我が父よ」
ぱちんっ! と俺は指を鳴らす。
どがぁあああああああああああああん!
「爆発魔法? 無詠唱の」
「だな。魔法名すら省略して、この威力。しかも怪我を追わないように、攻撃と同時に回復魔法を使ってる」
「無駄に技術力高いっすよね馬鹿だけど」
そう、この目的は別に、親父を殺すことにあらず!
自分の父をむごたらしく苦しめ、悦に浸る悪の帝王としてのムーヴを見せること!
「ノア! 貴様父上になんてことを……!」
「ふ、ふーーーはっはっはぁ! なにが父だ。ダーヴァ~……?」
にやぁ……と俺は笑う。
「こやつは俺のことを城から理不尽に追い出したのだぞ? 恨んで当然だろうが?」
「くっ……それは……確かにそうだが……!」
「それにおまえも、親父からひどい扱いを受けていたのではなかったか? ん? 貴様も恨んでいるのではないのかぁ、ダーヴァぁ~?」
「それ……は……」
くくく! いいぞぉ、駄馬兄を使っての帝王ムーヴ! 良い感じにはまってる!
「貴様も父親に恨みを抱いてるのなら、どうだ? 俺と一緒に親父を殺さないか?」
「そ、そんなことはできん……! おれは……おれ親父を……愛してる……!」
「はっ! これは傑作だ! 長く虐げられてきたというのに、愛してるだと? 子供を傷つけて何が父だ! 何が家族だ!」
「そ、それでも……おれは……おれはぁああああ!」
俺たちが熱い兄弟ドラマ(茶番)を繰り広げている一方で……。
「ノア様って時々闇が垣間見えるっすよね」
「厨二病は卒業したとかいってたのにな」
ペットたちはベッドに腰掛けてのんきに雑談してやがった。
「それでも親父は殺させない!」
「ならばどけダーヴァ。殺戮のショータイムを邪魔するようなら……貴様もそこのぼろぞうきんのようにしてやるぞぉ~?」
こんだけあおられればさすがの駄馬兄もぶち切れるだろう。
「き、さまぁあああああああああ! ノアぁああああああああ! 親父の敵ぃいいいいいいいいい!」
駄馬兄がツッコんでくる。
さぁって、ちょっと強めの魔法を使いますか。
ぱちんっ!
どがぁあああああああああああああん!
「ちょ、ノア様殺しちゃだめっすよ!?」
「わかってるって。ちょっと派手に見えるよう調整されてるだけだ」
爆煙の向こうに、誰かが立っている。
「双方、ケンカをやめよ」
「「お、親父ぃいいいいいいい!?」」
爆風で上半身が裸だけど、親父だった。
どうやら魔法を受け止めたらしい。
「うそぉ、治ったの!?」
「いや……ありえない。悪魔に魂を奪われた人間が、元に戻るなんて……」
親父が駄馬兄を見やる。
「親父! 逃げよう!」
ばしんっ! と親父が兄貴の頬をぶつ。
「お、親父……?」
「兄弟げんかは辞めるのだ。それにダーヴァ、ノアはわしを治そうとしてくれておったのだよ?」
「「な、なにぃいいいいいいい!?」」
驚く俺、と駄馬兄。
「いや駄馬兄はともかく、なんでノア様も驚いてるんすか」
だってそんな気さらさらなかったしな!
「そんな……ノア……そうだったのか……?」
「え? いや……ちが……」
「その通りだ、ダーヴァ」
親父が勝手に答えてしまう!
「どことも知らぬ闇の中で、ノアの声だけが聞こえていた。親父……戻ってきてくれ、親父……と!」
「ノア……おまえ……親父を戻そうと、そんなに必死で……!」
いやいやいや! なに感動のドラマ作り上げてるの!?
「幻聴っすよね」
「だな。夢と現実をごっちゃにしてるのだろう」
「てかこの駄馬兄さんも親父さんも結構馬鹿?」
「ノア様の家族だぞ? 馬鹿に決まってるだろ」
「ああ……やっぱね……」
えぐぐす……とダーヴァが涙を流す。
「すまん……ノア……おれが……おれが勘違いしたばかりに……!」
「いやノア様めっちゃノリノリで親父殺そうと演技してたっすよ?」
「馬鹿だから、そのあたり忘れてしまってるんだろう?」
「ああ、なるほど、馬鹿だから、感動のドラマによって、都合の悪いことが頭から抜け落ちてるんすか」
馬鹿って書いてシングルタスクって読まないで!
俺まで馬鹿みたいじゃん!
「てか頭打って記憶治るとか、壊れたテレビっすか」
「おそらくノア様の治癒魔法がきいたのだろう。攻撃魔法に混じっておいたやつが」
「それで不可能とされた魂の修復までしちゃうなんて、すげえっすわあの人……馬鹿だけど……」
さて……。
親父と兄貴が、俺の前で頭を下げる。
「ノア……すまなかった! わしが間違っていた! おまえを認める! おまえが王にふさわしい!」
「ノア! 親父を治してくれてありがとう! ありがとう、我が君よ!」
え、ええー……なにこれぇ~……。
「はい、自分を嫌ってた親父さんまで信者の仲間入りっす~」
「どうしてこうなったぁあああああああああああああああああああ!?」
書籍版、1月18日発売です!
アマゾンさまとかで予約受付中!
そろそろ書影とか公開してきます!




